第5話
多少想定外の出来事はあったが、俺は計画通り桃太郎のパーティーに加わることができた。
それはつまり、俺は物語序盤での最重要ミッションをクリアしなければならないということだ。
すなわち、
桃太郎の家来は3匹。
そして今、本来雉が就くべきポジションを俺が先回りして横取りしている状態だ。
このまま雉を生かしておけば、ストーリーが破綻する。
ひょっとすると4匹でも最終的に鬼を退治できれば問題ないのかもしれないが、念を入れるに越した事はない。前は与兵との婚姻手続きを忘れただけでクエスト達成判定から外れ、転生し損ねた。
同じ
何より、役割が被るのが一番の懸念だった。
鶴と雉は鳥ポジションで似たもの同士。
桃太郎から戦力外通告を喰らえば、パーティーから追放される可能性もゼロではない。
悔しいが、桃太郎がパーティーのルールメーカーである事実の方は動かせないのだ。
異世界追放モノであればそこから新たな冒険が始まるが、残念ながら俺のケースはこのパーティーを追放された時点でゲームオーバーだ。
パーティー内での希少性は継続して確保する必要がある。
雉には悪いが、ここで死んでもらおう。
そのためには武器が必要だ。
いや、それ以前に、俺は肝心な事を確認するのをずっと忘れていた。
これは異世界転生の世界線上にある。
であれば、過去の異世界と同じシステムで構築されているはず——
「桃太郎よ。少し待ってはもらえぬか」
「お、ツルちゃん、どーしたの」
「その……少々、催してしまっての」
「あー、じゃあ、俺らここで待ってっから」
「すまぬな」
俺は用を足す体でパーティーから離れ、林の方へと移動した。
あの桃太郎、ストーリー上、絡みは避けて通れないが、今のところ一切信用できない。
少なくともヤツの素性がある程度判るまでは、俺が転生者であることは伏せておきたい。
俺は一人になり、早速、確認作業を始めた。
「メニュー」
俺の声に反応し、半透明のディスプレイのようなものが目の前に浮かび上がる。
やはり間違いない。
どうせすぐにおさらばする予定だったので確認すらしていなかったが、この世界もステータスやスキルのシステムが過去の異世界同様に存在していた。
早速、俺は自分のステータスを開いて確認する。
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■ステータス
名前:ツルちゃん
レベル:3
体力:50 / 50
魔力:20 / 20
攻撃力:5
防御力:12
ロール詳細はこちら >
装備詳細はこちら >
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名前が勝手に「ツルちゃん」になっているのは百歩譲ってまあいいとして、ステータス的には最弱だった。
転生後、特にレベル上げも何もしていなかったから当然の結果か。
それにしても、攻撃力……たったの5か……。
続いて俺は、「ロール」を確認する。
所詮、鶴だしロールもクソもないだろうが、念のため現状把握だ。
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■ロール設定
○設定
ロール:スナイパー(デフォルト)
スキル一覧:
・狙撃
・銃整備
・カムフラージュ
・ランドナビゲーション
◯ロールチェンジ
変更可能なロールはありません
(以下は現在ロックされており選択できません)
ロール:運び屋、工作員、魔王、宇宙連……▷
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……スナイパー?
俺は目を疑った。
なぜ鶴の俺にこんなロールがついているのだろうか。
システムにバグでもあったのだろうか。
いや、それ以上に気になるのは、ロック表示が出ている最下段だ。
こんな表示は過去の転生世界で一度も見た記憶がない。
これも何らかのバグだろうか?
どうやら過去に転生してきたロールがそのまま蓄積されているようだ。
俗に言う「強くてニューゲーム」状態ということか。
これは107回も転生してきた甲斐があるというものだ。
スナイパーについても、確か前に転生70回目辺りでガンシューティング系MMORPG『FULL METAL SOLID』の異世界へ転生した時、傭兵の狙撃手として駆け回っていたことを思い出した。
いや、それよりもっと重要なものが視界に入った。
グレーアウトされ選択できない下段ロール部分。
そこに「魔王」の2文字。
それを見つけた時、俺は心の中で歓喜した。
魔王を選択できれば、ブラックホールなり、デストロイングエンジェルなり、ディアボロスなり、鬼ヶ島ごと一発で木端みじんにできるレベルの魔法が使い放題だ。
鬼退治クエストもあっという間に
だが、今は唯一選択できるロール「スナイパー」のスキルを駆使して物語を進めるしかない。
よくよく考えれば、目下のミッションは雉の排除。
これほどうってつけのロールはない。
俺はパーティーに戻ると、偵察と道調べの名目で、桃太郎から許可を貰い飛び立った。
もちろん、武器をゲットするためだ。
そして、スナイパーの武器と言えば、一つしかない。
目指すところは山あいの民家。
獣を狩るために鉄砲を置いてある家がある可能性が高い。
そいつをいただく。
幸いにも、すぐに鉄砲は見つかった。
予想通り、山あいの農家の土間に立てかけてあった。
M16アサルトライフル——
……やっぱ設定バグってんのか。この世界。
この世界線だと「火縄銃」だろ。常識的に考えて。
しかも狙撃目的にしては絶妙に微妙。
俺、ゴルゴじゃねぇし。
とは言え、正直言って火縄銃などより圧倒的にありがたかった。
ご丁寧にスコープまで標準装備してある。
文句は言うまい。
一介の農民が軍用の自動小銃を何の目的で所持しているのか知らんし知りたくもないが、とりあえずこいつをくすねる事にした。
念のため、マガジンも確認した。弾は十分装填されている。
バンドもついており、鶴の状態でも咥えて持ち運びができた。
ついでに、脇に無造作に放置されていたずだ袋を開けて確認する。
中身は銃弾のカートリッジを入れた箱だった。
50発くらいはありそうだ。
サバイバルナイフも入っていたので、そいつらも袋ごといただいた。
俺はライフルと袋を咥えて空へと飛び立ち、獲物の雉を探す事にした。
確か、草原あたりに居たはずだよな、アイツ。
その時——
パシュッ!という音とともに、左羽の風切り羽根を何かがかすめた。
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