第24話 その努力も、SUGEEE!

「ふふ、ふふふ……」


 顔をちょっとニマニマしているキアラがヒナと対峙する。俺に褒められたせいかニマニマしてる。分かりやすくニマニマしている。


「キアラ」

「分かってるわよ。油断はしないわ……絶対にアタシが助ける……!」


 いや、マジで無理しなくていいから!


「……そんで、また褒めてもらうから」


 ぼそっとそんなことゆう。

 いやいやいや! どしたの? キミ! そんな褒められたいの!? どんだけ褒めに飢えてんのよ!


「褒めるなんていくらでもしてやるから! 頼むから、無茶しないでくれ!」

「い、いくらでも……? ごくり」


 ごくりじゃねーのよ! 大事なのはそこじゃない!


「ほんと無茶するなよ。それに……俺たちではヒナの中のキングデーモンを倒すのは無理だ。お前もさっき言ってたろ……魂だけを攻撃しないとって……」


 そう。これが原作通りに出来る突破口。

 乗り移ったキングデーモンを倒す方法、つまり魂に関与する方法はいくつかしかない。そして、俺とキアラ、そして、外にいるであろうドウラではそれが絶対に出来ない。理論上無理なのだ。つまり、詰んでいる! ふははは! 俺たちでは詰んでいるのだよ! キアラ! どうだ、この理論パンチは! 俺たちはトレスの到着を待つしかないわけだ。


 なので、俺は今、さも思いついたような顔で提案する。


「は! そ、そういえば! トレスだ! トレスならきっと大神殿の秘術を学んで……」

「トレスを待ってる時間なんてないわ。帰ってくるか分かんないし」


 正論パァアアアンチ!


「だから……アタシがやるわ。」

「え?」


 ちょっと何言ってるかわからなかった。ので、ぼーっとキアラを見ていると、キアラが珍しく詠唱を始める。最近は略式詠唱で戦っていたのに珍しい。と、そんなこと言ってる場合じゃない! キアラが詠唱をしている以上は、時間を稼がないと! あんま原作にないことしないでは欲しいんだけど!

 俺はヒナに向けて声を掛ける。


「ヒナ! 大丈夫か! がんばって意識を保てよ!」


 黒い右手を押さえたヒナが力なく笑う。


「だ、大丈夫です……! ありがとう、ゴメスさん。ごめんなさい、迷惑ばかりかけるダメ女で」


 ネガティブがすごい。

 だが、マジで今ネガティブ禁止! そうなるとどんどんキングデーモンに浸食されちゃうから! 今の発言でキングデーモンの浸食率が上がったらしく分かりやすく肘のところまで黒く腕が染まる。


 ぴぎゃああああああああ! 待って! 待って! まだトレス来てないからあ!


「ヒナ! 大丈夫だ! 迷惑なんて思ってないし、お前がダメ女のわけないだろう! 迷惑はお互い様だし普段はヒナに頼ってばかりじゃないか。ほ、ほら、この前もドウラとシロが揉めた時、ヒナが仲裁に入った俺を助けてくれただろ。お前の声は優しくて落ちつく声だし、ヒナは話しやすい雰囲気だから二人ともしっかり話をしてくれて、ヒナも聞き上手でちゃんと聞いてやったら二人とも落ち着いただろ。あの時思ったね、ああ、ほんとヒナがいてよかったなあって!」


 俺は慌ててヒナへの褒めエピソードを思い出す。マジであの時は助かった。シロとドウラの喧嘩は最近ほんと多い。多分原作ならキアラがこの時点でトレスにベタベタしてて、怒りの矛先がキアラに向きやすかった。それがなくなったせいでシロとドウラのトレス取り合いからの喧嘩が増えた。そういう時は俺が仲裁に入るが、この前はちょっと色々ありかなりヒートアップしてヒナが助けてくれた。ヒナちゃん、マジ天使。


「そ、そうですか……」


 ヒナの青白い顔に少しだけ血色が戻る。そして、肘まで上がっていた黒い魔力がぎゅーんと手首まで減っていく。わかりやす!


「アタシだって……手伝うもん」


 おやあ? 俺の背後で詠唱を終えたキアラがなにやらぼやいている。いやいやいや、キアラさん貴方この前仲裁に入った時何しましたか? 

 喧嘩の仲裁に入ったはずなのに、一緒になって喧嘩し始めたよね。キアラの声は高いし、口調も強めだから色んな意味で盛り上がりやすいんだよなあ。ヒナとは真逆だ。


 そんで、何の一言がきっかけだったか忘れたがキアラが一番キレ始めて魔法まで使おうとするもんで、俺が必死で止めた。高熱の魔力の球体を掲げるキアラを必死で羽交い絞めした。めっちゃ熱かった。その間にヒナに説得と、とある魔法で鎮静化してもらった。まあ、二人もキアラがそんなキレると思ってなかったから、逆に冷静になれてたので早かったけど。


 キアラもかなり興奮していたが、最終的には落ち着いてくれた。だが、あの時はマジでヤバかった。

 そのことを思い出して、ジト目で振り返る俺。

 すると、


「キ、キアラさん……そのキアラさんを覆っている青白くて綺麗な魔力はなんですか?」


 今まで見た事ない……いや、キアラが発していることは見た事はない魔力の輝きがキアラを包んでいる。


「聖魔法よ。ヒナのを見た事あるでしょ」


 そう、聖魔法だ。聖魔法をキアラが使っている。


「ええええええええええええええええ!? SUGEEEEEEEEEEEEEEEEEE!」


 俺は思わず叫んでしまう。え、マジで? え、マジで? え、マジで?


「せ、聖魔法って……光魔法の亜種で、聖属性を持つ者しか使えない魔法じゃねえか! なんでお前が!?」


 そう、聖魔法は光魔法と違い、選ばれたものしか使えない。聖女とかそういう特別な存在しか使えない魔法だと言われていたのにキアラが使っている。キアラを見るとちょっと口をもにゃっとしてる。


「努力したらできるようになった」


 そっかあ。努力かあ、努力ってすごいなあ。努力で使えるようになったのかあ。

 って、努力!?


「SUGEEEEEEEEEEEEEEEEEE!」

「ちょっと、ゴメス……その、ありがと」


 キアラが照れている。いやいやいやいや!


「いや、凄すぎだろ! しかも、お前、それ聖魔法の攻撃魔法だろ!? ヒナもまだ使えない奴じゃねえか、なんで出来るんだよ!」

「努力」

「努力SUGEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!」


 ちょっとキアラちゃん頑張りすぎじゃない? 聖魔法は基本的に人を救済する魔法だ。

 だから、心を落ち着かせるや状態異常を回復させる魔法がほとんど。ヒナが使えるのもそういった所謂補助的な魔法。聖属性の攻撃魔法は格段に難しいのだ。キアラが魔法の天才だからと言ってそう簡単に覚えられることではない。


「ねえ、ゴメス、アタシ、すごい?」

「SUGEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!」


 これは素直に称賛せざるを得ない。そして、褒められたキアラちゃん嬉しそう。かわいい。


「私だって、そのくらいすぐに出来るようになりますもん」


 おやあ? 後ろでヒナさんの声が聞こえた気がするぞお。え? なんだって?

 振り返るとヒナがほっぺたを膨らませて怒ってる。え? 怒ってる?


「ヒ、ヒナさん?」

「確かにキアラはすごいですけど……私だってそのくらいすぐ出来るようになるもん」


 うん。なんかおこってる。なんか怒ってるしなんか起こってる。

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