第二十三告 荻野海渚
それから後藤柚姫は暮林夏凛と直接話をしようと動いた。しかし本人とは連絡が取れず荻野海渚や折原美等に言ってもはぐらかされてしまう。
生駒優に襲われたあと、後藤柚姫は自分に向けられる視線に過敏に反応してしまうようになった。ずっと気を張っているのは不可能だし神経をすり減らしてそのうち自滅してしまう。立ち直りかけている西木千輝のこともある。今の彼女は後藤柚姫を支えにしているのだ。
数日後、後藤柚姫は荻野海渚にカラオケボックスに呼び出される。そこに暮林夏凛も来るという。そのことを西木千輝に伝えると彼女も一緒に行くと言ってくれた。不安もあったが頼ることにした。
後藤柚姫がカラオケボックスに着くと外に折原美等が立っていた。暮林夏凛のいる部屋は2階の215号室だと教えられる。後藤柚姫は遅れている西木千輝を待って一緒に行くと答えた。
しかし取り次いだ折原美等の電話越しに暮林夏凛から「先に二人だけで話をしたい」と言われ、西木千輝にLINEで連絡をして中に入った。
だが215号室に入ると、そこにいたのは金髪で鼻にピアスをつけた一見して危険だと分かる男だった。後藤柚姫は一瞬部屋を間違えたかと思ったが、男の言葉に罠にはまったことを知る。
「なんだ、海渚からガリ勉だって聞いてたからてっきりカマキリみたいな女だと思ってたぜ。これなら楽しくやれそうだ」
入口で後藤柚姫が固まっていると後ろから突き飛ばされる。振り返ると後ろ手に扉を閉める荻野海渚がいた。
「あれ〜ここはアタシと兄貴が借りた部屋なんだけど? 後藤っち部屋間違えてない?」
「そうみたいね。夏凛はどこにいるの?」
「さあ〜知らないけど? まあせっかく来たんだから一曲歌っていきなよ」
おそらく暮林夏凛は隣の部屋にでもいるのだろう。早くここから出なければと思う一方で、後藤柚姫は彼女の思惑を知るチャンスだとも考えた。自分の予想とそれが合っているのか答え合わせをしたい。荻野海渚は自分が有利だと口が軽くなるから丁度いい。
「私をどうするつもり? これは監禁よ」
「大げさだね〜そんなわけないじゃん。仲良しのクラスメイトにカラオケついでにちょっと兄貴を自慢したかっただけ。そういうことでしょ?」
「そういうことなのね。だったら何? 一曲歌えば帰してくれるの」
「おいおい、そう連れなくしなくてもいいんじゃねえ? もっと仲良くなろうぜ」
荻野海渚の兄という男はいやらしい目で後藤柚姫を見てニタニタ笑っている。その前には酒が置いてある。
「兄貴に【シニコク】の話をしたらオレも興味ある、見てみたいって言うからさ〜。ちょっと見せてやってよ」
「しつこいわね。ないものはないのよ」
「あり得ないでしょ? 後藤っち一人だけ何ともないなんてさ〜」
「それは私が嘘告に関わってないからよ。理解できないならそう言ってほしいんだけど。ちゃんと分かるように説明するから」
後藤柚姫はそう言って荻野海渚を挑発する。
「ふざけんな! そんなはずはない、でなかったら何か方法があるはずだって夏凛が……」
「そう、夏凛がそう言ったのね。これで確信が持てたわ」
荻野海渚は自分の失言に気付いて言葉に詰まる。
「う、うるさい! だから証拠を見せろって言ってんのよ!」
「お断りよ。ここで裸になれって言うの? それこそあり得ないわ」
「だったら場所を変えようぜ。裸になってもいいような場所によ」
しびれを切らせた男がソファーから立ち上がって後藤柚姫に向かってくる。すかさず後藤柚姫は隠し持っていたスプレーを男の顔に噴射した。
「ぐあっ! い痛え、何だこれ!」
堪らずうずくまる男に荻野海渚が駆けよる。
「あ兄貴! 後藤、てめぇ兄貴に何しやがったんだよ!」
「スプレーの湿布薬よ。早く洗ったほうがいいと思うけど」
「後藤……絶対許さねぇからな! 覚えてろよ」
捨てゼリフを残して二人は部屋を出ていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます