第9話

 ポチが見かけ上元気になったところで、俺たちは鬼ヶ島へ向け歩みを進めた。


 雉の話を聞いてから、俺はずっと考えを巡らせていた。


 俺の第一目標は、桃太郎のパーティーとしてストーリーを完結させ、与兵に復讐した上で別の異世界へ転生することだ。

 実のところ、ストーリーが順当に進む限りにおいては、目の前のコイツが本当の桃太郎かどうかはさほど重要ではない。

 先ほどのあの刀の扱いを見れば、コイツが尋常じゃない力を秘めていることは俺にもわかる。

 むしろ鬼退治の観点だけで言えば、下手にコイツの正体を暴いてストーリーを破綻させるより、コイツの力を借りて討伐の成功確率を上げた方がよほどいい手に思えた。


「——でさぁ、俺もそう考えてんだけど、ツルちゃん、どう思う?」


 ふいに桃太郎が俺に話しかけたようで、俺は慌てて桃太郎の顔を見る。


「……すまぬ、考え事をしていた。何用だ」

「いや、だったらいーわ」


 桃太郎は少しムスッとした表情を浮かべ、俺に尋ねた。


「つーかツルちゃん、さっきからずっとダンマリだけど、何かあった?」

「いや……先ほどヤツに襲われた時の記憶が蘇っての……」


 俺は動揺を悟られぬよう、咄嗟に嘘をつく。

 桃太郎は驚いた顔で俺を心配そうに見つめた。


「あらぁ。ごめん、そうだよねー。怖かったよねー」


 桃太郎の仕草や口振りは、本気で俺を心配しているようにも見えた。

 だが、雉の先ほどの話を聞いた後であるせいか——いや、そういえばハナから信用などしていないが、桃太郎の言葉のどれもが胡散うさん臭く聞こえる。


 雉の話を何の確証も無しに信じるかどうか、という問題もあるとは言え、それはやはりコイツが信用に足るかどうかは調べる必要がある。

 少なくとも、ストーリー進行の致命的な妨害にならないかどうかは確証を得ておきたいところだ。


 いや、その前に肝心の確認を忘れていた。


「桃太郎よ、少し外してよいか」


 桃太郎はすぐに気づいた。


「あー、じゃあ、俺らその辺で待ってっから」


 俺は急いで民家の木陰に隠れ、呪文を唱えた。


「メニュー」


 俺は目の前に浮かび上がった半透明のディスプレイを開いて、急いでステータスを確認する。


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■ステータス


名前:ツルちゃん

レベル:10


体力:80 / 100

魔力:25 / 25

攻撃力:50

防御力:30


ロール詳細はこちら >

装備詳細はこちら >

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 雉を倒したせいか、一気にレベルが上がっている。

 基礎能力もそれなりに上がったようだが、前世の魔王だった頃に比べればまだまだザコの域を出ない。


 それより気になるのは——


 俺は急いで「ロール」を確認する。


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■ロール設定


○設定

ロール:スナイパー(デフォルト)

スキル一覧:

 ・狙撃

 ・空中狙撃【NEW!】

 ・銃整備

 ・カムフラージュ

 ・ランドナビゲーション


◯ロールチェンジ

変更可能なロール:>工作員【NEW!】、ゴルゴ【NEW!】


(以下は現在ロックされており選択できません)

ロール:魔王、運び屋、宇宙連邦騎士団長、スト……▷

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 スナイパーのスキルが増えているな。

 戦闘でレベルアップしたせいか。


 いや、それ以上に、ロールチェンジの項目だ。

 俺は思わず顔が綻んだ。

 やはり想像していた通りだ。


 確か、「工作員」はロックされていたはず。

 これも俺が過去の転生65回目あたりの世界で入り込んだオンラインゲーム「SPY×MISSION」で与えられたスパイのロールだ。

 あれは中々にひどいバグがそこかしこに埋め込まれたクソゲー世界だったが、その話はまた別の機会だ。


 現象から推測するに、敵を一体倒すごとに最下段のロールが一つずつ解放されていく仕組みなのかもしれない。

 となると、それなりの強敵を倒せばいずれ「魔王」のロールも使用可能となる、ということだ。

 俺はその妄想に思わずほくそ笑んだ。

 久しぶりに俺の右手に眠る悪魔が疼く——


 その時、俺はロールチェンジで選択できるもう一つのロールに気づいた。


 ……「ゴルゴ」?


 ゴルゴって、あのゴルゴ?

 デューク東郷?

 え?てか、ゴルゴって「ロール」なの……?


 これも恐らく雉を倒したことで追加されたのだろう。

 となると、敵を倒して使用可能になるロールは2種類ということか。


 一つは俺の過去のロールでロックされているもの。

 もう一つは倒した敵に付与されていたもの。

 恐らく見た目から考えて「ゴルゴ」のロールは雉に付与されており、雉を倒したことで俺の手に渡ったと見て間違いなさそうだ。


 この異世界のシステムがある程度見えてきたところで、俺はもう一度クエストの最短攻略ルートを考えてみる。

 必要なのは、鬼ヶ島で鬼を倒すこと。

 極論を言えば、鬼を倒せるレベルのロールをゲットできれば問題ない。

 別に魔王のロールを解放するまでもなく、そのまま鬼ヶ島へ向かって鬼を討伐すれば終わりだ。


 何だかんだで魔王のロールは転生ハズレガチャの中でも結構気に入ってはいたので少し惜しい気もするが、目的と手段を履き違えて失敗する例はいやというほど見てきた。

 ここはクエスト達成に注力しよう。


 となると、必要な情報は彼我ひがの戦力差だ。

 そもそも最初に把握しておくべき情報ではある。

 目下の問題は、鬼がどれくらいの強さで、何匹いるかだ。

 いや、もう少し厳密に言うと、クエスト達成である「鬼退治」のクリア条件を知る必要がある。


 なんとなくの仮説では、鬼ヶ島の鬼を一掃するか、もしくは鬼の総大将みたいなヤツがいてそいつ首を取るか、だ。

 一般的に考えれば後者の可能性が高く、そうなると総大将を倒すために必要な攻撃力のレベルと、加えてそこにたどり着くまでに必要な諸々のリソース量がわかればよい。


 これは是非とも調べておきたいので、それとなく桃太郎に確認してみるか。

 そもそもあいつ、その辺のこと何も考えてなさそうだからな……。


 俺はロールチェンジの項目を改めて確認した。

 どうでもいいが、やはりこの「ゴルゴ」と言うロールがどうしても気になる。

 スナイパーの上位互換みたいなものか?

 一瞬だけチェンジして、ロールの詳細を確認してみてもいいか……。


 俺は半透明のディスプレイに向かって叫んだ。


「ロールチェンジ ゴルゴ」

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