第五告 滝村涼香1
ある夜、入浴を済ませて部屋に戻った滝村涼香はドレッサーの鏡の前で声を上げた。
「えっ? 何よこれ、どういうこと?」
鏡の中の彼女の顔に赤い線が浮かび上がってきたのだ。左頬の耳のそば、縦に10センチぐらいの長さだった。それは傷のようにも見えるが触れてみても凹凸やしこりはない。そして不思議なことにその赤い線は彼女の見ている前で徐々に薄くなり、やがて消えてしまった。
これはいったい何なのか? わからないまま滝村涼香は照明を消しベッドに入った。しかしやはり気になってなかなか寝付けなかった。
翌日、滝村涼香は普段通り登校した。それでも昨日の赤い線がまた出ても見えないように、いつものポニーテールをやめて髪を下ろしている。教室に入って挨拶するとクラスメイトがみんな挨拶を返す。
「あれ、涼香ポニーテールやめた? 何かあったの?」
そんな中で
「ただのイメチェンよ。部活ももう引退したし」
「ふーん、涼香はお嬢さまだからそういうのも似合うね。うらやましいなー」
そのとき滝村涼香は西木千輝の首に赤い線があることに気づく。
「千輝、首のそれ……それどうしたの?」
「ああ、これ? 夕べ気がついたらあったのよ。だけど別に痛くもないし、放っておくと勝手に消えるんだよね。本当、何なんだろ」
西木千輝はそう言って笑うが滝村涼香の顔は強ばる。何故彼女に自分と同じものがあるのか。
教室に
「おはよう。あれ? 涼香、髪型変えたの?」
「う、うん、ちょっとね。変かな?」
「いいんじゃない。大人びた雰囲気っていうのかな」
後藤柚姫は成績上位者の常連で国立大学を目指す才媛だ。家は書店を経営していて自分も図書委員という本の虫だ。
滝村涼香は何とは無しに後藤柚姫を観察した。しかし彼女のどこにもそれらしいものは見当たらない。ならば自分たちと彼女の違いは何なのか、滝村涼香はそれを考えずにはいられなかった。
昼休みになり、隣のクラスの
しかし西木千輝たちと昼食を食べていた滝村涼香は佐島鷹翔の顔を見て再び凍りつく。左眉の上に赤い線が走っていたからだ。
「えっ? 鷹翔君、その傷どうしたの?」
後藤柚姫が佐島鷹翔に声をかける。
「分かんねえよ。弁当食ってたら急にこれが出てきてよ、それでみんな騒ぎ出すし」
「鷹翔もなの? さっき急に出てきたの?」
「ああ、昨日まではこんなの無かったのに。え? 何だよ、千輝もなのか?」
「うん、今は消えてるけど、あたしも首のところ……あ、線が薄くなってきたよ! ……うん、消えた。もうないよ。あたしとおんなじだ」
「そうか? 本当にわけ分かんねえよ。俺が何したって……あれ? よく見たら涼香、今日は髪型違うんだな」
佐島鷹翔が髪に触れようとした手を払いのけ、滝村涼香は思わず立ち上がる。
「ちょっと! 触らないでよ!」
「そ、そんなに嫌だったかよ。悪い悪い」
「ごめん……急にだったから。そんなつもりじゃなかったんだけど」
自分にも赤い線があると知られたらまずい、滝村涼香は気が気ではなかった。何とかごまかして席に座る。
その滝村涼香の耳に、ふとクラスの男子が言った【シニコク】という言葉が届く。思わずそっちを見ると露骨に視線を外された。後藤柚姫に彼の名前が
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