第8話 その金髪ツインテ、TSUNDEREEE!・後編

「ゴメス……あんた……!」


ルビーの瞳に映るスキンヘッド男ゴメスこと、俺の姿はボロボロで不細工だ。

ウケる。


だけど、俺はコイツから、キアラから目を離してやらねえ。


お前に言ってるんだと、本当なんだと理解できるまで絶対に離さねえ。


「いいか、何度でも何度でも言ってやる! お前はSUGEEE!」


俺は背中にオークからの攻撃を喰らいながらも必死でキアラに伝える。

人生の中で一番必死だ。

だって、今、体勢だけで言えば、俺キアラを押し倒してるみたいな絵だからね!


腕を掴まれていたキアラを取り戻したものの、オークから囲まれているのは変わらず、あっという間に袋叩き。

魔法使いであるキアラの防御力じゃああっという間にやられる。なので、俺がとった方法はキアラの上に覆いかぶさりキアラを守るというもの。


金髪ツインテちゃんの上に四つん這いになっているスキンヘッドおじさん、それがゴメスだ!


……いやぁあああああああああ!


違うんです違うんです! おまわりさん違うんです!

キアラがなんかかわいそうだったからおじさん助けたかっただけなんです!

とはいえ、ゴメスの攻撃力なんてほぼ皆無。

ただただ肉壁になって守る事しか出来ない。


まじめちゃんキアラちゃんは有難いことに四つん這いおじさんの思いをちゃんとくみ取ってくれた。


「ゴメス、あたしを庇って……」


悲しそうに瞳が揺れている。


ツンデレってのは素直になれない奴だ。

思春期男子が『お、オレ、別に女子に興味なんかねーし』とか言ってるのと似てるがちょっと違う。


自分に自信がないけど、自分を見て欲しい。

そういうコミュニケーション下手なヤツ。


全員が全員がそうじゃねえけど、少なくともコイツはそうだ。


なら、俺が出来る事は……褒めて褒めて褒めて褒めて自己肯定感あげまくってやらあ!


「いいか! お前の努力はすげえ! トレスは別の意味ですげえ! すげえのはそのスキルと魔力の量だ! お前がすげえところはどこだ? お前は努力して何を手に入れたんだよ! お前の一番すげえところはなんだ?」

「わたしの、一番、すげえ、ところ……?」


キアラが自分の手をじっと見つめている。そうだ、お前の努力を積み重ねてきたものを、信じろ……!


「お前ならやれる! おじさんにはこいつら倒せねえからよ。……お願い、キアラちゃん」

「……ふふ。ふん、しょうがないわねえ」


キアラが魔力を練りはじめ、青と白の混じった光がキアラの元に集まり始める。

その魔力はトレスのような巨大で大量の柱を作る……わけではなく、細い細い氷の……。


「へっ、そんな繊細な魔法。お前にしかできねえよ。やっちまえ! キアラ」

「〈アイスニードル〉!!」


氷の針が俺の背中を叩き続けるオークに向かって飛んでいく!


「ぷ……ぎゃああああああああああああ!」


キアラの魔法を喰らったオークの絶叫でオーク共の攻撃の手が緩み、俺はようやく四つん這いから解放され状況を確認する。

動揺するオーク共の視線の先には、倒れて動けなくなったオークが。

眼には氷の針が深々と突き刺さっている。狙い通りだ!


「はっはっは! やるじゃねえか! キアラ、そんな細くて鋭い針を、オークのちいせえ目にぶっ刺すなんて繊細な芸当、お前にしか出来ねえよ! お前の魔法技術は誰よりすげえ!」


俺がキアラの方に向き直ると、キアラは一瞬呆けた顔をするが、すぐににやりと笑う。


「当然よ! 見てなさい! こんな奴らあっという間にやっつけてやるんだから!」


そう言ってキアラは再び氷の針を作り始める。今度は十何本も同時に!

やっぱりすげえ!


そう、キアラの凄さは、与えられたスキルや魔力量じゃなく、氷の柱をハンマーに、しかも、殺さないが痛みは感じる程度の勢いで振り下ろせるその繊細な技術だ。


それを使えば、こういう芸当だって出来るわけだ。

そして、こんなやり方、あのトレスには出来ない。


だが、キアラの氷の針の危険性を察知してか、慌ててオーク共が一斉に襲い掛かってくる。


「こりゃあ、ちょいと距離とる必要があるなあ!」

「え? ちょっ……!」


俺はキアラを抱えてオーク共から距離を取り始める。


「ちょっと、ゴメス!」

「うわ! 軽っ! 腰細っ! お前、顔もいいけどスタイルもいいって思ってたがマジですげえスタイルだな! くそう! 美少女は最強かよ! でも、もっと食った方がいいぞ! お前の飯食ってる時の笑顔強烈にSUGEEEかわいいし!」


肩に乗せたキアラがマジで軽すぎてびっくりする。

細すぎる! けれど、まあ、どすけべおじさんは口には出しませんが、身体自体は骨ばってる感じではなくやわらかい! そして、とってもいい匂いがします! 同じもん食ってるはずなのに! まあ、飯食ってる顔も美女と野獣って感じだし、根本から違うんだろうなあ!

そんな事を考えながら走っているとキアラがぷるぷる震え始める。


「う、う、うるさああい!」


キアラが暴れて飛び降りる。そして、俺をあの気の強そうなルビー色の瞳でキッとにらみつける。


「あんたなんなの!? 馬鹿なの!? ぺらぺらぺらぺら! この……ぺらぺらはげえ!」


ルビー色の瞳くらい真っ赤な顔で怒るキアラ。

やばい、この状況で怒らせるわけには! 向こうからオーク迫って来てるし!

お、俺、生きたい!


「す、すまん! その、いや、褒めてるんだよ、おじさんは! よ! キアラちゃん! 最高! マジでかわいい! かわいいの権化! かわいいの象徴! 超美少女! なのに、努力家! 素直になれない感じもかわいいよ! 髪も綺麗! 顔も綺麗! スタイルも最高! 魔法も最高! 実は、ちゃんと気配りも出来て思い遣りも合って優しくて美少女ってもうマジSUGEEE!」

「URUSEEEEEEEEEEEEEEEE!」


キアラが思いっきり叫んで怒ってる! ひぃいいいいいい!

や、やらかした?! いっぱい褒めてAGEしたつもりなのに!


「もももももももう何も言うなあ! ちゃんとアイツら倒してあげるから! 黙ってみてなさい! ばかあ!」


……はい! おねがいしまあす!

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