第18話
次の瞬間、俺の体は緑の光に包まれた。
暗くて水面に映る姿がわからないが、声を出せば簡単だ。
「あー」
間違いない。イケオジボイスに変わっている。
ロールチェンジは成功だ。
すでにババアがトチ狂ったような形相で叫びながら目の前に迫っていた。
だが、こちらはプロの殺し屋にロールチェンジしたのだ。
いくらババアが規格外とは言え、これでそれなりに渡り合えるだろう。
俺は無意識にサバイバルナイフを抜き、襲ってくるババアの頸動脈目がけて振り下ろした。
さすがのババアも一瞬怯んで、腕でガードした。
俺はすかさずガードの空いた腹の思い切り拳で殴りつける。
ババアは呻き声を上げてうずくまった。
俺はナイフを逆手に持ち替え、間髪入れずにババアに振り下ろす。
だがババアもまだまだ負けてはいない。
俺の腰を思い切り掴んで倒しにかかった。
さすがの俺も体勢を崩されてナイフで刺突し損ねた。
よく考えたら、体の強さは美少女のままだ。
というか、顔をゴルゴにするくらいなら、肉体の方をまず強化しろよ……。
だがロール自体に文句を言っても仕方がない。
ここは与えられた条件で何とかするしかないのだ。
ババアは俺の腰を掴んだまま思い切りスイングを始めた。
景色がグルグル回る。頭に血が上りそうだ。
ババアはスイングに勢いをつけた状態で俺を放り投げる。
俺は池の外まで吹っ飛ばされたが、ゴルゴのロールで身につけている体術で何とか受け身を取り、身体へのダメージを最小限に抑えた。
とはいうものの、やはりゴルゴの体術は筋肉の鎧をまとったデューク東郷クラスの体格で釣り合うものなのだろう。
この少女の華奢な身体では、そろそろ限界が近いかもしれない。
すでに身体のあちこちがかなり痛む。
俺はその痛みを堪えながらゆっくりと立ち上がる。
ババアも先ほどの攻撃でそれなりのダメージを食らっているようだ。
次の一撃。
おそらくそれが決定打になる。
ババアは鬼の形相で俺に向かって突進してくる。
俺はギリギリまでババアが接近するのを待ち構えた。
ババアが俺の身体を掴もうとした次の瞬間——
俺はすぐに鶴の姿へと変身し、真上へ飛び立つ。
ババアは俺の身体を掴み損ねてバランスを崩した。
同時に俺はババアの背後を取る。
頭上を仰ぎ見るババアと目が合った。
俺はそのままババアの背後に着地し、サバイバルナイフで胸を貫いた。
ババアは一瞬、小さな呻き声を上げた後、力無くその場に倒れた。
俺も体力の限界を迎えていたが、コイツから聞き出さなければならないことがある。
俺はまだババアに息があるのか確認したが、すでにこと切れていた。
やはり、ゴルゴのロールだと相手を倒さないようにするのは難しいな。
と言っても、そもそも相手が強敵で全力を出されている状態では、こちらも手加減などできないのだが。
だが、まだもう一体残っていたはずだ。
桃太郎が倒す前にギリギリ生かすようにすれば話を聞き出せるかもしれない。
俺は全身の痛みを堪えながら、屋敷の方を向いた。
俺は忘れないうちにロールを戻すことにした。
「ロールチェンジ スナイパー」
ちゃんと女の子の声に戻っていることを確認し、途中に落ちていたスナイパーライフルを回収した後、桃太郎元へと急いだ。
屋敷の中ではまだ桃太郎とババアの片割れが交戦中だった。
だが、さすが桃太郎。
ババアの息が上がって、劣勢になっているようだ。
これは俺が助太刀するまでもないかもしれない。
桃太郎が一瞬、こちらに気を向けた。
「おー、ツルちゃん。その様子だと、ババアやっつけたのか」
「
「ああ、助かるよ。やっぱこいつ、強いわ」
俺は即ババアの頭に狙いを定めてライフルを撃った。
ババアは反射的に俺の打った弾を腕でガードしたが、桃太郎がその隙を見逃さず、すかさず間合いに入り込んで一太刀浴びせた。
叫び声を上げて倒れるババア。
桃太郎がすぐに止めを刺そうとしていたので、俺は急いで引き止めた。
「待て!桃太郎。こやつから情報を引き出すぞ」
桃太郎は振り上げていた刀を止めて手を下ろした。
「でも、早くやっつけちゃった方が良くない?」
「それはそうだが、そもそもこやつが我々をここに招き入れた理由を知りたい」
「そうねー、確かに。あれ、てか、ポチどこ行った?」
「ババアに吹っ飛ばされてしまったわ。後で探しに行こうと思う」
「マジでー?大丈夫かな」
その時、向こうから猿がポチを抱き抱えて走ってきた。
「おお!無事だったか!」
ポチはキャンキャン吠えながら俺の足に擦り付いて、腰を上下に激しく動かし始めた。
これくらの元気があるなら、問題ないだろう。
俺は倒れているババアを拘束して逃げられないようにした後、尋問を始めた。
「山姥よ。改めて問う。我々をこの館に招き入れ、命を取ろうとした理由は何か」
ババアは沈黙していたが、桃太郎が刀を顔に当てて脅したところ、素直に口を開いた。
「……かぐや姫の身体が欲しかったんだよぅ」
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