第3話
お昼近くになり、ライさんは身支度をして外出する準備をした。
私はやはり、暇だ。けど、ずっと制服を着ているわけにもいかないし。思いきって、ライさんに言った。
『あの、ライさん』
「どうした?」
『……私、着替えがないんですよ。それに、昨日はお風呂に入れていないし。もしよかったら、服を買いに行ってもいいですか?』
「あ、うっかりしていたな。あんたの衣類とか必要な物を買いに行かないと。ごめん、仕事が終わったら直行で帰るからさ。すぐに、服屋とか行かないといけないな」
『お願いします』
「本当に気づかなくてごめん、そろそろ時間だ。行ってきます!」
『行ってらっしゃい!』
私が言うと、ライさんは小走りで玄関から出ていく。しばらくは見送ったのだった。
あれから、しばらくして。私は暇を持て余していた。ライさんがいないと室内も静かだ。
(あー、こういうのを手持ち無沙汰って言うんだっけ。ライさん、早く帰ってこないかなあ)
ボケーとしながら、仰向けに寝転がる。私の肉体は今頃、棺桶の中かな。それとも、病院のベッドの上で意識不明だとかで横になっているか。ライさんしか私を認識できる人がいない。なら、彼に頼んで調べてもらうしかないか。帰ってきたら、ちゃんと言わなきゃ。そう思いながら、いつの間にやら眠りについていた。
「……おーい、あかりさん。帰ったぞ、起きてくれ!」
『……はっ、ラ、ライさん?!』
私がパチリと瞼を開けたら。ライさんがすぐ側で見下ろす体勢で私の肩を揺さぶっていた。
「起きたか、もう夕方近いんだがな。仕事に行く前に約束したの、覚えてるか?」
『……確か、服とかを買いに行くんでしたね』
「そ、忘れていたらどうしようかと思ったぞ」
ライさんは苦笑いしながら、私から離れる。私は慌てて起き上がった。
『わ、分かりました!』
「……けど、女物は今ひとつ分からないから。仕事先の先輩に付いて来てもらったんだよ」
『え、本当にすみません!』
「いや、謝罪はいいからさ。あかりさん、身支度をしてくれ」
『はい!!』
私は急いで洗面所に直行する。慌てながら、歯磨きをしようとしたが。私の分の歯ブラシなどがない。それを言うとライさんは急いで新品の歯ブラシや歯磨き粉などを出してくれた。有り難く使わせてもらいながら、身支度を済ませるのだった。
洗顔は水で洗うだけにした。髪は手櫛で簡単に整えるだけだが、後でブラシも言わないとなと思う。制服のシワを伸ばした。とりあえずは身支度は完了か。私はできたとライさんに、声を掛けた。
「できたか、そろそろ行かないと。店が閉まると面倒だからな」
『はい、お待たせしました』
ライさんは頷くと、玄関に行く。私も付いて行き、玄関に置いていた革靴を履いた。透けてはいるが、まあ気持ちは大事だ。ライさんがスニーカーを履くとドアを開ける。後に続いた。
家の門前に、一人のジャンパーにジーンズ姿の女性が待ち構えていた。茶髪をショートにして、軽くメイクもしている。ライさんと似たようなスニーカーを履いていた。
「先輩、すみません。お待たせしました!」
「……ライ、やっと来たわね。後ろの女の子が例の浮遊霊さん?」
「そうです、あかりさんと言うんですよ」
「へえ、あかりさんか。まだ、学生さんなの?」
「はい、高三だそうで。あかりさん、この人が仕事先の先輩。名前を鷹崎さんていって、事務所に所属している霊能者さん」
私は改めて、女性を見た。女性もとい、鷹崎さんはにっこりと笑う。
「初めまして、あたしが
『初めまして、西藤明里と申します。よろしくお願いします、鷹崎さん』
「あたしの事は依都で構わないわよ、明里さん」
『分かりました、これからは依都さんと呼ばせてもらいます』
「……とりあえず、これから急いで買い物に行かないとね。明里さん、必要な物をバンバン言って」
私は頷いた。鷹崎さんこと依都さんは家の近くに停めていた自動車に向かう。ライさんと一緒に付いて行った。
依都さんに運転してもらい、私達はまず服屋に向かった。自動車から降りて、依都さんと二人で店内に入る。
「明里さん、サイズを教えて」
『……シャツやトレーナーとかは大体、エルサイズです。スラックスとかも同じかな』
「分かった、デザインで好みのがあったらさ。言ってね」
小声で会話をしながら、品物を見て回った。依都さんは私が気に入りそうなデザインの服を手早く、見つけてくれる。私は近くで見ながら、指で指し示す。頷いてみせると依都さんは買い物カゴに品物を入れていく。それを繰り返し、肌着類も何点かを入れてもらう。初対面とはいえ、依都さんは嫌な顔をせずに付き合ってくれた。
シャツやトレーナー、厚手のコート、マフラーや手袋、ズボンなどなど。今は冬だからとカゴいっぱいに買った。
依都さんはお会計を済ませて、両手にナイロン袋をさげる。
『色々とありがとうございます』
「お礼は後でね、次は雑貨屋さんと。ドラッグストアくらいかな」
依都さんは言いながらも、足は止めない。自動車にたどり着くと、一番後ろのドアを開けた。買った品物をそちらに乗せて、閉める。運転席側のドアを開けて依都さんは乗り込んだ。私も窓からスルリと入り込む。雑貨屋に向かって自動車は走り出した。
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