第八告  鎌田久留美  

 鎌田久留美は佐島鷹翔を追いかけて樋ノ杜高校に来た。佐島鷹翔は中学時代もエースで活躍して女子の取り巻きも多かった。鎌田久留美には幼なじみというアドバンテージがあったが、平均的な容姿で奥手な性格の彼女はそれを生かせず、それでも佐島鷹翔のそばにいたい気持ちは捨てられなかった。


 鎌田久留美は高校に来ても佐島鷹翔に面と向かって話すことができずにいたが、彼が滝村涼香のグループと仲良くなるのを見て、自分もそこに入れば話す機会も増えると考えグループに加えてもらった。グループ内ではパシリの扱いだったがそれでも佐島鷹翔のそばにいられると思えば苦にならなかった。


 そしてクリスマスの二日前、鎌田久留美は佐島鷹翔に放課後呼び出された。

「佐島くん、あの……話って?」

「その……ありがとうな、久留美。ずっと俺を見ててくれたんだろ?」

「あ……う、うん」

「待たせて悪かったな。俺とつきあってくれよ。いいだろ?」

「えっ?」

「涼香ん家のクリスマスパーティに呼ばれてるけど、行かないでその日はお前と一緒にいるわ。駅前交差点の時計前に5時、待っててくれるか?」

「ほ、本当に?」

「ああ、必ず行くから」

 そう言って佐島鷹翔は鎌田久留美の顎に手を添えた。そのまま顔を近づけていく。

「怖かったら目つぶっとけよ」

 鎌田久留美は佐島鷹翔の言葉に素直に従った……。


 しかし次に鎌田久留美が佐島鷹翔から受けとったのはキスではなく嘲笑だった。

「震えてんのかよ? お前……くっ、ははっ! もう駄目だ、勘弁してくれ!」

 突然笑い出す佐島鷹翔に鎌田久留美は驚いて固まってしまう。

「悪い、もう無理だ。大体こういうのは向いてねぇんだよ。知ってんだろ?」

 佐島鷹翔の呼びかけに校舎の陰から西木千輝が姿を現す。

「ちょっと鷹翔、バラすの早すぎでしょ。一日くらいはいい夢見させてやろうって涼香も言ってたじゃん」

「え……西木さん? 佐島くん、これどうなってるの?」

「悪い悪い。これ嘘告なんだわ」

 元々は滝村涼香が仕組んだことだった。駅前で佐島鷹翔を待ってクリスマスパーティに来ない鎌田久留美を、それを口実にしてグループから追い出す計画だった。最後に待ちぼうけで立っている彼女をみんなで笑いにいってそこでネタばらしするつもりだったという。

「さすがにそこまで鬼にはなれねぇよ。だけど久留美、もういいだろ?」

「な、何が?」

「今、大学から誘いが来てるんだ。来年の大会の成績次第だけどな。その後はプロも考えてる。それでお前はどこまで俺についてくるつもりだよ」

「佐島……くん」

「見てる世界が違うんだ。迷惑だってことぐらい、いい加減分かれよ。……じゃあな」 

 そう言って佐島鷹翔は西木千輝と一緒に去って行った。


 その後鎌田久留美は学校に来なくなった。3学期最初のHRで、彼女が転校したと担任から連絡があったきりだった。

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