第5話 前世ブラック企業、マジKOEEE!

「ゴメスッ! あんたねえ! トレスを褒めるだけじゃなくて仕事しなさいよ!」


 金髪ツインテを振り乱し、はずコピのヒロインの1人、キアラがプンプンしている。

 気の強そうな吊り目がもっとつり上がりその視線の先にいるおっさんが俺、ゴメスだった。


「いやあ、すまんすまん」

「すまんすまんじゃないのよ! チョロチョロチョロチョロとうっとおしいし、アンギャーふんぎゃー言いながら逃げ回ってうるさいの! お陰で全然集中できないじゃない!」


 確かに、俺は叫んで逃げ回り、最後にコピースキルでコピー極大魔法を放ったトレスを褒めるだけ。それがこの物語のゴメスのお仕事だからだ!


 俺は、この作品が最高だと思ってはいないし、主人公には言いたいことが山ほどある。

 だが、ゴメスという男はそこまで悪いもんじゃない。愛されキャラだし、最終的にはおいしいとこ持っていっちゃって的なグッドエンドを迎える。

 勿論、ヒロイン達とではない。冒険の途中で出逢ったとある未亡人とだ。

 ヒロイン達にはかなり劣るみたいな事を書かれていたが全然問題ない。

 俺は前世で女性経験が皆無なわけではなかったし死ぬ前にはそれなりの美人と付き合えたが、とにかく性格が悪く尻軽な女だった。

 この物語では、ラブラブで幸せな家庭が確定している。

あと、思い出したくもないが、俺はブラック企業の社畜くんだったので、前世に未練なんてほとんどない!

 であれば、俺は俺の役割である『G並みにしぶとくて死なない主人公AGE、解説キャラ』を貫くのみ!


なので、今俺がやることは、


「いやあ、ほんとすまんすまんぬふふふふ」


 キアラの素敵な胸を眺めてキアラの色気と、


「どこ見てんのよ! このどスケベェエエエ!」

「あんぎゃああああああああ!」


 キアラのツンデレっぷりを魅せるのみぃいいってぇえええええ!

 魔法で作られた氷のハンマーで殴られた! マジでいてえ!


 だけど死なない。青年時代に散々女の子達にシバかれ、若手冒険者時代に囮にされてたからな! それに、自分が『はずコピ』のゴメスだと気づいてからは、頑丈キャラに磨きをかけるために、いっぱいムチで叩かれてきた! そういうお店で!

 どSコースはとんでもなく痛かったが、どんどん頑丈さは上がっていって最終的には快感しか残らなくなった。

恐らくこれがゴメスの才能なんだろう。

 まあ、あと、前世のせいか、苦しいとか辛いの耐性がめちゃくちゃあるんだよなあ……。

 めちゃくちゃ上司に殴りまわされていた前世を思えば、マジご褒美だ。


 それに、頑丈さだけではない。


「おま! 今の中級氷魔法〈アイスピラア〉だろ! しかも、ご丁寧にハンマーの形にまでしやがって、性格荒いくせに技術は繊細かよ!」


 魔法はほとんど覚えられないが、魔法や技の知識として覚えるのはめちゃくちゃ余裕だった。おそらく解説役としての才能なんだろう。

 まあ、あと、前世では毎日のように変えられる社内マニュアルやら、得意先の名前完全暗記するまで帰れまテンサウザンドとかやらされてたからかもしれない。

 俺が早口でまくし立てると、キアラがふふんと鼻を鳴らし、腕を組んで俺を見下す。


「性格が荒いは余計だけど、まあ、あんたのようなどスケベ野蛮人には出来ない技術よね」


 その通り。俺には出来ない技術だ。それはキアラが天才魔法少女と呼ばれるほどに魔法の技術に優れているから。

 だが、悲しいかな。

 上には上がいてしまう。


「はぁ~、これが〈アイスピラア〉か……これをハンマーの形にして……こうかな」


 横にいた主人公トレス君がコピースキルで氷のハンマーをいとも簡単に作り出す。

 そして、俺は


「はぁああああああああ!? あの精密技術の塊を一瞬で!? しかも、こんなクソデケエって、どんだけの魔力だよ! トレスゥウウウウウ!」


 大声で叫び、街の人間にトレスの凄さを伝える。

 こうして、トレスの凄さを街のみんなが認め、追放したパーティーや元家族が馬鹿にされるようになるって寸法だ。

 そういえば、声もどんどんデカくなっていった。

 前世で覚えていた発声練習、ブラック企業の新人研修で喉がつぶれるまで以下略……で主人公AGEボイスを鍛えようと思ったらどんどん声がでかくなるし、滑舌も良くなった。


 そう、俺ははずコピのゴメス以上のゴメス、シン・ゴメスとなったのだ!


 もはや俺のゴメスライフは盤石!


 だけど、少し気になる事もあった。


「……すごいね、トレスは」


 悲しいかな、俺はブラック企業で恐ろしい数の新人の指導係だった。そのせいで見つけてしまったのだ。

 金髪ツインテールキアラの悲しそうな表情を。

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