第十三告 波紋(その2)
夏休みになっても学校の体育館には部活の声が響いている。
暇を持て余した西木千輝は後輩の指導にかこつけて学校に出て来た。しかし体育館に向かう渡り廊下で、
「どうしたの、ドリ?」
「千輝、悪いけど帰って。それともう部活には顔を出さないで」
中庭に場所を変えたあと沖野緑子は開口一番そう言った。今まで西木千輝が見たことのない冷たい表情だった。
「えっ、何でそんな……」
「今は出てないみたいだけど……千輝のそれ、【シニコク】の呪いなんでしょ?」
沖野緑子の視線は探るように西木千輝の首筋を見ている。
「あ、それは……」
「説明はいらない。私も調べたから。人には訊けないから苦労したけど」
(調べた? シニコクのことを?)
「私が何で調べようと思ったか千輝に分かる?」
怒りを押し殺した沖野緑子に気圧されて、西木千輝は無言で首を振る。
「私にも出てきたの。ここにね」
そう言って沖野緑子は脇腹に線を引く真似をして見せた。
「何で? どうしてドリにまで……」
「私だけじゃない。詩穂にもよ」
「えっ? 詩穂?」
「しばらく顔を見なかったでしょ? 不思議に思わなかった?」
「分からないよ……何がどうなってるの?」
「私たちは嘘告なんてした覚えがない。だとすれば千輝のせいだとしか考えられない」
「あたしの……せい?」
「そうよ。千輝にあの嘘告の動画を見せられたことが原因じゃないかって」
あの日、西木千輝は佐島鷹翔が鎌田久留美に嘘告している様子を動画に撮っていた。滝村涼香に言われて証拠に撮って彼女に送ったのだ。
そのあと西木千輝はその嘘告動画を部室で着替えていた沖野緑子と鮎川詩穂に見せた。鎌田久留美が佐島鷹翔にフラれたこと、今は自分が彼と付き合っているとアピールしたかったからだ。
沖野緑子には「これやりすぎじゃない?」と言われ、鮎川詩穂には「うわ~略奪愛ってことですよね」と言われたが、そのときの2人はそこまで西木千輝を非難している感じではなかった。
「あたしそんなつもりじゃ……ごめん」
「謝って済む問題じゃないから。呪われてしまったらもう手遅れなの」
「手遅れって……」
「そうでしょう? 呪いを消す方法がない、つまり根本的な治療はできない。あとは対症療法しかない」
「対症療法? どういうこと?」
「原因である西木千輝と距離を置いて縁を切る。そういうことよ」
沖野緑子の言葉が冷水となって西木千輝を硬直させる。
「絶交、ってこと? 何でそこまで……ひどいよ……ねえ、ドリ!」
「その呼び方も止めて。縁切りの効果が弱くなるから。分かったらこれ以上迷惑かけないで」
沖野緑子は呪いを解く方法を色々調べたらしい。その一つとして彼女は鮎川詩穂と一緒に縁切りで有名な神社でお祓いを受けてきたのだと言った。それが西木千輝と距離を取るという考えにも繋がるのだろう。
【シニコク】の呪いにかかった西木千輝が嘘告の動画を見せたせいで呪いが伝染した。そんなことがあり得るのだろうか? しかし沖野緑子がそうと確信している以上、西木千輝が彼女に何を言っても無駄なことなのだろう。
「ねえ……あたしたち楽しくやってたじゃない……友達じゃなかったの?」
「巻き込まれてこんなことになるなら話は別。それと楽しくやってたってのは千輝の思い込み。私は涼香や千輝の尻ぬぐいをさせられるのはずっとうんざりだった」
そう言われれば沖野緑子とはバスケ以外の話をあまりしていない。誕生日のメールを送っても、一緒にお祝いしたこともない。
「だからもう近づかないで。挨拶もいらない」
「あ、あたし……どうしたらいいの? せめて詩穂に……」
「何もするなって言ってるでしょ! 詩穂は……あの子は自殺まで考えてたんだよ? 本当にそんなことになったら今度は絶交じゃ済まさないからね! ……じゃあ、私はもう行くから」
中庭にひとり取り残され、呆然とする西木千輝が次に気づいたのは自宅のベッドの上だった。どうやって家まで帰ったのかは覚えていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます