第六告  清水郁己

 放課後、滝村涼香は清水郁己に声をかけた。

「清水くん、ちょっと話をさせてもらっていいかしら?」

「え? うん……何?」

 普段接点のない滝村涼香に話しかけられたことで清水郁己は浮かれているように見えた。しかし滝村涼香にその優越感に浸る余裕は今は無い。

「清水くんはその……【シニコク】って何なのか知ってるの? 知ってれば教えてほしいんだけど」

「前に黒板に書かれていた落書きのこと?」

「落書き? ああ、あれね。でもさっきは鷹翔を見てそう言ったでしょう? 別の意味があるんじゃないの」

 しかし滝村涼香の指摘に、清水郁己は言葉を濁す。

「うん。だけどここでは、ちょっとその……後で視聴覚室に来てもらっていいかな?」

 清水郁巳の部活は映像研だった。別の教室に呼ばれるという状況に、滝村涼香は一瞬柊修二のことを思い出して顔が曇る。

それを別の意味に取ったのか、慌てて清水郁己がつけ足す。 

「ああ、変な意味じゃないよ。心配なら誰か一緒に来てもらってもいいし」

 滝村涼香は後藤柚姫に言って一緒に来てもらうことにした。放課後は図書室にいると分かっていた。


 先に待っていた清水郁己は滝村涼香と後藤柚姫にプリントアウトしたレポートを渡した。タイトルには「【シニコク】の呪いの噂」と書いてあり、Usher Dollmanという投稿者がアップした「予告動画」と呼ばれるものを文章化してまとめたものだった。

 内容を一読して後藤柚姫が清水郁己に言う。

「じゃあ鷹翔くんや千輝の赤い傷は呪いのせいだっていうの?」

「僕もはっきりとは分からないよ。見たのは初めてだからね」

「ここから分かるのは、呪いをかけられるのは嘘告をされた人間かその知り合い。そして相手の私物を手に入れられる、鷹翔君や千輝の近くにいる人間、だったらこの学校の中にいる可能性が高い。……そんなところかしら」

 後藤柚姫が推理めいた考えを口にする。

「そうかもしれないね。でも同じ嘘告に対しては何人にでも呪いがかけられるみたいだね」

「……そうか。あの二人は共犯で一緒に呪いをかけられた。同じ頃に傷ができたのもそれなら納得できるわね」

「傷じゃなくて影って呼んでるみたいだね。だから出たり消えたりしてるのかな」

(影か……映り込んだものだから厚みもないし、光源が遠ざかれば薄くなるってことなのかしら)

 滝村涼香は後藤柚姫の隣でそんなことを考えていた。


 原因は間違いなく滝村涼香たちが鎌田久留美に仕掛けた嘘告だろう。そして呪いをかけたのは鎌田久留美を好きだった柊修二。だったら探し出して呪いをやめさせればいい。

(お金を払ってでも、あるいは父親の権力を使って脅してでも。自分ならそれができる……)

 滝村涼香はそのときは簡単に解決できると思ったのだ……。


「影か傷かなんてことはどうでもいいけど、結局その影は呪われてる人間が嘘告をした動かぬ証拠って訳なのね。……まったく、何しょうもないことやってんのよ! 自業自得って言葉知らないの! 涼香、まさか涼香は関わってないでしょうね?」

「う、うん……」

 後藤柚姫の剣幕にそうだとは言えず滝村涼香はとっさに嘘をついた。実行犯はあの二人で、自分はけしかけただけだという自己弁護もある。はじめは後藤柚姫も誘おうとしたのだが、内申書を気にしてるからきっと反対すると西木千輝が言うので誘わなかった。

「ならいいけど……それで呪いのことだけど、相手が分かれば謝罪して呪いを解いて貰えばいいんじゃないの?」

 後藤柚姫は事も無げにそう言ったが、清水郁己は首を振る。

「そう簡単にはいかないと思うよ。呪いっていうのは成立した段階で完成してるんだ。それに呪いをかけたのがこの投稿者だとしたら……もう会えないよ。死んでるみたいだからね」

「えっ? どういうこと?」

「それは予告の次に投稿された本編の動画を見れば分かるよ」

 そう言って清水郁己はパソコンで動画を再生した。

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