第13話

 俺は賊から奪い取った衣を鑑定にかけてみた。


----------

鑑定結果:


アイテム名:「火鼠の皮衣」

属性:火


体力:+10

魔力:+10

防御力:+100


その他:火属性攻撃を吸収

----------


 火鼠の皮衣?

 どこかで聞いたことがあるような……。


 俺は鶴の姿に変身し、先ほどの牛車まで舞い戻った。

 衣の千切れている部分と貴族が握りしめていた布の切れ端を合わせてみる。

 断面はピタリと一致した。

 念のため、先ほどと同じ鑑定スキルを発動し、布の切れ端の正体を確認した。

 結果はやはり同じだ。


 貴族が高価なアイテムを持参して、どこかへ持っていく物語——

 そういえば、付き人が「姫のための宝」とか言っていたな。

 これはその「姫」へ届けるものか——


 思い出した。

 昔話で一番有名な姫と言えば、かぐや姫。

 『竹取物語』だ。


 記憶が曖昧だが、確かかぐや姫に求婚した5人の貴公子がいて、宝物を持ってくるよう無理難題を押し付けられ全員玉砕していたはずだ。

 となると、目の前のこの男はそのうちの一人か。

 徐々にストーリーを思い出したが、そう言えば火にくべても燃えない衣を要望されていた貴公子が一人いたな。


 だが、同時に俺はある違和感を抱いた。

 確かストーリー上は求婚を申し込んだどの貴公子も、かぐや姫の要望に応えられずに失敗したはずだ。

 火鼠の皮衣も、本物かどうか確かめるために火にくべたところ、燃え尽きたはず。


 俺は改めて手に持っている玉虫色の衣を眺める。

 先ほどの鑑定の結果——アイテム名が確かに「火鼠の皮衣」だった。

 この鑑定スキルに偽りがないとすると、こいつは本物ということになる。

 備考欄に「火属性攻撃を吸収」とかも書いてあったしな……。


 だが、そうなると話が矛盾してくる。

 これがもし本物ならば、『竹取物語』のストーリーが破綻する。

 これを届けられたかぐや姫は、約束を守るべく、この貴族と結婚する羽目になっていたはずだ。


 暗殺された貴公子と、本来、偽物だったはずの「本物」の皮衣。

 何やらきな臭い匂いがしてきた。


 だが、俺の目的はあくまで「鬼退治」の成功だ。

 少しばかりこの件は気になるが、今は京に向かうことを最優先にしよう。


 俺は鶴の姿に変身すると、牛車の進行方向に向かって街道沿いに飛んでいった。

 この貴族がかぐや姫の元に宝を届けに向かっていたのであれば、牛車の行き先はどこか大きな都かもしれない。

 たしか、竹取翁はかぐや姫を見つけてから金銀財宝を手に入れて田舎から都に引っ越していたような。いや、違ったかな……。

 いずれにせよ、これほど豪華な牛車を持っている貴族だ。

 少なくとも男がどこかの大きな都住まいであることは間違いなさそうだ。


 飛び続けること小一時間、道が真っ直ぐに続いていたおかげで迷わずに済んだが、ついに大きな都に辿り着いた。

 碁盤の目に区切られた街並みや人の賑わい、南面にそびえる大きな赤い門から見て、ここが京の都で間違いないだろう。

 俺はすぐに方向転換し、急いで桃太郎たちの元へと向かった。




 俺が帰還すると、桃太郎たちはどこかから狩ってきた獲物を捌いて、焚き火で焼いて食べているところだった。


「お、ツルちゃん、おかえりー。どうだった?」

「何とか京への道を見つけたぞ。今から出発すれば、今夜までに京に着けるだろう」

「マジお疲れ!これ、ツルちゃんも食べなよ」


 桃太郎は焚き火に炙られている肉を俺に差し出した。


「これは何の肉だ?」

「いーからいーから」


 なぜ、そこを隠す……?

 だが肉の焼けた旨そうな匂いに俺の食欲は急激に刺激された。

 まあ、コイツらも食ってるくらいだから、何の獣か知らないがまともに食べられる肉なのだろう。


「では、いただくとするか」


 俺は肉を一口頬張る。

 脂と旨味が口の中いっぱいに広がった。

 牛にも似ている気もするが、今までに食べた記憶のない味だ。


「どう?美味いべ」

「ああ、これは美味だな」


 俺はそこで、今ちょうどアイテムの真偽を確かめることができることに気づいた。


「時に桃太郎よ、実は道中で世にも珍しい皮衣を見つけての」

「え、なになに?見たーい」


 俺は袂に入れていた火鼠の皮衣を取り出した。


「すげー!何これ、光ってんじゃん」


 小学生のような感想だったが、まあ驚くのも無理はないか。


「特別な動物の皮か何かで作られているようなのだ。どうやら火にくべても燃えないらしい」

「へー!すげー」


 俺は貴族の手の中にあった切れ端を見せた。


「真偽のほどを確かめるべく、この切れ端を焚き火に入れてみよう」


 俺は皮衣の切れ端を焚き火にくべてみた。

 どれだけ炙っても、皮衣はびくともせず、徐々に明るい光を放ってきた。

 これで俺の鑑定スキルにも狂いはなかったことが同時に判った。


「すげー!これ、装備で身につければいいじゃん」


 俺は桃太郎に言われるまで気づかなかったが、この皮衣、確かに売るより装備した方が鬼の討伐に役立ちそうな気もしてきた。

 確か鑑定結果では、火属性攻撃を吸収とあったはず。

 鬼の火炎攻撃を防ぐのに役立つかもしれない。


「ツルちゃん、これどこで見つけたの?」

「実は街道で貴族の皇子らしき人物が賊に襲われていたのだ。余が駆けつけた時にはすでにこと切れていたが、近くにまだ賊がいると思い探したところ運よく見つかったので、そいつらを倒して取得したのだ」

「すごいじゃん!ツルちゃん、ヒーローじゃん」


 俺は女の子だから正確にはヒロインなんだが、そんな細かいことはどうでもいい。


「俺たちもそこに案内してよ」


 俺たちは肉を平らげると、京へと歩を進めるべく街道を目指した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る