第22話
俺たちは夕食を食べ終わると、ババアが寝室として使っていたらしい空間へと向かう。
その区切られた部屋には、敷布団が畳んで置いてあった。
これもバグなのか。それともあの山姥が何らかの手段で用意したのか。
いずれにせよ、畳やムシロに雑魚寝するよりはよほどマシだ。
桃太郎は布団を敷きながらつぶやいた。
「ババアとの戦いの傷を早く治さなきゃなぁ。明日に備えて、もう寝るか」
「そうだな」
すかざすポチが興奮した顔でハァハァ言いながら俺の布団に入ろうとしてきたので、思い切り手で押し退けた。
寝ている間にコイツに何をされるか分かったものではない。
するとポチは不服そうな顔でクーン、と鳴いて、桃太郎の布団へと潜り込んだ。
明かりを消して桃太郎たちの様子を伺う。
幸いにも、すぐにいびきをかいて寝たようだ。
やはり今日のババアとの戦闘で、皆疲れ果てていたのだろう。
桃太郎、ポチ、猿が全員寝入っているのを確認すると、俺は音を立てぬようにこっそりと布団を抜け出した。
念のため誰もついてきていないのを確認する。
さらに念を入れて、厠らしき空間まで行き、仕切りを閉じた。
俺は自分のステータスを確認してみる。
分裂した片割れではあるが、あの時確かにババアを倒したことになっているはずだ。
ヤツが転生者なら、新たなロールが使えるようになっている可能性が高い。
「メニュー」
半透明のディスプレイを確認する。
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■ステータス
名前:ツルちゃん
レベル:25
体力:65 / 200
魔力:100 / 100
攻撃力:150
防御力:130
ロール詳細はこちら >
装備詳細はこちら >
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レベルとステータスが一気に上がっている。
あのババア、ボス級の強さだったからな。
これくらいは上がって当然か。
にしても、やはり先ほどのババアとの戦闘で体力かなり削られてるな……。
続いてロール設定画面を開き、本来の目的であるロールを急いで確認する。
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■ロール設定
○設定
ロール:スナイパー(デフォルト)
スキル一覧:
・狙撃
・空中狙撃
・銃整備
・カムフラージュ
・ランドナビゲーション
◯ロールチェンジ
変更可能なロール:>テイマー【NEW!】、魔法使い【NEW!】、運び屋、鑑定士、工作員、ゴルゴ
(以下は現在ロックされており選択できません)
ロール:魔王、宇宙連邦騎士団長、ストレッチマソ、……▷
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ロールチェンジの項目を見て、俺は歓喜した。
俺の期待通り、新たなロールが追加されている。
「テイマー」と「魔法使い」か。
俺の記憶が確かならば、テイマーは転生25回目くらいで行ったモンスター育成の異世界でのロールだ。
野生にいる様々なモンスターを捕まえて、トレーニングやアイテムを駆使して強く育て上げ、モンスターバトルの大会で優勝を目指す異世界だった。
あの異世界設定はキャラ同士の戦闘も無かったが、戦略と課金力をバランスよく駆使する必要があるゲームに近かったので個人的にかなり楽しかったな。
過去の転生で5本の指に入るかもしれない。
この世界でどの程度このロールが使えるのかは未知数だが、鬼退治の仲間を増やすこともできるかもしれない。
いや、そう言えばあの柴犬と猿がいたな。
アイツらを手なずけるのに使えるかもしれない。
とりあえず、今は過去の楽しかった思い出に浸っている場合ではない。
そして気になるのはもう一つのロールの方だ。
魔法使い。
これはかなり期待できる。
これまでの規則から考えて、あのババアが持っていたものだろう。
分身したり、口から火を吐いていた時点で超能力系のスキルを期待していたが、これは思わぬ収穫だった。
そもそもステータスに「魔力」の項目がある時点で何らかの魔法を使えるロールがあるはずだと想定していたが、ついに手に入った。
恐らく「魔王」がこれの最上位互換と思われるが、まだ贅沢は言うまい。
魔法が使えるだけでもかなりのアドバンテージだ。
俺は早速、魔法使いのロールに付属しているスキルを確かめることにした。
「ロールチェンジ 魔法使い」
その直後、俺の身体が緑の光に包まれた。
変更が完了した証拠だ。
俺は心を躍らせながら改めてディスプレイを確認した。
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■ロール設定
○設定
ロール:魔法使い
スキル一覧:
・火系魔法(詳細はこちら→)
・氷系魔法(詳細はこちら→)
・風系魔法(詳細はこちら→)
・水系魔法(詳細はこちら→)
・雷系魔法(詳細はこちら→)
・バリア魔法
◯ロールチェンジ
変更可能なロール:>テイマー、運び屋、鑑定士、工作員、ゴルゴ、スナイパー
(以下は現在ロックされており選択できません)
ロール:魔王、宇宙連邦騎士団長、ストレッチマソ、……▷
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おお。すでに結構な魔法が使えそうだ。
これはひょっとすると、このロールでスキルアップすれば、魔法が使えるような強力な闇属性魔法が使えるようになるかもしれない。
桃太郎には、ババアを倒したことで得た経験値でレベルアップしたせいで魔法が使えるようになったことにでもしておくか。
それにしても、ようやく俺にも鬼退治の見通しが出てきた気がする。
もう少しババアクラスの敵とやり合って、レベルを上げてみても良い。
それに、一寸法師が見つかれば自ずと鬼までたどり着くかもしれない。
鬼の情報収集を兼ねたいい腕試しが出来そうだ。
俺は寝床に戻ると、ほくそ笑みながら明日に備えてゆっくり休むことにした。
翌朝、俺と桃太郎は二手に分かれ、京で鬼の情報を集めることにした。
ポチと猿を街中で連れ回すわけにもいかなかったので、二匹には屋敷の守りを兼ねて留守番を頼んだ。
庭に牛車が置いてあるし、火鼠の皮衣や札、生活インフラなど、屋敷には重要なものが置いてある。
万一にでも賊に侵入されるとまずいし、貴族の牛車が見つかると色々と面倒だ。
俺は桃太郎と分かれると、俺は早速、一寸法師のいる邸宅がどこにあるか情報収集を始めた。
俺は必死で記憶をたぐり寄せる。
一寸法師が訪ねていった家は、確か京で一番大きい屋敷だったはずだ。
俺はそれとなく道行く行商人らしき人物に声をかけた。
「そこの人、つかぬことを伺うが、京の都で一番大きな屋敷を持っているのはどこの貴族かご存知か」
行商人は俺に、何を言っているんだといった顔で答えた。
「そりゃあ、かぐや姫様の御殿に決まっているだろう。あ、もしかしてアンタ、旅の人かい?」
「ああ、そんなところだ。京の都に来たのは初めてで、これほど大きな町は見たことがなくての。せっかくなので、一番大きな屋敷を見物していこうと思っておるのだ。ちなみにそのかぐや姫様の御殿とやらの次に大きな屋敷はどこかの」
行商人は腕を組んだがすぐに答えた。
「そうさねぇ……かぐや姫様の邸宅に次ぐとなると……右大臣阿倍氏の邸宅か、左大臣藤原氏の邸宅のどちらかじゃあねぁかね」
阿倍氏と言えば、ババアの雇った賊にやられた貴族か。
あの貴族、それほどすごい人物だったのか。
そう言えば右大臣って言ってたな。昔の政治家か官僚で言うところのトップクラスか。
右大臣阿倍氏の方は『竹取物語』の登場人物だ。
と言うことは、『一寸法師』はもう一方の左大臣藤原氏の方か。
「その藤原氏の邸宅はどこにある」
「三条の方だね」
「すまぬが、そこまで案内してくれぬか」
「ああ、構わねぇが……なんせかなり広い敷地だからな。俺も仕事があるから、門のあたりまででいいか」
「問題ない。助かる」
俺は行商人の後について三条まで行き着いた。
「ここが藤原氏の邸宅だ」
行商人が指差す方向に立派な門構えの大きな屋敷が見えた。
敷地を囲う塀は道路沿いに真っ直ぐ伸びており、区画の端まで続いているように見えた。
確かにこれは京でも一、二を争う大邸宅だ。
「ここでよい。礼を言う」
行商人と別れた後、俺は門から屋敷の中の様子を伺う。
宮仕えのためか主人は留守のように見えた。
とりあえず俺は立派な門の敷居を跨いで敷地の中へと入る。
地面には玉砂利が敷き詰められており、奥には美しく整備された庭園が垣間見えた。
俺は玄関の近くまで足を運んだが、人影が見えない。
そう言えば今まで考えもしていなかったが、この世界で他人の家に訪問するときはどうすればいいのだろう。
インターホンがあるわけでもないので、とりあえず叫べばいいのだろうか。
いや、それだと明らかに不審者だよな……。
俺はとりあえず誰かいないか屋敷の周囲を見て回るも、やはり人影が見えない。
それにしても、なんでこんなに静かなんだろう……。
俺は再び玄関まで戻ったところで、視界の下端の方で何やら動く黒い影に気づいた。
真下の足元に目をやると、親指ほどの身長の人物が立っている。
その時突然、その人物から甲高い声がした。
「き、貴様!何やつじゃ!」
こんなにあっけなく見つかるとは。
コイツ、どう見ても一寸法師だ。
見た目も袴を着た男で、腰に刀を模した針を差している。
では、この邸宅で当たりか。幸先が良い。
俺は怪しまれないよう、冷静に自己紹介した。
「余はとある事情で鬼を成敗する必要がある者だ。ここに剣客の一寸法師殿がいると聞いてきたが、そなたのことか?」
小人の男は驚きの表情を浮かべた。
「いかにも、拙者が一寸法師だが……なぜ拙者を知っている?」
俺はもう隠す必要もないと判断し、単刀直入に確認した。
「うぬも転生者か?」
一寸法師はハッとしたが、その反応はババアと一緒だった。
間違いなくこの男も転生者だ。
そうと決まれば話は早い。
一寸法師は全てを悟ったようで、俺に話しかけた。
「……その質問をすると言うことは、そなたもか?」
「今の発言はYESということだな。であれば話は早い。余は諸事情で今、『桃太郎』の雉ポジションでクエストを進めておるのだ」
一寸法師は俺を訝しげに見る。
「そなた、雉要素のカケラも見当たらないが……」
「話せば長くなるが、余は元々『鶴の恩返し』の鶴なのだが、クエスト達成であるストーリー完結に失敗したので、ストーリーを乗り換えたのだ」
「なんと……!そんなことができるのか!」
俺は一度、鶴の姿に戻り、再び美少女の姿へと変身した。
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