第2話
ライさんの家にて、居候する事になってから半日程が過ぎていた。
ライさんは早めの夕食を済ませると、寝室へ行ってしまう。私は途端に暇になる。今は午後八時頃だ。もう、夜で辺りは真っ暗だが。外に出ると外灯がぽつぽつとついていた。
仕方ないから、考えてみる。ライさんって本名は何というんだろう。それは出会った当初から気になっていた。
よし、朝方になったら訊いてみますか。気持ちを切り替えるために軽く両頬を手で叩く。痛くはあるが、余計な事を考えなくて済むし。家の中に入り、眠りについた。
翌朝、午前六時頃に目を覚ます。ライさんも眠たそうにしながら、起きてくる。寝室から洗面所に直行していた。私は通っていた高校の制服のままでいる。やはり、お風呂に入って着替えはしたい。昨日は食事もとらずにいたから、お腹が減っている感覚はさすがにある。
台所に行き、待っていたら。ライさんが戻ってきた。
「……はよう、あかりさん」
『おはようございます、ライさん』
挨拶を交わすとライさんは冷蔵庫を開ける。野菜ジュースらしきペットボトルや食パンの袋などを両手に持ち、テーブルの上に置く。
「あかりさん、腹減ってない?」
『さすがに減ってますね』
「分かった、今からさ。パンを焼くから、待ってて」
ライさんは慣れた様子で袋から、食パンを出してオーブントースターに入れた。バターやジャムを塗る用のナイフやスプーンを準備する。次にフライパンをキッチン棚から出して火にかけた。温まったら、卵を割り入れる。四個くらいをそうしたら、ローストハムも出してきた。フライパンに水を入れて蓋もする。蒸し焼きにするらしい。出したハムを包丁で食べやすい大きさに切る。フライパンの蓋を取り、火を止めた。水を流し台に捨てて蒸し焼きにした卵もとい、目玉焼きをお皿に盛り付ける。
次に再び、フライパンを火に掛けてキッチンペーパーで軽く拭いた。そうしたら、切ったハムを軽く焼く。
焼けたら、それもお皿に盛り付けた。少し経ったら、パンも焼けたらしい。オーブントースターがチィンと鳴る。扉を開けて取り出した。
「あかりさん、ジャムは何がいい?」
『えっと、できたらマーマレードが良いです』
「ん、分かった」
ライさんは二つある内のマーマレードの瓶の蓋を開ける。先にバターを塗り、マーマレードも塗ってくれた。ハムエッグにトースト、コーヒーに。簡単な野菜サラダを手際よく、用意した。
『……ライさんって料理が得意なんですか?』
「うーむ、普通だと思うよ。一人暮らし始めてから、もう五年は経つからさ」
『へえ、慣れてるって事ですね』
私が言うと、ライさんは照れくさそうにする。私はお箸を取り、両手を合わせた。
『いただきます』
「ん、俺も。いただきます」
ライさんはトーストを取ると大きく口を開けて、かぶりつく。私も普通にトーストを手に取る。あれ、触る事ができた?!
「……あ、びっくりしてる?」
『はい』
「俺が触った物なら、あかりさんも触る事ができるんだ。いわゆる特殊体質なんだよな」
へえと言いながら、私はトーストにかじりついた。あ、美味しい。味わうようにゆっくりと食べる。ハムエッグには塩コショウが効いている。
『美味しいです』
「……ありがと、けど。適当に作ったからさ。褒めても何も出ないよ」
ライさんはポリポリと頬を掻きながら、言った。
『あの、それはそうと。ライさんって本来の名前は何ていうんですか?』
「あ、言ってなかったな。ごめん」
『いえ、差し障りがあるんなら。いいです』
「……俺の本来の名は、ライネ・イハラっていうんだ。日本風に言ったら、井原ライネ。父がドイツ人で母は日本人なんだよ」
『えっ、ライさんってハーフだったんですか?!』
驚きながら言ったら、ライさんは苦笑いする。私はサラダをつつきながら、複雑な胸中を持て余していた。
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