第20話 この現在、YABEEE!
「じゃあ、オレ達はこれで。仲間を助けに行きたいので」
「ええ!? あの一瞬で魂の秘法を覚えたのですか!? 我々が百年かけて必死になって編み出した秘術を……。す、すごい!」
「え? は、はい。すみません。仲間が待っているんで、急いでまして」
「ええ!? す、すごすぎる……!」
ゴメスたちがヒナを見てくれているけど、この前の連絡の感じだとかなり状況は悪そうだ。ヒナの中にいるキングデーモンがヒナの意識を奪おうとしているらしい。
ヒナ……。
オレはヒナと別れた時のことを思い出す。
『ヒナ、オレが必ず君を救うから。それまで待っていてくれよな』
『トレス……はい。ありがとう、私、貴方を待っています』
ヒナがオレのあげた聖母が刻まれたペンダントを握りしめて笑う。
うん、きっと大丈夫。このペンダントがオレとヒナの想いを繋いでくれるはず。
『ヒナ……ヒナは自分の事を役立たずって言ってたけどさ……オレはそんなことないと思うよ。オレはヒナが笑ってくれてるだけでいい。それだけでオレは戦えるんだ』
『え……』
あれ? オレ、なんか変なこと言っちゃった?
うわあああ! オレ、何告白みたいなこと言ってるんだ!?
やばい! 顔が熱い! ヒナの顔もなんか赤いし!
『じゃ、じゃあ! オレ行ってくるよ!』
『トレス! ま、待ってます! 私、いつまでも!』
オレはヒナと別れた時の事を思い出して、拳を握る。
「ヒナ……すぐに助けに行くからな」
「トレス! なにぼーっとしてるの!? いくわよ!」
キアラがオレの腕に抱き着いてくる。なんかすごくやわらかくていいにおいなんだけど!?
「もう! ヒナのことばっかり考えてないで、アタシの事も見てよ……ばか」
そんなことを言うキアラ。かわいいなあ。まあ、昨日あんなことしちゃったし、責任はとるつもりだ。それにしても……。
「ん? アタシ見て、どうしたの?」
「いや、昨日のキアラかわいかったなあって」
「~~~! ばか! えっち! すけべ!」
顔を真っ赤にしてオレをたたいてくるキアラ。でも、本当にかわいかった。まさか外れスキルのオレがこんな可愛い子とあんなことが出来るとは思っていなかった。それに、キアラの方がすごくえっちだったと思うけどな。おかげで寝不足だし。
「早くヒナを助けに行くわよ!」
おっとそうだった。ヒナを助けにいかないと。
「ええ! もう行くのですか? 今からだと夜になってしまうのでは?」
大神殿の人がオレにそんなこと言ってくるけど、大丈夫なんだよな。
「大丈夫です。オレ、【カット&ペースト】っていうスキルを覚えたんで」
「ええ!?」
このスキルは、昨日キアラとその……そういうことをしちゃったら何故かスキルが覚醒したんだよな。このスキルは外れスキル【コピー】の進化の一つみたいで、要は『その存在を切り取って、別の場所に張り付けることが出来る』らしい。
「じゃあ、ありがとうございました。【カット】!」
「ええ!? 消えた!? す、すごい、すごすぎる……」
オレが【カット&ペースト】を使うと、大神官の人が驚いていた。
ただの外れスキルなのに大げさな人だったなあ。
「【ペースト】!」
オレがそう叫ぶと、ヒナのいる教会に到着する。すると、教会の前で倒れている人が。
「う、うう……トレス、か……?」
ゴメスだ! すごいボロボロで血だらけだ。骨も折れているようだし、一体誰に……。
「ゴメス! 誰にこんなにやられたんだ!?」
「ヒ、ヒナだ……」
「ヒナが!? そんな馬鹿な……」
ヒナが? そんな馬鹿な……。あのやさしいお姉さんなヒナがそんなことするはずない……。
「ヒナがそんなことするはずないだろう」
「いや、アレはきっとヒナの中にいるキングデーモンの仕業だ。とうとうヒナの心を奪ったみたいだ。ヒナはすごい魔力を持っていたからキングデーモンの呪いでパワーアップしたに違いない。今、シロとドウラが抑えてくれているが、アイツらでも勝てるかどうか……それにヒナを直接攻撃したらヒナが傷ついてしまう。なんとかキングデーモンの魂だけを攻撃できれば……は! そういえば、トレス! 大神殿の秘法は、こんな早く帰ってきたという事はダメだったのか……」
「え? いや、オレのコピースキルでコピーしてきたけど」
「ええええええええええ!? すげえええええええええええええええええええ!」
「あと、早く帰ってきたのは【コピー&ペースト】っていうスキルで覚えている場所なら一瞬で帰ってこれたからだけど」
「ええええええええええええ!? すげええええええええええええええ!」
ゴメスが驚いている。でも、オレの外れスキルで使えるんだからそんな難しいことじゃないと思うけどな。なにをそんなに驚いているんだろうか。ゴメスはおおげさだなあ。
「で、でも、そんなすごいスキルをどうやって覚えたんだ?」
「それは……その……キアラと昨日ごにょごにょ……」
オレが恥ずかしくなってゴメスに耳打ちするとゴメスは更に驚いた。
「えええええええええ!? キアラとあんなことやそんなことを一晩中!? う、うらやましいいいいいいいいいいいいいいい!」
オレがゴメスに言ったせいかキアラがオレをポカリとたたいてくる。そんなところもかわいいなあ。
「うわあああああああ!」
「きゃあああああああ!」
教会の中からドウラとシロの悲鳴が聞こえてくる。
「今のは、ドウラとシロの悲鳴!?」
「キアラ、オレがなんとかするから、キアラは此処にいるんだ」
「わかったわ!」
オレは気合いを入れ直し教会の中に飛び込む。
「お、俺も行くぜ、トレス!」
「わかった!」
ゴメスと一緒に教会の中に飛び込むと、元々荒れ果てていた教会はもっと荒れ果てていた。
そこらじゅうが血まみれでボロボロだ。
そして、ドウラとシロが倒れていた。
「ドウラ! シロ!」
「お、おお……トレスやっと戻ってきたか。待ちくたびれたぞ」
「ごめん、オレが遅れたせいで……」
「ふふふ、いや、お前なら帰ってきてくれると信じていたぞ」
ドウラがオレの手を取って笑う。
「トレス、おかえり」
「ああ、シロ。ただいま」
「トレス気を付けてね。今のヒナはヒナじゃない」
「わかってる」
オレは、教会の奥にいるヒナを見る。ヒナはいつものヒナじゃなくて、真っ黒な髪で瞳は赤い。まるで悪魔のようだ。
「儂とシロの二人がかりでもこのざまじゃ……トレスが来てくれたが果たして勝てるかどうか」
「なに!? ドウラとシロの二人がかりでも全然かなわなかったのかよ! ドウラはウチで一番の力の持ち主だし、シロはウチで最速の殺し屋。力も早さも桁違いじゃねえか! そ、そんなの勝てるわけねえよおお!」
ゴメスが泣き叫んでいる。確かにこの状況はやばい。だけど、不思議だ。
「お、おい……こんな状況でなんでトレスは笑ってるんだよ」
「ふふ……不思議だよね。でもな、オレは、ヒナを助けると決めたから」
そうだ。オレはヒナを助けると決めたんだ。
だから、絶対に負けないんだ!
「ククク……帰ってきたか、強き者ヨ……この娘の心ならば、ワタシが奪ってしまったぞ……心の弱い娘だ……お前達との差が開いていく自分が辛くて……苦しんでいたゾ……だから、ワタシが力を与えてやったのダ!」
ヒナの中にいるキングデーモンがオレに言ってくる。ヒナ……そんなことに悩んでいたのか……!
「クハハハ! 闇の力に覚醒したこの女の力で、悪魔界最強となっタ! 貴様は終わりダ!」
「やばい! アイツの闇魔法! この教会なんか吹き飛んじまうほどの巨大な魔力の塊だ! 大変だ! トレス! 大変だぞ! アレは!」
ゴメスが叫んで逃げ回っている。確かにすごい、けど……。
「そこまでかな?」
「へ?」
「クハハハ! シねぇえええええ! 最上級闇魔法! 漆黒の闇の悪夢〈ダークブラックナイトメア〉!」
真っ黒の巨大な魔法がオレ達を襲う!
「ああああああああ! もう終わりだあ!」
「やだよ! ボクまだトレスとキスもしてないのに!」
「儂もトレスとまぐわりたかったあああああ!」
「【カット】」
「「「「え?」」」」
オレはキングデーモンの最上級闇魔法を切り取った。
「き、貴様! 何をしタ!?」
「え? 何をって、【カット】で切り取ったんだけど?」
【カット】は存在を切り抜く魔法だ。だから、最上級の闇魔法でも切り抜ける。
だから、切り抜いただけなんだけど、みんながポカーンとしてる。
「トレス、すげええええええええええええ!」
「き、切り取っタだと!? じゃあ、ワタシの漆黒の闇の悪夢はどこに……」
「ああ、返すね。はい【ペースト】」
「ウワアアアアアアアアアア!」
オレはカットした最上級闇魔法を張り付けて飛ばす。
すると、キングデーモンは慌てて躱す。
どがあああああああん!
「なあああああああああああああ!」
最上級闇魔法はキングデーモンに躱されて教会が吹っ飛んだ。
でも、大丈夫。あとで、さっきコピーした大神殿をここに作れば大丈夫。
「ククク……なかなかやるな……だが! この娘の身体は傷つけることは出来マイ!」
「く……!」
確かに……ヒナの身体を傷つけるわけにはいかない。キングデーモンめ……卑怯な手を。
「フハハハ! 人間如きが調子に乗るナア! 心の弱い人間ごときがナア! ……グ!? な、なんだこの女……まだ抵抗ヲ……!?」
キングデーモンの様子がおかしい……! もしかして、ヒナが!?
ヒナの首元で何かが光ってる。アレはオレがあげた聖母様のネックレス?
「ま、まさか! ヒナのトレスへの愛がキングデーモンの浸食を邪魔しているのか!?」
「本当か!? ゴメス!」
「あれを見たらそうとしか思えねえよ! ヒナはお前の事が好きなんだ! ネックレスもくれた強いお前の事が!」
ヒナ、そんな風にオレを思っていたなんて。
「ト、トレス……私が弱いせいで、ごめんなさい。私がもっと強ければ……!」
「……強くなくてもいい」
「え?」
オレは自分の右手に魔力を込める。
「ヒナは強くなくてもいい。だって、オレが守るから! ヒナは笑ってくれていればそれでいい!」
オレがヒナを救うんだ! オレは身体中に溢れてくるこの気持ちを魔力に変えていく!
「トレス……! うう!」
「クハア! 女が邪魔をするナア! さあ、どうする!? 強キ者よ! この女を傷つけるわけにはいくまい!」
「そうだな……だから、オレはお前をだけを倒す!」
「トレス! そんなの無理だ! アイツは魔力体だぞ! つまり魂の存在だ! 俺たち実体を持つ者ではアイツを倒せない!」
「いや、出来る! オレは大神殿で魂の秘法をコピーしたんだ!」
「えええええ!? 魂の秘法を!? トレスすげえええええ!」
「それで、オレは魂の秘法とコピースキルで、自分の魂をコピーする!」
「うわあああああ! 半透明の魂状態のトレスがコピーされたあああ!?」
「魂だけのオレよ! キングデーモンを倒せ!」
魂のもう一人のオレがキングデーモンに向かって飛び込んでいく。
「うわわわ! 来るナア!」
キングデーモンが暴れて闇魔法を放ってくる! 無駄なことを!
「【カット&ペースト】!」
オレは、飛んでくる魔法を全部カットしてペーストして相殺する!
「トレスすげええええええええええええ!」
「何故だ! 何故ダァアアアアアア!」
「お前だけは絶対に許さないぞ! キングデーモン!」
魂のオレの拳がキングデーモンに突き刺さり、キングデーモンが死んでいく。
ヒナの身体ももとに戻っている。よかった、うまくいったみたいだ。
「トレス……?」
「ヒナ……良かった。ヒナはやっぱり笑った顔が一番だよ」
「トレス!」
ヒナがオレに抱き着いてくる。オレはヒナを抱き返して、オレがずっと守ってやると誓った。
はい。
これが原作。
大神殿へ向かったトレス、原作以上に遠いので時間がかかってる。
キアラとくんずほぐれつでカット&ペーストを覚えたトレス、キアラはいないし、シロの好感度もマックスではないので多分覚えない。
おんぼろの教会で己の弱さに打ちひしがれるヒナ、綺麗で悪魔対策ガンガンの教会でそれなりにへこんでるヒナ。
戸惑う俺、ゴメス。
はい。
これが現在。
さあて、どうしよっかなあ。
「ヒナの様子が少しおかしいのじゃ!」
「ゴメス! お願い、ヒナを助けて……ゴメスなら……!」
キアラのすがるような目に俺は頷き、ヒナの元へ。
部屋に入るとヒナの髪がうっすらと黒く染まり、手が震えているように見える。
俺も震えている。
さあて、どうしよっかなああああああああ!
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