第5話

 あれから、三日が過ぎた。


 その間、私はライさんの家にて通常通りの生活をしている。朝に起きて、身支度を済ませて。食事を彼と一緒にとる。仕事に行くライさんを見送ったら、ぼんやりしたり二度寝したりした。

 あー、学校の課題をやらなくていいから楽ではあるが。とにかく、暇だ。夕方になり、ライさんが帰って来る。また、食事を一緒にしてお風呂に入った。上がったら、寝て。それの繰り返しだ。けど、三日目の夜にライさんは思いも寄らない事を告げた。


「……明里ちゃん、ちょっといいか?」


『なあに、ライさん?』


 この三日間で私はライさんに敬語抜きで話すようになっていた。彼も私の事を「明里ちゃん」と呼ぶようになっている。


「君の通っている高校、突き止めたんだ。後、入院している病院も。先輩と二人で駆けずり回ってさ、明里ちゃんの友人だっていう子を見つけて。その子から色々と聞いたんだ」


『え、入院しているって?!』


「……君は死んでない、かろうじてではあるけど。体は生きているよ」


 私はそれを聞いた途端、両目からポタポタと涙が出てきて驚く。一気に安堵感と寂しさが吹き出す感じだ。


『わ、私。もう、あの世に逝くしかないと思ってた』


「大丈夫、明里ちゃんの手術は無事に成功した。んで、今は意識不明な状態ではいるが。竹原たわら総合病院で、入院中だとは友人さんから聞いたよ」


『あの、ライさん達に教えてくれた子というのは?』


「ああ、名前は宇月理咲うづきりささんだよ。明里ちゃんのクラスメートで親友なんだってな」


『……理咲が』


 私はその後の言葉が出なかった。ただ、泣き続ける私の横でライさんは静かに近づき、背中を擦ってくれる。


「理咲さん、君の事をめっちゃ心配していた。毎日、病院に見舞いに行っては明里ちゃんの側にいたらしいぞ」


『そっか』


 私はそれを聞いて、理咲にお礼を言わなきゃと思った。けど、私が体に戻ったら。ライさんには会えなくなる。胸がつきりと痛くなった。


「明里ちゃん、明日になったら竹原総合病院に行くぞ。そしたら、体に戻れるはずだ」


『はい!』


 私は勢いよく、返事をした。ライさんとの共同生活が終わる事に対しての寂しさなどには蓋をする。よしっと気合いを入れるのだった。


 翌日、私はライさんや依都さん、理咲との四人で竹原総合病院に来た。理咲は私が中一の頃に同じクラスになったのがきっかけで、知り合った。それ以降、ずっと友人でいてくれていた子だ。真っ直ぐな黒髪を肩まで伸ばし、切れ長な二重の目が涼しげな印象を与える和風美人で。けど、グレーのフリースにジーンズ、スニーカーというボーイッシュな格好を昔から、好んで着ていた。理咲はなかなかに見かけによらず、サバサバした性格をしている。


「それにしたって、明里が幽霊の状態だって聞いた時は。マジで驚いたわ」


『……理咲、本当に心配掛けてごめん』


「謝らなくていいよ、あんたが無事に戻れるんならさ。これくらい、良い事はないわ」


 理咲はそう言って、カラカラと笑う。依都さんやライさんもにっこりと笑った。こうして、私がいる病室にまで向かうのだった。


 理咲が受付でお見舞いの旨を伝えてくれた。すると、受付のお姉さんが応対してくれる。


「はい、西藤明里さんの病室ですね。二階の奥になりますよ」


「分かりました、ありがとうございます」


 理咲がお礼を述べて、依都さん達を案内する。待合室から少し歩き、エレベーターに乗った。二階に着くと降りて、廊下を歩く。


「……確か、明里の病室は二○三号室だったよ」


 理咲が言うと、ライさんが病室を見つけた。


「あ、ここだな」


「本当だ、鷹崎さん、井原さん。入ってください」


 理咲が先に入り、ライさん達にも入るように促す。私も一緒に付いて行く。そこにはベッドがあり、カテーテルや心電計、人工呼吸器の管などに繋がれた少女が横たわっていた。これが現在の私か……。

 何とも言えない気持ちでその光景を眺めた。


「……明里ちゃん、時間はそんなにない。今から、君を体に戻すよ」


『……お願いね』


 ライさんが言うと、理咲や依都さんも頷く。私も頷いた。


「じゃあ、始める。ちょっと、痛いけど。我慢してくれな」


『うん』


 ライさんは私に近づき、頭に触れた。


「……彼の者の御魂みたま、今ここに戻さむ。我、請い願う」


『……つっ!』


 頭の中にビリビリとした電気のような物が走り抜ける。途端に、割れるような痛みに私は苛まれた。我慢しながら、耐える。


「明里ちゃん、強く願うのよ。体に戻りたいって!」


『……はい』


 弱々しくはあるが、返事をした。私は言われた通りに強く願う。体に戻りたい!早く!

 そう念じたら、ライさんの手が離れた。同時に意識はブラックについてしたのだった。

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