第12話

 俺は賊たちの背後から忍び寄る。

 真ん中のヤツがチームのかしらに見えた。

 手に先ほどの貴族が持っていたものと同じと思われる、玉虫色に輝く薄手の衣服のようなものを握りしめていた。


 俺はすぐに、しんがりの一人を背後から絞める。

 さすがゴルゴのスキルだ。

 息をするように自然と一撃必殺の体術を繰り出すことができ、一気に賊の首をへし折った。

 だが、俺がこのロールを使い慣れていないせいか、最後に賊が声を上げてしまった。

 前方を走る二人が振り返る。


「ば……化け物ッ!!」


 手下の方は俺の姿を見るなり、泡を吹いて倒れた。

 先頭を走っていた頭も顔が恐怖に引きっている。

 これはこの見た目の意外な効果かもしれない。

 しかし、まさか化け物呼ばわりされた挙句、失神までされるとは……。

 この見た目が救い難いのは重々承知だが、そこまでではないだろう。


 賊の頭は震えながら俺の方を見て叫ぶ。


「き、貴様、何奴だ!?物の怪の類か!?」


 これ以上、賊と会話する意味も無い。

 俺の身体は無意識に速攻で賊に向かって突進する。

 賊は刀を振り回して抵抗するが、所詮はただの賊。

 プロの殺し屋の相手ではない。


 俺は余裕で賊をねじ伏せ、手下と同じ要領で首を絞める。

 コイツから色々と聞き出そうかとも思っていたが、俺の身体は勝手に動いて、気づけば賊の頭は息絶えていた。

 「ゴルゴ」の難点は、敵認識した対象を自動で瞬殺して始末してしまうことだな……。

 そもそも十八番の長距離射撃を披露するまでもなかった。


 俺は仕方なく賊の手にしていた玉虫色の衣を戦利品として持ち帰ることにした。


 鬼ヶ島へ行くためには海を何日も航海することになるだろう。

 それなりに頑丈な船と長期保存のできる食料を調達する必要がある。

 だが、桃太郎パーティーの誰かがそのための資金を持っているようには見えない。

 というか、そもそもその発想自体、誰も持っていなさそうだ。

 俺がパーティーの経理担当として、きちんと路銀を稼いでおく必要がある。


 俺は玉虫色の衣をふわりと空にかざしてみる。

 手触りからして動物の革の素材と思われたが、羽衣のように軽く、日にかざすとなぜか向こうの青空が透けて見えた。

 皮革にどういう加工をしたらこうなるのだろうか気になったが、俺にわかる訳が無い。

 衣の表面を陽の光に当ててみれば、美しく細い毛が虹色に煌めいている。


 これはなかなかに上等な衣服に見えた。

 京で売れば、それなりの金になるに違いない。


 よく見ると、端の方が部分的に破れていた。

 これはあの貴族が手に握りしめていた部分だろうか。

 最後までこれを奪われまいと抵抗したのだろう。


 元々、賊の手に渡ったものを取り返しただけだ。

 当初の持ち主はもはやこの世にいない。

 俺が代わりに受け取っても、問題はないだろう。


 桃太郎たちを街道に呼ぶため、俺は一旦、元の姿に戻ることにした。

 忘れていたが、この見た目は人間を失神させるほど強烈なのだ。


「メニュー」


 半透明のディスプレイからロール設定画面を出す。


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■ロール設定


○設定

ロール:ゴルゴ

スキル一覧:

 ・狙撃

 ・超長距離射撃

 ・銃整備

 ・カムフラージュ

 ・ランドナビゲーション

 ・戦闘術一式(詳細はこちら→)

 ・車両操縦(詳細はこちら→)

 ・船舶操縦(詳細はこちら→)

 ・戦闘機操縦(詳細はこちら→)

 ・その他 兵器取扱い(詳細はこちら→)

 ・言語習得/会話(詳細はこちら→)

 ・連続発射


◯ロールチェンジ

変更可能なロール:>運び屋【NEW!】、鑑定士【NEW!】、工作員、スナイパー


(以下は現在ロックされており選択できません)

ロール:魔王、宇宙連邦騎士団長、ストレッチマソ、テイ……▷

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 俺はふと違和感を覚えた。

 ……あれ?

 使えるロール、増えてない?


 俺は改めてロールチェンジの項目を確認する。

 間違いない。「運び屋」と「鑑定士」が追加されている。


 運び屋は以前、何回目の転生か忘れてしまった(確か43回目あたりか?)が、おそらく映画か何かの異世界でゲットした準主人公の役割を演じた。

 中々に面白い世界観で、過去転生した中では上位に食い込む異世界だった。


 だが、「鑑定士」のロールは画面に出ていた見覚えがない。

 過去の俺の転生履歴を思い出して見ても、鑑定士に該当する役割を演じた記憶もないし、鑑定スキルを発揮した記憶もない。


 そもそも選択できるロールがなぜ2つ増えたのだろうか。


 考えられる理由は一つしかない。

 先ほど倒した賊の中に、転生者がまぎれ込んでいたのだ。

 雉を倒した時のルールを適用すると、2つのうち「鑑定士」のロールを転生者の賊が持っていたのだろう。


 まだ時間に余裕はありそうだった。

 俺はこの「鑑定士」のロールを試してみることにした。


「ロールチェンジ 鑑定士」


 俺は早速、鑑定士のロールで使えるスキルの一覧を確認する。


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■ロール設定


○設定

ロール:鑑定士

スキル一覧:

 ・鑑定


◯ロールチェンジ

変更可能なロール:>運び屋、工作員、ゴルゴ、スナイパー


(以下は現在ロックされており選択できません)

ロール:魔王、宇宙連邦騎士団長、ストレッチマソ、テイ……▷

----------


 これは、アレか。

 一見、しょぼいスキルしかないクソロールに見せかけて、実はこの単一スキルが恐ろしく使い勝手がいいパターンか。

 転生初心者なら、ハズレスキルと勘違いして挫折するパターンだ。


 だが度重なる転生でもはや転生マイスターと化した俺の目は騙されない。

 これは恐らく当たりパターン。のはず。

 いわゆる転生モノのテンプレート通りであれば、ハズレスキルかと思われた中に隠された最強ポイントを主人公が見出し、無双するストーリー展開になる。

 と信じたい。


 しかし、なぜこのロールがあんな賊の転生者についていたのだろうか。

 まあ、鶴の俺にスナイパーのロールがついていたくらいだから、この異世界はどんなバグがあってもおかしくはないか。


 俺は早速、鑑定スキルを試してみたくなった。

 まさにうってつけのサンプルが今、手元にある。

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