第10話

 次の瞬間、俺の体は一瞬だけ緑の光に包まれた。

 俺はすぐにロールを確認する。


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■ロール設定


○設定

ロール:ゴルゴ

スキル一覧:

 ・狙撃

 ・超長距離射撃

 ・銃整備(簡易)

 ・カムフラージュ

 ・ランドナビゲーション

 ・戦闘術一式(詳細はこちら→)

 ・車両操縦(詳細はこちら→)

 ・船舶操縦(詳細はこちら→)

 ・戦闘機操縦(詳細はこちら→)

 ・その他 兵器取扱い(詳細はこちら→)

 ・言語習得/会話(詳細はこちら→)

 ・連続発射

 ……


 最後の「連続発射」が一体何を発射するのか気になったが、使えるスキルはかなり増えている。しかも実戦に特化していそうなものばかりだ。

 さすがデューク東郷。伊達だてにプロの殺し屋ではない。

 やはりこれはスナイパーの上位互換、いや、最強の戦闘員ロールだ。


 まあ、車両や戦闘機のような乗り物はこの異世界設定では出てこないかもしれないが、農家に置いてあったスナイパーライフルの例もある。

 もしかすると、今後どこかで近代的な乗り物が登場して、使える可能せはゼロではない。

 そう考えると、このロール、中々に汎用性が高いかもしれない。


「フハハ……これはいい」


 思わず俺はつぶやいた。

 同時に、その聞き覚えのない声に固まる。


 あれ、今の声、俺の口から出たんだよな?

 あの雉と全く同じ声だ。

 俺の声色が、美少女の可愛らしいハイトーンボイスから完全に渋いオッサンの声になっている……!?


 聞き間違いではないかと思い、もう一度確認する。


「あ、あー……うわっ」


 間違いない、やはりイケオジボイスにチェンジしている。


 俺は急いで全身を眺め回した。

 手足や体つきに、特に変わったところはない。

 華奢な美少女のままだ。

 俺の体に一体、何が起きたというのか。


 俺はすぐに近くに池があるのに気づいた。

 駆け寄って、水面に映る全身の姿を確認する。


 ……何ということでしょう。顔面だけゴルゴになっています……。


「うわぁ、きっしょッ!!」


 俺はあまりの衝撃に思わず叫んだ。

 ……さすがにこれはビジュアル的にナシだ。


 せめてゴルゴ風の女性顔ならわかる(いや、それでもダメか……何を言っているんだ、俺は)が、そうではなく、女性の身体に顔だけまんまコピペで貼り付けたようなおぞましいキメラになっており、双方のキャラデザを完全に潰しあっている。

 ある意味、雉より危険なビジュアルだ。混ぜるな危険。


 さすがにこの特級呪物クラスのビジュアルを公衆の面前にさらす訳にはいかない。

 となるとこのロール、チェンジできるのは人気のないところ限定か。

 使い所が少々限られるな。


 そうこうしているうちに、結構な時間が経ってしまった。

 桃太郎たちが訝しんでいるかもしれない。

 俺は急いでロールをデフォルトに戻す。


「ロールチェンジ スナイパー」


 俺は再び緑の光に包まれた。

 チェンジが終わると、すぐに声を出してみる。


「あー、あー」


 良かった。

 可愛らしいハイトーンボイスに戻っている。

 続いて、急いで水面に映る顔を確認する。


 良かった——

 こちらも元の顔面偏差値MAXの美少女顔に戻っていた。

 俺は安堵の息をついた。

 本当に良かったぁー。


 念のためロールも確認すると、こちらもちゃんとデフォルトのスナイパーに戻っている。

 できれば「工作員」のロールも確認しておきたかったが、恐らくこれは過去ゲームのロールとほぼ同じだろう。いずれ時間のある時に確認しよう。

 俺は急いで桃太郎たちの元へと戻った。




 俺は早速、桃太郎に先ほどの考えを確認した。


「時に桃太郎よ。聞いておきたことがあるのだが」

「んー、何?」

「鬼ヶ島の鬼の勢力について、何か情報を持っておるのか」

「いやー、特に」


 やはりこの桃太郎、思った通り何も考えていなかった……。


「『彼を知り己を知れば百戦危うからず』と言うだろう。討伐を確実なものとするためにも、鬼の軍勢の戦力を調べておいた方が良いのではないか?」


 桃太郎は何を言われたかわからないような様子で一瞬だけ沈黙した後、答えた。


「いやー、俺が負けるわけないっしょ」

「確かにうぬの強さは余も認めるが、歴戦の名将だろうと雑兵百人に囲まれれば太刀打ちできぬだろう」

「んー、まあ、何とかなんじゃね?」


 ……だめだコイツ。根本的に戦略の重要性を理解していない。

 だがこのまま何の準備もなしに鬼ヶ島へ行って返り討ちにされて困るのは俺の方だ。

 ここは何とか桃太郎を説得しなければならない。


「余は、鬼ヶ島へ行く前にまず討伐の作戦を立てるべきだと思うのだが」

「いやー、そこまでしなくていいんじゃね?俺、強いし」


 俺はため息をついて言った。


「これはうぬの問題だけではないのだぞ。そこのポチと猿、何より余の命にも関わる話だ。最悪、我々が同時に鬼にやられかけた時、うぬの力だけで助けきることができるのか」


 桃太郎は思いもよらなかったような顔で俺を見た。


「あー、たしかに、そこまで考えてなかったわ。さすが、軍師ツルちゃん!じゃあ、鬼の倒し方、考えてみるか」

「余もそれが良いと思う」


 これでひとまず桃太郎から計画立案の許可が出たようで、俺は一安心した。

 あとあまりにさりげなく聞き逃していたが、いつの間にか桃太郎の認識の中で俺がパーティーの軍師に格上げされていたようだ。

 この事実は大きい。

 これで当面、パーティー内でのポジショニングが揺らぐことはなさそうだ。


「早速だが桃太郎よ、うぬが持っている鬼の情報を余にも共有してくれ」

「え、いや、何もねぇよ」


 俺は再び頭を抱えた。


「……桃太郎よ。せめて鬼の軍勢の規模、組織構造、強さくらいの情報は持っていないのか?というか、そもそもその情報なしにどうやって鬼の軍勢を相手にしようと思っていたのだ?」

「いやー、とりあえず目についた奴を片っ端からぶっ飛ばせば行けるかなって」


 中高生の不良でも今時そんな発想しないぞ……。

 だが、ここで諦める訳には行かない。

 俺は必死で頭を働かせる。

 俺は苛立ちが表に出ないよう、桃太郎に冷静に話しかけた。


「わかった。順番に確認していこう。うぬはそもそも、鬼の情報をどこで得たのだ」

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