第19話 その原作なんだ、KEDOOO!

「皆さん、すみません……私の心が弱いせいで……」


 力なく笑うヒナ。

 ヒナにとっては家ともいえる教会の前でこんな表情を見せるのはやはり弱っている証拠なのだろう。ここまで来るのに原作より凄い時間かかったけど。


 教会も原作よりも凄い豪華なところだけど。原作の教会は別の街で寂れた教会という描写があり、その信仰心の薄さがヒナの心を弱らせ、キングデーモンの力を強くしていたけど。この街の教会はとても豪華で綺麗だけど。人々の信仰心も厚く、教会の人達もすごく優しいけど。わざわざ邪気払いの様々な対策をしてくれた個室を用意してくれたけど。そんな教会だけど!


 原作とは違うが教会は教会だ。それ以上でもそれ以下でもない。

 だからきっと大丈夫だ、うん。


「ヒナ……気を強くもつのじゃぞ……」


 ドウラも戦闘では強気だが、心が弱ってしまったヒナに対してはどうしていいか分からず、不安げに励ます。


「ヒナ! 大丈夫よ! トレスがなんとか出来なかった時は、アタシ達が悪魔をぶっとばしてやるわ!」


 キアラが最近どんどん脳筋と化している希ガス。


 だが、流石にヒナが心配なのか、言った後に少し不安そうな様子を見せ、胸に置いていた手をきゅっと握りしめる。まあ、やっぱり優しい子なのだ、キアラは。


「だ、大丈夫よ! ね、ゴメスがいればなんとかなるわよ!」


 そして、俺の心臓には優しくない子なのだ。

 俺はゴメス。ただの敵の強さを分かりやすくするために最初にぶっとばされ、その強さを解説するだけの役目だ。それ以上でもそれ以下でもない。


「ふふ……本当に、キアラとゴメスさんは仲良くなったわね。その指輪、キアラによく似合ってるわ」


 ヒナが漸く小さくも笑ってくれた。

 だが、俺には笑えない。

 キアラが嬉しそうにはにかんで指輪を触っている。

 俺には笑えない。


 あの指輪を今、キアラが嵌めているのは原作通りだ。

 だが、その過程が全く原作通りじゃない。




 まず、本来ヒナ編を解決してから行うはずの回が3つあった。

 温泉宿料理対決編、これはほのぼのギャグ回。


 原作と違って、ヒナがキングデーモン効果で参加せず、ヒナの代理で俺が出た。

 ゴメス・キアラチーム対シロ・ドウラチームで対決。審査員は勿論トレス。


 本来であれば、好感度を高めたヒナ・キアラの愛情パワーで大勝利を収めるのだが、まず、キアラがトレスに対して好感度が低すぎた。なので、原作通りの結果になるよう俺必死に料理。THE・男の料理となったがなんとか勝利。

 そして、キアラの好感度が上がる。俺に対して。


 次に、正義と悪編。

 これはこのあとのシロ編に関わってくる重要な伏線ストーリー。

 同情の余地があるように見える罪人をどう裁くかが焦点になる物語で、トレスが最後まで謝りながらも罪人を捕まえ、正当な裁きを受けさせる話。


 だが、本来覚醒し聖女として正義に燃えるヒナがいて悪に対し強く出るという要素がまずない。その上、トレス苦手派筆頭のキアラさんが、トレスの意見に疑問を持ち反論。まあ、トレスの意見は次の話の為の伏線づくりっぽくて強引さがいなめずトレスが折れて結局その罪人は見逃されそうになった。


 ただ、そうはいかせない! いかせたくない!


 この罪人は同情を買うような事を言うが、実はそれは嘘話でやっぱりトレス正しかったねやったー! というとってつけた話がこの後出てくるのだ。


 なので、ここで捕まえておかないと後々ややこしいことになる。


 だから、ゴメス頑張りました!


 言葉巧みにキアラを説き伏せ、トレスに論理的におかしい部分を軌道修正させ、ヒナに少しでも自分の意見を言うよう促し、多少後々明らかになる情報を小出しにして、全体的に『やっぱよくないんじゃね?』空気にもっていった。

 それに逆上した罪人がしゃしゃる俺に襲い掛かりキアラさんにボコされ、キアラも罪人裁く派に加入し、一件落着。


 多分。

 まあ、色々違ったけど!



 そして、最後に、みんなでお買い物編だ。これが問題。

 これは今いる街で、みんなでお買い物に行きキャッキャする回だ。

 ちなみにゴメスはキレイなお姉ちゃんのいる店に行き、すっからかんになり怖いお兄さんにぼっこぼこというオチ要員。


 キャッキャするのだが、この回でトレスが誕生日であるキアラに買ってあげる指輪が後々重要になってくる。なのに、キアラもトレスと一緒に買い物に行かなかったので速攻フラグブレイク。

 なんだったら、キアラがゴメスを買い物に誘ったせいで、お姉ちゃんのお店に行けなかった。

 くそう。


 なので、俺はキアラの隙を見て、こっそりそのアクセサリーとかを購入。

 そして、その後合流したトレスに『キアラが欲しがってたぜ』と言って渡すよう促したのだが、主人公トレス君。俺が渡すよう言った指輪を受けトラヌ。そして、自分で選びに行くと言い出すコミュデキヌ。


『プレゼントか……やれやれ……オレなんか外れセンスなんだけどなあ……』


 謎の台詞。

 外れセンスなら人に頼れ。

 あと、ため息つくな。

 その思いをぐっと堪えトレスの買い物の同行。


 トレスはマジで外れセンスだったが、途中で目利き商人の【鑑定】をコピー。これは実は原作通り。急にハイセンスになったトレスが選んだキアラへのプレゼントは確かにとんでもなくお洒落でいいものだった。


 だが、


「え!? トレスありがとう! うれしいわ!」


 以上。


 原作では、


「トレス……アタシの為に……ありがと……あの、アタシ、これ一生大事にするね……」


 となる。この時の挿絵が死ぬほどかわいい。だが、その表情をここで見ることは無かった。

 ここでは。


 その後、俺が誰とも分らぬようにキアラに指輪が届く様手配した。

 もうマジこの方法しか思いつかんかった。ちなみに、カモフラージュで『俺からのプレゼントだぜ!』と、セクシー下着をプレゼントしておいた。燃やされた、俺が。

 こうして、なんとかキアラの元に誰からか分からん指輪が届いた……のだが、俺はキアラを甘く見ていたらしい。


『ゴメス……これ……ありがと……あの、アタシ、これ一生大事にするね……』


 その後、死ぬほどかわいいキアラに言われてしまう。


 キアラは、誰がくれたのか異常に知りたがり、ヒナ達と一緒にしらみつぶしに調べつくしたらしい。そして、明らかになるゴメス購入履歴。店のおっさんがこっそり買ってたと吐きやがったらしい。それによってバレたのだ。


 まあ、キアラは原作通り指輪を装備しているからヨシ!

 原作通りじゃないけど!


 ちなみに、結局俺はアクセサリー代とセクシー下着ですっからかんのボロボロになったので、原作通り。



 と、まあ、色々原作通りじゃないけどものすごく原作通りにするためにゴメスは頑張った。

 がんばったゴメス。


 それ以降なんか異常にキアラが俺にプレゼントをしてきて、俺もさすがに何もあげないわけにはいかず謎のプレゼント交換が続いているけど。


「ふふ……二人を見てたら、やはり人の愛とは素晴らしいと思えるわね」


 そんなことをいうヒナさん。その台詞は原作にはあったけど。

 原作は『二人』じゃなくて『トレスさん』だったけど。


「私、悪魔に負けないように頑張るわ」


 そんなこというヒナさん。その台詞は原作にはあったけど。

 原作は『ゴメス達に』じゃなくて『トレスに』だったけど。


「じゃあ、行ってきます」


 そんなこと言うヒナさん。その台詞は原作にはあったけど。

 原作はそんな柔らかい表情の描写なかったけど。


 それでも、原作っぽい流れになっている。

 けど、


「頑張って! アタシもゴメスと一緒に頑張るから!」


 そんな台詞はキアラさんになかったんですけどぉおおおお!?

 それに!

 キアラさんを見下ろした時にチラ見えしているのが、セクシー下着なんですけどぉおお!

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