第7話 その金髪ツインテ、TSUNDEREEE!・中編

「きゃあああ!」


オレはキアラの悲鳴を聞いて、仮眠から目を覚まし身体を起こす。

すると、ヒナとシロが抱きついてるじゃないか!

なんで!?


「ヒナ!? シロ!?」

「ああ、おおおおおはよ! トレス」

「トレスさん、私達は何もしていませんよ、神にはちょっと色々理由があって誓えませんが。何もしていません、ある意味」


二人とも何いってんのお!?

ふたりの柔らかい身体といい匂いに挟まれてくらくらするなあ!


「って、そんな場合じゃない! キアラが」

「ええ、行きましょう」

「あっちだよ!」


オレは二人と一緒にテントを飛び出す。

くそ! キアラ、そういえば、さっきも表情が暗かった!


「二人とも、オレが先に行くから! 後から来て!」

「え? トレスさん?」

「待ってよ~、トレス~!」


オレは二人を置いて走り出す。そういえば、この前街で覚えた便利な魔法があったのを主出す。


「〈ムーブ〉!」


外れスキル〈コピー〉で覚えた風の魔法〈ムーブ〉で速度を上げる。


「う、うわわわわわ!」


とてつもない速度が出て止まらない! あっという間にヒナたちを置いていき、オレはある場所へ。

そこには、ボロボロのゴメスが!


「ゴメス! キアラは!?」

「うおおおおおお! なんだお前さっきのスピードは!? キアラなら、一人でオークと戦ってやがるぜ! しかも、ただのオークじゃねえ、キングオークだ! さらに、群れでやってきやがった! なんだよ、あんなの聞いてねえよ! もしかして、スタンピードかもしれねえ」

「スタンピード?」

「魔物が何かの理由で大量発生することだよ! とにかく、あんなデケエ魔物勝てねえよ。俺なんてデコピン一発だったんだ! キアラだって長くもたねえ。それに、アイツら、やらしい目でキアラを見てたんだ」

「キアラを? 許せねえ……」


オレの中で怒りがふつふつと沸いてくる。かわいいキアラを酷い目にあわせようなんて絶対にゆるせねえ!


「トレス? お、おい、お前……怒っているのか?」

「ああ、オレは今、完全に怒っているぜ。オークめ、ぶっとばす! コピースキル〈遠目〉」


オレは、遠くまで見える魔法、遠目を使って、オークたちを探す。


「いたぜ!」


オーク達はキアラを厭らしい目で見て、服を破いている。


「やめろぉおおおお! コピースキル〈メガサンダ〉!!!」

「って、トレス、それは【雷帝】しか使えない最強の雷魔法じゃねえかぁあああああ!」


ゴメスが何か言ってるがよく聞こえない!

オレの外れ魔法で出せる魔法なんて大したことない!

でも、キアラを守るんだ!


オレの雷魔法は大地を抉り、岩とかを砕きながら、オーク達に向かって伸びていく。


「「「「ぷぎゃ!? ぷぎゃあああああ!?」」」」


雷を喰らったオーク達は一斉に倒れていく。あれ? 随分と弱いな。

そうか、キアラが弱らせてくれていたのか!


「っと、それよりキアラを」

「あれ? トレス? 俺は? お~い、トレスく~ん?」


ゴメスの声が聞こえたけど、ごめん! ゴメス! 今はキアラを助けなきゃ!

キアラのところに行くと、キアラがボロボロの姿で蹲っていた。


「キアラ、大丈夫?」

「大丈夫よ、あたしは別に、大丈夫」


見るからに弱っている。かわいそうだ。

何かオレが力になれないだろうか。

オレはキアラの頭に撫でてあげる。そういえば、オレはこんなことされたことないなあ。


「え?」

「キアラ、大丈夫だよ。オレがいつだって君を守るから。何も怖がることなんてないよ」


オレがそう言うとキアラはオレに抱きついてくる。


「トレスゥウウ、あたし、こわかった。怖かったよ。あたし、トレスより弱くて情けなくて落ち込んでて……」


キアラが抱きついてきて泣いている。やっぱりこわかったんだろうな。そういえば、涙目だったし。

でも、オレにはそれより気になることが。


「あ、あの、キアラ、君、オークに襲われて服ボロボロだから」


服が破れてて色々見えてるし、当たってるんですけど!


「あ……」


キアラが顔を真っ赤にさせた。だけど、それでもオレにまだ抱きついて。


「べ、べつにいいわよ! トレスかっこよかったし……」

「いやいや、オレのスキルは外れスキルで大したことないんだってば……」


その時だった。


「ぷぎゃぎゃぎゃぎゃ!」


オレ達の目の前にさっきのオークより何倍もデカいオークが現れた。


「キアラ!」

「ええ、あたし、トレスとなら全然こんなヤツも怖くないわよ!」


よし! キアラも気合が入ってるみたいだし、オレもテンション上がってきた!

外れスキルだけど、キアラを守るんだ!






と、まあ、こんな感じが原作。

つまり、落ち込むキアラをトレスが助けてキアラとの仲が深まるぜ、というわけだ。


色々言いたいことはある。

トレス呑気すぎない? あと、口調荒いけど元貴族だよねとか、トレスもっと出来る事あるだろとか、お前ら感情の流れどうなってんのとか、口調荒くね? とか、キアラチョロインかよとか、破れた服どうなったとか、口調荒くね? とか色々ある。


だが、これはもうそういうものなんだ。ゴメスは考えるのを止めた、だ。


だから、俺はこのまま、キアラと一緒に見張りに立ち、自分の力不足に落ち込みぼーっとしているキアラがオークの襲撃に気付かず襲われ、俺はキングオークにぶっとばされて、トレスに全部説明すればいいだけだ。


俺はキアラと共に見張りに立つ。っていうか、こんな仮眠場所から遠く離れたところで見張りしてていいの?


「あ、毛布……」


キアラがそう呟き、手に持っていた毛布に視線を落としている。

そう、ここまででキアラがぼーっとしていたせいで毛布がモンスターに2枚破られて3枚になってしまうという出来事もあった。なんだ、毛布が2枚モンスターに破られるって。


それで、ヒナとトレスの一枚の毛布で見張りいちゃつきシーンがあるわけだ。

ゴメス別に悔しくないもんね!


なので、今も見張り用には一枚しか毛布がない。

こんな時ゴメスならどうするか。


「ふ、ふひ……じゃ、じゃあ、一緒に入っちゃいますかあ」


答えはエロい目で鼻息荒く近づく、だ。


「……ばか! すけべえ!」

「うぎゃあああ!」


キアラに魔法でしばかれ、地面に寝転がる。

そして、その近くで火魔法を起こされあたためられる、というより、炙られる俺、ゴメス。


キアラはぷんぷんはしているが、やはりいつものキレはない。

いつも自信満々で、スケベでだらしないゴメスなんかは見下しているキアラ。

だけど、今は自信を喪失しているせいか、それ以上は何もせず一人で黙々と見張りをこなそうとしている。


見てわかる。


役に立とうと必死だ。


こういうヤツは前世で何度も見てきた。

人間ってのはどうあっても周りの評価から逃げられない。

特にこういうタイプの人間は自分が役立たずなんじゃないかと思い始めたらどんどん深みに嵌る。視野が狭くなる。物理的にも精神的にも。

そして、どんなブラックな環境や理不尽な環境でも耐え始める。


『自分が役立たずだから』と。


悲壮感漂う小さな背中を見て、俺はイライラする。

なんで。

なんで。

なんで。


「なんで……!」


思わず声が出たその瞬間、


「ぷぎゃあああああああ!」

「しまった……! なんであたし気付かなかったのよ……!」


キアラが金髪ツインテールをぐるんとまわしながら周囲を見回すと、オーク共が襲撃してきやがっていた!

ああ、空気読めねえなあお前ら!


隙間はいくつかあるが、デカいオークどもから逃げられるような雰囲気ではない。


「くそ! 囲まれたか」

「ご、ごめん、ゴメス……あたしのせいで……あたしがもっとトレスみたいにやれたら」


トレスみたいにやれたら。


やれるわけがない。

アイツはこの物語の主人公なんだ。神に選ばれた存在。

アイツだけ謎に特別扱いされてチートを与えられて、めっちゃモテて、めっちゃ金を手に入れて、めっちゃ幸福になる。

そういうストーリーなんだ。

だが、キアラはそのトレスの嫁の1人になる。

その為に必要な事件なんだ。

だけど、大丈夫。

絶対にキアラはたすがっ……!


「あぐうう!」


俺の胴体以上に太いこん棒が俺の右側面を叩く。

いつの間にか正面にやって来たキングオークの攻撃。

シン・ゴメスになるべく体を鍛えていた俺にはいうほどのダメージはなかったが、圧倒的な体重差で吹っ飛ばされる。


原作くらいのケガはしてない。だって、痛いのやだし。

あとは、キアラのピンチになって助けを呼ぶ。そして、俺がトレスに完璧な説明台詞を吐いて、キアラを助けるトレスのかっこよさを演出して終わり。キアラフラグ編ハッピーエンドだ。


「いや……!」


向こうではキアラが必死に抵抗している。

ダメだ。無理なんだよ、キアラ。お前はそこで自分の魔法が効かないことに絶望し、トレスの魔法の凄さを知るんだ……。

でも、大丈夫。お前は助かる、からっ……!



「…………!」



一瞬。



キアラと目が合った。


強気なルビーの瞳が薄く涙にぬれていた。


悔しそうな目で。


申し訳なさそうな目で。


自分は役立たずだと思い込んでるみたいな目で。


こっちを見てた。




『すみません』





前世で新人教育してた女の子がやめた。それはいつも通りのこと。

でも、その子は本当に頑張っていて、自己犠牲精神の塊みたいな子だった。

だけど、無理がたたり身体と心を壊し辞めた。


その時、彼女は泣き言や恨み言を言うでもなく、俺に謝った。


『あたしが役立たずなせいで、先輩にご迷惑を』




そして、彼女は去っていった。


上司は言った。


『生き残る奴は勝手に生き残る。だから、助けるなんてしなくていい』





「ふざ、けんなっ……!」


キアラの魔法で作った氷柱を喰らいながらオークどもが笑って近づく。

キアラの傍まで来るとキアラの手を掴み、キアラを辱めようと服に手を伸ばす。


これは、とあるチートな物語だ。

決められた作られた物語。


だけど、俺にとっては……


「これが現実で、アイツが絶対無事って保証もねえよなあ!」


そう、もしこれでトレスが気付かず、ヒナたちとイチャイチャしてたら?

キアラが心に大きな傷を負ったら? 死んだら?


俺は大きく息を吸い込み腹に力を込める。

そして、叫ぶ。


主人公AGEの為に鍛えに鍛えた大声で!


「おうこら、ぶたどもぉおおおおおおおお! かかってこいやあ! はげぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」


オークたちは突然の叫び声に驚いていた。なんなら数人耳を抑えて顔を顰めていた。

もしかして、俺の大声、すごすぎ……?


そして、鍛えた逃げ足を活かし、怒れるオーク共の猛攻を躱しながらキアラに近づく。

いや、嘘だ。結構喰らってる! でも、ゴメスだからね! タフなのよ!

視線の先には心配そうにこっち見てるキアラちゃん。金髪ツインテ垂れ下がってるよ!


「馬鹿! ゴメス! 無理しないで! あたしなんかトレスと比べて役立たずなあたしなんかほうっておいて大丈夫だか」

「うるっせえええええええ!」


やっとたどり着いたキアラの目の前で叫んでやる。

すると、キアラの腕をとっていたオークが空いてる手で俺に殴りかかろうとするのを思いきりくらってやる!

だが、俺の後ろには俺を殴ったオークのもう片方の腕が。

自分のパンチの勢いが加えられ、キアラを掴んでいた手を放すオーク。


「外れた……ゴメス!」

「いいか! キアラ! てめえは役立たずじゃねえ! 俺より散々活躍してるのにそんな事言うな! いいか! トレスはTUEEE!」

「へ?」

「お前はSUGEEE!」

「え?」

「繊細な形を作れるお前の魔法はすげえ! すげえ努力してねえと出来ないもんだ!」


魔法の練習をしてもほとんど身に付かなかった俺からすれば本当に凄い。

そこには絶対にコイツの努力がある。

トレスが持っているヤバイ才能があるからこそわかる。

それに敵わないまでも努力でここまでのし上がれるやつが凄くないわけがない!


「お前はすげえ! 俺が何度だって言ってやるお前はすげえ! だから、理不尽に負けるな!」

「ゴメス……」


俺は褒めるしか能のない人間だ! だったら、とことん褒めてやらあ!


「お前はすげえ! キアラ、お前の努力はSUGEEE!」


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