第6話 その金髪ツインテ、TSUNDEREEE!・前編

「おい! ×××! お前、新人教育ってわかってんのか!?」


ジムに通ってどんどんムキムキになっていることが自慢の上司が俺の胸倉をつかんで吠える。


「わ、分かってます。くるし……し、新人に丁寧に教育をして、ウチの社員としてしっかり仕事が出来るようにケアをしつつ……」

「馬鹿か!」


放り投げられて吹っ飛ぶ俺。ほとんど掃除もされてない床に投げ出され尻もちをつく。

上司は両手が汚れたと言いたそうな様子でパンパンと払い、俺を見下して吐き捨てる。


「生き残る奴は勝手に生き残る。だから、ほっとけ。お前が新人教育係としてすべきことはとにかく厳しく躾け! 兵隊を作ることだ!」


……ああ、くそ。そんなだからどんどん辞めていくんだろうが……。

それで売り上げが上がってるからって、それが本当に……。


「ゴメス! 起きなって!」

「ふが!?」


身体を揺らされ、俺は目を覚ます。

どうやら眠っていたようだ。俺の横で、シロがにぱーっと笑っている。かわいい。

にしても、いやな夢を見た。前世のブラック企業の思い出だった。

人間を人間と思わない連中による教育とは名ばかりのしごき。

俺が新人教育係の間は少しでもマシにと思ったけれど、それでも辞めていく人間はあとを絶たなかった。

あの上司のでけえ体と傲慢な顔はマジで忘れたい。

目の前の小さな体でかわいい少女のお顔で上書きしたい。


「おう、シロ。起こしてくれたのか、ありがとな」

「どういたしまして、銅貨1枚」

「最悪だよ!」

「ボクのお陰で起きれたんだよー? しかも、こんなかわいいボクの声で起きれるなんて幸せじゃん」

「確かに」


俺は大人しく、銅貨をシロに渡す。

シロはとにかく金にがめつく何かと恩を売っては金を要求する。

そして、ゴメスには本気で。トレスには『えへへ、トレスにはいつか体ではらってもらおっかなー』とか言うのに。


シロが嬉しそうに銅貨をアイテムボックスに入れると、離れていく。

その先にいたのは、焚火の番をしているキアラで、シロはキアラに銅貨を自慢している。


そうか、そろそろ交代の時間か……。


仮眠で寝ぼけていたつるつる頭を叩き覚醒させる。

ぺちぺちと音がするたびに脳が働き始め、現状を思い出していく。


「やあ、ゴメス起きたのか。見張りの交代の時間だ」


トレスがヒナにぴったりと寄り添われながら見張りから戻ってくる。


「ひゅー、相変わらず仲が良いこった」

「うふふ、仕方ないじゃないですか。毛布が少なかったんですから。それにしても、トレスさんったら、ずっと照れちゃってて……魔法はあんなに凄いのに」

「いやいや、俺なんてただの外れスキルだから」


いちゃつく二人。

ああ、ツッコミてえぇええええええええ……。

こんだけやっといて外れスキルだからとかいう勘違いをぶちかまし続ける天然君を分からせてえ……。

いや、まあ、別にいいんだよ。神のご都合でなんとかなるんだろうけど。

でもね、普通に考えてさ、ロケットランチャーをふとした瞬間に撃てる人間がロケットランチャーを水鉄砲程度に勘違いしてて街中歩いてたらどうよ?


普通に怖くね?


なんかの拍子でキレて本人外れスキルだからとか言ってロケランかまされたら大惨事だよね。たとえ物語の世界で強制力が働いているからってこっちは気が気じゃなかったりするんだが。

いや、これは別に断じて嫉妬なんかじゃないんだからね! 勘違いしないでよね、ぷん!

と、おじさんの可愛くもなんともない脳内ツンデレトークをしたところでふと気づく。


リアル嫉妬深いツンデレちゃんが大人しいなと。


キアラは、ちらとヒナとトレスのほうを見るが、それ以上は何も言わず、焚火に視線を落としている。

そういえば、いつもであれば、この組み合わせならゴメスを起こすのはキアラだ。

ヒナとトレスがイチャイチャしてるのを想像し、嫉妬、イライラからのゴメスに八つ当たりがテンプレパターン。

だけど、今日はシロに起こされた。まあ、シロが小遣い欲しかったから先手を打っただけかもしれないが、そのシロがお金を見せびらかしたりすれば、窘めるのもキアラって感じなんだが、今日はその勢いがない。


まあ、正直理由は分かり切っている。


俺達は今、オーク討伐のギルド依頼を受けて街の外、オークの洞窟付近の森に来ている。

昼の間にはつき、いくつか戦闘をこなしたんだが、


「くっ……! これでも食らいなさい! ……〈アイスピラア〉!」


キアラは眉間に皺を寄せながら魔法を放ち続けていた。トレスにコピーしてもらった略式詠唱で。

そう、トレス君のスキルが進化していた。今度は、自分の持っているスキルを対象にうつす、要は、コピペが出来るようになっていた。

とはいえ、相性とか色々あるとかなんちゃらで適性のあるものしか写せないらしい。


まあ、要は神のご都合だ。


だって、俺には、〈痛み耐性〉と〈逃げ足〉しかコピペできなかったし。

それでそれぞれのメンバーがパワーアップした中で魔法適性の高いキアラには〈略式詠唱〉がコピペされたんだが、本人は苦しそうな表情を見せた。


まあ、理由は分かる。


「〈アイスピラア・レイン〉!」


氷の柱を雨のように降らせる主人公君がそばにいるからな。

そして、それ以降キアラは暗い表情だった。今も焚火に照らされる顔はどんよりだ。


だが、まあ、これが物語通りの展開なんだけどね。

このあと、キアラは元通りのツンデレちゃんになる。

だから、俺はこのまま物語通りに大人しくしていればいいんだ。

そう言い聞かせて、俺は金髪ツンデレキアラちゃんに声を掛ける。


「おい、キアラ。見張り行こうぜ! なーに、オークの奴らだって夜に襲ってくることはねえよ! なにかあっても俺が守ってやるよ、安心しな!」


特大のフラグを立てるために。

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