第27話
俺はサラリと言われたその言葉に驚愕した。
そんな便利なスキルをこのかぐや姫は持っているのか?
まさしく絵に描いたようなチートスキルではないか。
俺はかぐや姫のステータスが気になった。
「そなた、自分の状態を確認したことはあるか」
「え??何それ」
そもそもメニューを開いたことがないのか。
まあ知らないのも無理はないだろう。
この異世界でそんなものがあることなど、どこかで誰かに教えてもらうか、異世界テンプレの知識がないと発想すら湧かない。
「目の前にディスプレイが出るイメージを思い浮かべながら、『メニュー』と言ってみよ」
「え、何それ」
「いいからやってみよ」
かぐや姫は訝しげに俺を見たが、素直に行動に移すことにしたようだ。
「メニュー」
突如、かぐや姫目の前に半透明のディスプレイが浮かび上がった。
「ワッ!!びっくりしたー……何これ」
かぐや姫は驚いて一瞬、身体をピクリとさせたが、やがて興味津々にディスプレイを眺め出した。
この世界で俺以外の転生者の様子をこれまで確認したことがなかったが、予想通りどの転生者にも同じシステムが割り当てられているようだ。
俺はかぐや姫の横からステータスを覗き込んだ。
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■ステータス
名前:なよ竹のかぐや姫
レベル:50
体力:550 / 550
魔力:630 / 860
攻撃力:780
防御力:500
ロール詳細はこちら >
装備詳細はこちら >
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……こいつ、俺より強くねー……?
てか、レベル50って何だよ。
むしろこのまま鬼ヶ島に連れて行きたいくらいの戦力だ。
というか……このレベルなら俺たちがババアを倒すまでもなく、かぐや姫一人でも余裕で勝てたかもしれない。
「へー、なんかゲームみたいじゃん」
かぐや姫は興味深げにディスプレイを眺めた。
「レベル50って書いてあるけど、これってなんかすごいの??」
「んー……そこそこといったところだな。ちなみにそなた、この異世界に転生してきてからどこかで誰かと戦った経験はあるのか?」
「え、あるわけないじゃん……ずっとおんじ達に育てられて家の中だよ」
「まあ、そうだよな」
と言うことは、転生初期レベルですでに50ということか。
これもバグだろうか。
そうなると、気になるのはかぐや姫に割り当てられているロールだ。
「画面下の方にある『ロール詳細』というのがあるだろう。それを選んでくれ」
かぐや姫はディスプレイの画面を切り替えた。
「これでいいの??」
俺は再びディスプレイを覗き込み、ロール設定画面を確認する。
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■ロール設定
○設定
ロール:月人
スキル一覧:
・特殊魔法
・物質生成
・覇気解放
・神聖魔法
・シャイニング
・月神降臨
・召喚魔法
・サラマンダー
・シヴァ
・ラムウ
・フェニックス
・バハムート
・ベヒーモス
・リヴァイアサン
◯ロールチェンジ
変更可能なロールはありません
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……いや、反則だろ、このロール。
なんだこの召喚魔法の多さは。チートにも程があるだろ。
あと何、この神聖魔法って。
響きからしてなんかヤバそうな技名が並んでるんですけど。月神降臨とか。
鬼ヶ島連れて行けば、速攻クエスト達成だろ、こんなん。
惜しむらくは、チート級の強さを持つこのかぐや姫を鬼退治に参戦させられないことだ。
さすがにかぐや姫が鬼を討伐などしてしまえば、物語の根幹に関わる重大な変更が発生してしまう。当然クエストは未達扱いになり、俺の転生への道は閉ざされるだろう。
かぐや姫は難しい顔でディスプレイを眺めていた。
「なんか色々出てきたけど、何なのこれ??てか、月人って」
「かぐや姫は元々月の都の者だったはずだ。だからではないか」
「あ!そっか、そういえばそんな話だったね」
それにしても最強すぎる。月人。
そもそも人間ではないし、『竹取物語』でも月の都の者達は人智を超えた力であっという間に警護の侍たちをねじ伏せ、かぐや姫を月へ帰していたな。
その意味では、物語の設定には比較的近いのか。
そう考えると、シャイニングは身体から光を放つ魔法か。
帝に放っていたアレか。おそらく出力を上げると攻撃できるのだろう。
とすると、月神降臨の方はラストシーンのアレか。
神系のロールだから、召喚獣で大自然の力を意のままに操れるおまけ付きという訳だ。
反対に、魔王が持つような闇系関連の魔法や召喚術はない。
一応の辻褄はちゃんと合っているようだ。
俺は心の動揺を隠そうと、気持ちを落ち着かせた。
よし、この「特殊魔法」が何なのか見てみよう。
「かぐや姫よ、その特殊魔法にある『物質生成』の詳細を選んでくれ」
「これ??」
画面が切り替わり、スキルの中身が見えるようになった。
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■スキル詳細
○スキル名称:物質生成
○詳細:
・特殊魔法の一つで、任意の物質を一つだけ生成できます。
・物質は指定した物質名がその機能を問題なく発揮できる単位で一つだけ生成されます。
・複数の物質を同時に生成することはできません。他の物質を生成する場合、まず術を解除する必要があります。
・術の発動中は魔力を消費します。消費魔力は物質維持のためのエネルギーにより異なります。
・生成した物質がエネルギーを消費して何らかの機能を発揮する場合、別途それに必要なエネルギーに応じた魔力が消費されます。
・総体積が直径十尺の球の体積を超える物質は生成できません。生成後の物質の総体積が左記を超えた場合も、自動的に術が解除されます。
・どの世界にも存在しないものを生み出すことはできません。
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詳細を見る限り、スマートフォンを生み出せたのはこのスキルを発動させたためで間違いないだろう。
ステータス上、魔力が減っていたのは、おそらくスマートフォンの維持コストだ。
魔力は一晩寝れば回復する。
スマートフォンの維持と使用で魔力切れを起こす前に寝ていたので、スマートフォンの生成が発動されたまま違和感なく過ごせていたのだろう。
確かかぐや姫魔力が800後半で、今の魔力が600台だった。
となると、今時点で魔力を200ちょっとくらい使っている計算になる。
それなりに大きな魔力消費だ。
だがよく考えれば、スマートフォンは科学技術が詰め込まれた精密機器。
それに機能を発揮するためには本体の稼働エネルギーだけではなく、どこかから情報を受信したり地位情報を計測したりするための外部システムも必要になる。
その辺りの設備は見当たらないので実態がどうなっているか不明だが、それなりに維持運用コストがかかっているはずだ。
異世界をスマートフォンとともに過ごすのは、決して簡単なものではない。
それに物質の総体積制限があるので、例えば広範囲にわたって爆発を起こさせたりするのは無理か。さすがに無制限の完全チート能力ではなさそうだ。
かぐや姫はディスプレイを見て眉間に皺を寄せた。
「何これ?なんか色々説明書いてあって、わかんない」
「ここに書いてある通りだが、簡単に言うと、そなたには好きなものを何でも一つだけ作り出せるスキルがあるらしい」
「スキルって?」
「雑に言うと特殊能力のことだ」
「ウソ、私そんな特殊能力持ってるの??」
「ああ。おそらくそれでスマートフォンを作り出すことができたのだろう。試しに術を解除してみればわかるが」
かぐや姫はそこで頭を捻った。
「術解除??何、どうやればいいのさ」
「それは余にもわからん……何か、スマートフォンを消すようなイメージでやってみればいいのではないか?」
「え?でもスマホ消えたら困るじゃん」
「いや……生成するスキルがあるんだから、それでもう一度作り直せば良かろう」
「あ、そっか」
かぐや姫と話していると何だか謎の疲労感が溜まるが、とりあえず俺の言うことを素直に聞いてくれた。
「うーん、スマホ、一旦消えて??的な??これでいいのかな」
かぐや姫が念じると、次第にスマートフォンが薄くなり、徐々に消えていった。
「え!やばいどうしよう!スマホ消えちゃう!」
「いや、そう願ったのだから、当然の結果だろう……」
手元のスマートフォンが完全に消えたところで、かぐや姫は軽くパニックになっていた。
「やばいやばい、早く戻さなきゃ!」
「ちょっと待て。その前にこの能力でどこまでできるのか試してみてはどうだ」
「え、どゆこと??」
「『物質生成』のスキルが先ほどの記述通りなら、現実世界にあるものならある程度のものは作り出せるはずだ。試しにスマホ以外で何か念じてみよ。ただし、あまり大きなものや複雑なものを生み出すと魔力切れを起こす可能性があるから、簡単なもので試してみるのだ」
「えー、そんな急に言われても」
「試すだけだ。何でもよい。例えば今、欲しいもので構わぬ」
「うーん、じゃあ、スマホ充電器」
「いや……充電器無くても動いてただろ、アレ。それにスマホがない状態でどうやって充電するのだ」
「あ、そっか!じゃあ、ハンドクリーム。あ、それかグミ」
「……まあ、もう何でもよい」
「じゃあ、ハンドクリームね」
かぐや姫は両手を前に突き出した、強く念じた。
一生懸命な感じが何だか可愛い。
「んー、ハンドクリームッ……出てこいっ!!」
すると、ポンッ!という大きな音と当時に、空中にハンドクリームのチューブが現れ、かぐや姫の手元に落ちてきた。
「え!すごい!ハンドクリーム出てきた!!」
「これで実証できたな。念のためちゃんと使えるか試してみるか」
かぐや姫は早速ハンドクリームの蓋を回して中身を出し、手に取った。
「おおー!前に使ってたのとおんなじだよ!!お肌しっとり」
「じゃあ、そいつを消してまたスマホを出してみよ」
「え?ああ……そっか、一度に一つしか出せないんだっけ。なんか不便だなー」
「贅沢言うな。何でも好きなものを一つ出せるだけでも、かなりのチートスキルだぞ」
かぐや姫はふくれ面で俺を見たが、すぐにハンドクリームに手を向けて念じ始めた。
「ハンドクリームさん、ごめんなさい、一旦消えて!」
するとハンドクリームは先ほどのスマートフォンと同じく徐々に透明になっていき、やがて消滅した。
「これでスマホが出せるはずだ」
かぐや姫は俺の話を無視するように手を見つめながらこすっている。
「や!ちょっとマジで!?」
「どうした」
「さっき手に塗ったクリーム、なんか全部無くなっちゃった……手カサカサ」
「物質は一度に一つしか出せないのだから、ハンドクリームの本体も消えてしまうのか」
「えー、そんなぁ」
「これでこのスキルの性質も判ったな。生み出した物質は、術を解除した瞬間に全て無くなるということだ」
「じゃあ、ずっと使い続けるものとかもダメってことね」
「あと食料も止めておいた方がいいだろうな。体の一部になったものが消滅すると、何が起こるかわからない」
物質生成のスキルで生み出されたものが最終的に分子レベルでどうなっているかは全く不明だが、あえて危険な橋は渡らない方がいい。
「じゃあ、もう一回スマホ出すね」
かぐや姫は両手を突き出して念じた。
「スマホー、出てこいっ!」
先ほどと同じく、ポンッと大きな音が鳴って空中にスマートフォンが出現した。
かぐや姫はそれをすぐにキャッチし、急いで画面を確認する。
「良かったぁ!入れたアプリ全部そのままだ!履歴もちゃんと残ってる」
「以前生成したものはそのまま引き継げるのか。これも発見の一つだ」
「すごい!なんか色々試してみるの面白い!!」
先ほどまであんなにスマホが消えてビビっていたのに、この変わりようだ。
俺は得意げになってかぐや姫に言った。
「これが異世界で暮らす醍醐味の一つだ。スキルはある意味で魔法みたいなものだ。自分に与えられたスキルを研究し、どういった使い方をするとより異世界で活躍できるか考えるのだ」
「すごーい!ツルちゃん、なんか先生みたい!いや、転生しまくってるから、転生の先輩か!」
「まあ、何と呼んでくれても構わんが……」
しかし、かぐや姫のこのスキルは本当にすごい。
できれば彼女を仲間に加えたいくらいだ。
……いや、待てよ。
別に直接鬼退治に参加せずとも、サポート役で加わる手もあるか。
かぐや姫がパーティーにいるだけで、これからの旅がかなり楽になる。
物は試しだ。
ダメ元で誘ってみるか。
俺はかぐや姫に向き直った。
「時にかぐや姫よ。そなた、我々のパーティーに加わらぬか?」
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