第13話 この主人公の語彙力、SUKUNEEE!
「うおおおおお!? この猪どもとんでもねえパワーな上に動きもはええ! その上で雷まで放ってくるのかよ!」
「うおおおおお! 流石天才シーフのシロ! すぐに気づいて罠魔法掛けるなんてSUGEEE!」
「うおおおおお! ドウラの炎SUGEEE! 猪どもが怯えてやがるぜ!」
「うおおおおお!? 猪どものボスのキングボアか!? あの猪達だけでも苦戦したのに、3倍以上のデカさだし、とんでもねえ雷を纏ってるし、ふごふご言って怒ってやがるんだがあ!」
「うおおおおお! キアラの魔法SUGEEE! 敢えて、キングボアの足元を狙い撃ちしたのか!? しかも、目と鼻の孔と同時に! こりゃあキングボアも動けねえぜ!」
「うおおおおお! トレス、お前、シロとドウラとキアラの魔法をコピーした上で獣王が十年掛けて編み出したという体術も完璧にコピーしちまったのか!? それを組み合わせた技を!? SUGEEE!」
「ゴメス、もう終わった。うるさい」
キアラにしかられる戦闘解説係、それが俺、ゴメスだ。
確かに俺は攻撃力皆無だ。
だが、俺がいなければ、君たちの活躍はドガア、バキイ、ドオン! で終わっちゃうんだからね!
なんてことは言わない。言ってどうなる。は? それでいいじゃないで終わりだ。
そう、現実世界で解説役なんていらない。誰かに見せて戦っているわけでもなし。
だが!
俺は知っているこれが【はずコピ】という物語の中だということを!
ちょっとこの前色々あったがそれでも物語は進み続けている以上、俺はゴメスるしかないのだ!
「いやいやいやいや! お前ら成長しすぎだろ! シロは罠魔法に加えて、どんどん暗殺術みたいなの覚え始めて和の国のシノビみたいだし」
これは後にトレスにYOBAIをかける技術という伏線に繋がっていく。
「ドウラは、竜の隠れ家で許可をもらってきてからは、吹っ切れたみたいに炎を吐くわ。黒竜の技かなんか知らねえが影になって移動とかし始めて物語の竜王みたいだし」
これも後にトレスにYOBAIをかける技術という伏線に。
「キアラは、三点同時攻撃魔法やら自分の身体能力を上げる魔法とかマジで色んな魔法が使えて大賢者クラスだし」
これも後にトレスにYOBAIをかける力に。
「そんでもって全部こういうスキルを強化したのがぜーんぶトレスのコピースキルなんだから凄すぎるよなあ! さっきも獣王が苦労して編み出した技を一瞬でコピーしてたもんなあ」
そして、すべてはトレスAGEの為に!
「いやあ、オレのはただの外れスキルで……」
あ、あ、あああああああああああ!
俺が転生して最近一番キツいのがこれだ。
トレスがマジでコレしか言わない。
なんというか、褒め甲斐がない!
前世のクラスメイトを思い出す。
『△△、お前テスト100点かよ! すげーな!』
『いやいや、そんなことないよ。全然すごくないよ』
『いやいやすげーって。問8なんてマジで全然解けなかったわ、俺』
『いやいや、こんなのちょっと頑張れば×××でも解けるって』
『……いや、すげーって!』
『いやいやいや、マグレマグレ』
褒めれば褒めるほどこっちが惨めになるってどういうことって感じだった。
100点とったヤツが大したことないとか言い始めたら、俺たち100点とれなかったぜいはどうなる? すごく大したことのない馬鹿になる。
トレスのもそう。外れスキルだから自分は大したことないとか言いながら、めっちゃモンスターを目の前で倒されたらどう思う? 俺たちは外れスキルにも勝てない雑魚になる。
トレスは天然なんだろうが、段々イライラしてきた。
今までのゴメスにはなかったことだ。
何故こんな感情が生まれ始めたか。
答えは……
「ねえ、ゴメス……今日のアタシ、どうだった?」
金髪ツインテツンデレ美少女キアラちゃんがちょんと俺の袖を掴み、今日の出来を聞いてくる。うん、かわいい。
「あー……そうだな! さっきも言ったけど、三点同時攻撃がマジで正確すぎて、え? どれだけ練習したん? って感じで、マジで感動したし、身体強化魔法で戦ってるときは、前衛としては頼もしすぎたね。俺ら前衛や後衛の動きも計算しながら魔法使ってくれててすげえ頼もしかった」
俺は出来るだけ長くしっかり聞かせないように早口で褒める。出来るだけ早く!
「ん、んふふ……そっか、うれし」
はい、かわいい。
両手で金髪ツインテをいじりながら照れているキアラ様はもう人間国宝である。
拝んでおこう、ありがたやありがたや……。
「なんで、手を合わせてるの!?」
「いや、尊くて……」
「もう、ばか……! その、ゴメスも前衛で敵を惹きつけてくれてアタシたちに攻撃がいかないようにしてくれてかっこいいなと思ったし、アタシたちを一生懸命応援してくれてたりしてやさしいな、ってその、思ったから、ありがと……!」
はい、KAWAII。
金髪ツインテをなびかせながらぴゃーっと駆けてゆくお耳真っ赤ツンデレ女神である。
あとで課金しておこう。
と、これが理由だ。
つまり、キアラが最近、自分の出来を聞いてくるようになり、それを褒めると、褒め返す、もしくは、お礼を言ってくれるのだ。
これを先ほどのトレス君と比較したらどうだろうか。君ならトレスとキアラどっちを褒めたい? 後者だよなあ。
比べる対象が出来てしまうと、悲しいかな人間は比べてしまう。
だから、徐々にトレスの『俺は外れスキルだから』にイライラし始めてしまう。
そして、それは俺だけでなく、
「キアラ、さっきの魔法、すごいすごかったよ! 凄いね、キアラは」
「あ、う、うん、ありがと」
おい、主人公語彙力。
トレスの誉め言葉は「すごい」「かわいい」「綺麗だ」の三つだ。後ろ二つは女性限定だし、すごいは最終的に毎回トレス自身の『すごい』が逆転するので、正直、嬉しさがない。
キアラも最近『ゴメスって褒めるの上手だよね』とか言って、誰かと比較しているようなことを言うし、トレス君には頑張ってもらいたい。
「ふむ、儂が故郷に帰っている間に何やら面白いことになり始めたのう」
「ま! ボクとしてはライバルが減って嬉しいかな~」
ドウラとシロがのんきそうにそんなことを言ってこっちを見ている。
そう、最近、キアラの好意が俺に向き始めている気がする。
勿論、それが恋愛感情ありとは言い切れない。
だが、ことあるごとにどうだったかと聞いてくる。
そして、あまりフラグを立てすぎないようにと俺が敢えてよくなかったとうそを吐くと……
「そっか……、うん! でも、アタシ、がんばるから」
いやいやいやいや! 無理無理無理無理!
こんなちゃんと頑張って努力している子を否定するなんてむり!
一発で心が折れ、それからは正直に誉めるようにしている。
それにまあ、大丈夫だろう。
一人が多少トレスの語彙力のせいで離れたとしてもヒロインはまだ三人。
彼女らがトレス好きーでい続けていれば、キアラの心もトレスに戻るかもしれない。
トレス、頑張って語彙力増やせ。
俺は俺で頑張るから。
そう心に決意を秘め、俺は『彼女』を見る。
「はあ……」
次のイベントのヒロイン。先ほどの戦闘で全く活躍できず溜息を吐く聖女ヒナ。
彼女がトレスと物語通りくっつくのを応援するのだ!
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