幕間
幕間
あれは夢だったのか?
春斗はそんなことを思った。友人の秋彦が目の前で首をはねられ、自身もピエロに殺された。その光景や感触は生々しく春斗の中に残っている。ただ、こうしていつものように自宅のベッドで起床したことを考えると、夢だったということなのだろう。
「もう二度と見たくないな、あんな夢……」
春斗は学校に登校すると、自分の席で秋彦を待った。夏美とはクラスが違うが、秋彦とは同じだ。秋彦に夢のことを話したかった。笑い話にして生々しい不快感を払しょくしたい。そんなことを思っていた。しかし始業時間になっても秋彦は現れない。
「秋彦は病院に行っていて、学校を休むそうだ」
ホームルームで担任教諭がそう言った。
「秋彦、どうしたんですか?」
生徒の一人が質問すると、担任教諭の顔が曇った。
「それがなあ、どうも眠ったまま起きないみたいなんだ」
※※※※
秋彦は再びショッピングモールの二階で目を覚ました。
――あれ? 失敗ってことか……?
屋上からは脱出することができない。そういうことだろうか。もしそうなのであれば、まだ春斗たちもこのショッピングモールにいるのだろうか。
秋彦は立ち上がり、周囲を見回した。
――とりあえず春斗たちを探そう
そう思って足早に通路を進んでいると、商品棚の陰からピエロが現れた。まずいと思ったときには遅かった。首に激痛が走る。
――
次の瞬間、秋彦は首元を抑え、覚醒する。またもショッピングモールの二階だ。
――俺は何回死んでいるんだ?
何気なくポケットからスマートフォンを取り出す。
時刻を確認すると午前九時を回っていた。
――ナイトメアゲームって六時までじゃ?
嫌な予感がした。ゲームが始まる前に流れたアナウンスを思い出す。
『二度死んでしまったら、悪夢の中に閉じ込められるから注意が必要です。ちなみに六時までに脱出できなくても悪夢に閉じ込められるから注意してね』
――もしかして……
ふと気配に気づき、振り向くとピエロが鎌を振りかぶっていた。
――俺はこの悪夢から抜け出せないのか……?
※※※※
――秋彦は、まだあの悪夢の中にいる?
二度死ぬと悪夢に閉じ込められる。たしかそんな話だった。秋彦は二度死んでいる。目覚めないということは、まだパルゴの中をさまよっているのだろうか。
春斗はすぐに夏美へメッセージを送った。
『昨日、ナイトメアゲームに参加させられる夢を見なかった?』
返事はすぐに返ってきた。
『見た。まさか春斗も?』
眩暈を覚える。
あの悪夢は実際に起きていたということか?
『夏美も……。秋彦がゲームの中で二回死んだ。それで今日、学校に来ていない。眠りから覚めないで病院に運ばれたらしい。ちょっと話がしたいから昼休みに屋上の踊り場に来てほしい』
昼休みになると春斗は弁当を食べず、屋上前の踊り場までやってきた。そこにはすでに夏美の姿があった。夏美は春斗を見ると、不安そうな表情を浮かべた。
「ナイトメアゲームってなんなの?」
「わからない。夏美もパルゴでピエロに追われた?」
「うん。それで最後に屋上から飛んで、目が覚めた」
「同じだ。俺たちは同じ夢の中にいたんだ……」
馬鹿げた話だが、受け入れるしかない。
「秋彦はどうなるの? というか、どうして二回死んだの?」
「夏美が飛んだ後にピエロが現れたんだ。それで殺された」
「そんな……。そういえば最初のアナウンスで、二度死んだら悪夢の中に閉じ込められるって言ってたよね。秋彦は悪夢の中に閉じ込められたってこと?」
「そうかもしれない」
「これってどうしたらいいのかな……?」
そう言われてもどうしようもない。警察に駆け込むわけにもいかないだろう。飽くまで夢の中の話なのだ。
「俺たちの他に何か事情を知っている人はいないかな? 実はゲームがはじまってすぐに知らない人が殺されるところを見たんだけど、もしかしたら俺たち四人の他にも参加者がいるのかも」
「SNSで聞いてみようか」
「ああ、そうだね――でも、夏美はSNSやってたっけ?」
「ううん。やってない。春斗は?」
「俺もやってない」
「それなら新しくアカウントを作るよ」
夏美はスマートフォンを取り出し、アカウント登録を済ませると、SNS上にいくつかの質問を投稿した。ナイトメアゲームについて知っている人はいないか? 夢から覚めなくなったことがある人はいないか? 他人と同じ夢を見たことがある人はいないか? すぐに反応はない。そこで春斗と夏美は一度解散し、放課後に再び屋上の踊り場に集まった。
「反応はあった?」
「いや、ない」
夏美はスマートフォンを操作しながら言う。それから目を見開いた。
「あ、でもちょうど今、連絡がきた――これ、ナイトメアゲームの参加者だ」
「え、参加者?」
夏美は届いたメッセージを読み上げる。
「大学生の女です。私は昨日、ショッピングモールでピエロに追いかけられる夢を見ました。屋上から飛び降りたことで助かったのですが、もしかしてナイトメアゲームとはそのことでしょうか? もしそうであれば、情報を共有したいです。連絡待ってます――」
夏美は顔をあげる。
「――これ、この人もわたし達と同じ夢を見てるよね」
「うん。きっとそうだ」
やはり参加者は春斗たちの他にもいるようだ。
夏美が女子大学生とやり取りをする。
女子大学生が言うには、彼女の他にも参加者がいたらしい。彼女はその参加者と共にクリアしたのだという。しかしこれ以上、有益な情報を得ることはできなかった。彼女もまた春斗たちと同じように巻き込まれただけで、ナイトメアゲームの詳細については知らなかったのだ。
頃合いを見て春斗と夏美は解散した。
その日は眠るのが怖かった。またあのゲームに巻き込まれるかもしれない。そう思ったのだ。しかしそんなことはなかった。
そして秋彦が目覚めないまま、あっという間に一か月が過ぎた。もしかすると秋彦は病気で、ナイトメアゲームは関係ないのでは。そんな風に思い始めたころ、夏美から一本の電話がかかってきた。
「まだ起きてた?」
「これから寝るところ」
時刻は午後十一時。ベッドに入ろうと思っていたころだった。
「ナイトメアゲームのことで新しい情報が入ったんだけど」
「どんな?」
「わたしにDMを送ってきた人がいて。その人がこの世には他人を夢の中に呼び出すことができる“夢屋”という人間が存在するとか言ってて」
「夢屋? それとナイトメアゲームにどういう関係が?」
「その人が言うには、わたし達は夢屋が作った夢に呼び出されたのかもだって。夢屋は自由に夢を作ることができるみたいで。ナイトメアゲームという夢を作って、わたし達を夢の中に呼び出したのかもって」
「夢屋……。メッセージを送ってきた人は、信じられそう?」
「うーん、どうだろう。ただ、SNSの投稿を見ると普通の人って感じ。捨てアカとかでもなく」
「なるほど。そういうことなら、また明日、話を聞かせてよ。その人から返信もあるかもしれないし」
「うん。わかった。明日ね。夜遅くにごめんね。おやすみ」
「おやすみ」
春斗は電話を切ると、部屋の電気を消して、ベッドにもぐりこんだ。そして眠りに落ちた――はずだった。
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