第4話
「うぬら、そもそも鬼ヶ島への道程は知っておろうな」
「いやー、テキトーに海の方に歩いたら、着くべ」
「海へ着いて、それからどうするのだ」
「あー、そういや考えてなかった」
桃太郎はまた、ボリボリと頭を掻いた。
「舟がいるだろう。それだけではない。出航から何日で鬼ヶ島だ?その間の食糧はどうする?荒天での船旅は地獄だぞ。下手をすれば、鬼ヶ島上陸前に海の
「あー、たしかに!」
「余は鬼ヶ島までの道を知っておる。それに、余の真の姿は鶴だ。武力では敵わぬとも、情報収集、飛行しての索敵、その他諜報活動は大得意」
俺はたちどころに鶴の姿へと変身する。
「おー、すげー!」
桃太郎は珍しいものでも見たように拍手した。
もちろん道など知らないが、多少のハッタリはかまして問題ない。
桃太郎は俺のプレゼンと鶴の姿に少しは興味を引かれたようだった。
俺は美少女の姿に戻り、続ける。
「うぬらは鬼ヶ島へ鬼退治に行くのであろう。そこで余が
桃太郎はふと何かに気づいたようだった。
「そーいやツルちゃん、何でオレらが鬼退治行くこと知ってたの」
——ツルちゃん?
いきなり馴れ馴れしい呼び方をされてイラついたが、言われてみれば、その言い訳を考えていなかった。まずい。
「え、それは……うぬが桃太郎だから、その……鬼退治に行くのは皆の周知の事実であろうが!」
「あれー?俺、ツルちゃんに『桃太郎』だなんて名乗ったっけ?そもそも俺が鬼退治に行くことなんて、誰にも広めてないけど」
しまった——確かにコイツの口からまだ自己紹介されていない。
桃太郎はわざとらしく手を打った。
「あ!ひょっとして、オレらと一緒に鬼ヶ島行きたいからここで待ってたの?」
「な、何を抜かすか、貴様!」
図星を突かれ、俺は思わず立ち上がってしまった。
「あれ?足、怪我してるんじゃないの?」
「あ、しまっ……!こ……これは」
「あれれー?てことは、もしかして、わざわざ怪我してるフリしてまでオレら待ってたワケ?」
「ち……違っ……」
「なーんだ、それなら回りくどいことしないで、素直に『仲間に入れてください』って言えばいいじゃん」
——クソッ、何だ、こいつ。
無性に腹が立ってきた。
「つーかさぁ」
桃太郎が急に態度を翻した。
「なんか、ツルちゃん、さっきから偉そーじゃね?」
「……何だと?」
「わかってねーようだから言っとくけど、俺、これから鬼、サクッと倒しちゃうスーパースターだから。そこんとこ、間違えないようにね」
こっちが下手に出りゃあ、調子に乗りやがって……。
しゃべり方がいちいち癪に障る。
あと何だ、スーパースターって。
「んで、ツルちゃんさー、あ、ツルちゃんでいいよね?結局、オレのパーティーに入りたいの?入りたくないの?」
実際、立場が弱いのは俺の方だった。
ここで桃太郎の3匹の家来に滑り込まなければ、『桃太郎』側へのストーリー乗り換えが出来ない。
ここは我慢して、グッとこらえなければ。
「ねえ、どっち?はーやーくー」
「……入りたい」
「え?何?聞こえない」
その時見た桃太郎の目に、悪意を秘めた暗い光が宿っていた。
「あとさー」
「……何だ」
「なんつーか、それ、人にお願いするときの態度?」
コイツ……。
だがここで怒りに我を忘れては全てが無駄になる。
俺は拳を握りしめながら、口を開いた。
「……入れてください」
「は?聞こえなーい」
「も……桃太郎さんのパーティーに、い、入れてくださいッ!」
俺は少し涙目になりながら、顔を真っ赤にして大声で叫んだ。
桃太郎は満足した表情を浮かべて大きくうなずいた。
「じゃあさ、次の質問。ツルちゃんは、何のために鬼ヶ島行くワケ?」
いきなり悩める社会人みたいな質問をされ、俺は戸惑った。
「や、ほら、さっき言ったじゃん。ハンパな覚悟だと、マジ大怪我すっから。例えばさ、オレ、じーちゃんばーちゃん、マジでリスペクトしてんのよ。悪い奴らからぶん取ったお宝がっぽり持って帰って、楽させてやりてーんよ」
こいつ、意外と根はいいやつなのか。
いや、そんな事はどうでもいい。
ついに墓穴を掘ったな、桃太郎よ。俺はこの機を逃さず反撃した。
「では、そこの畜生どもはどうなのだ。余に志を求めるのであれば、当然、こやつらにもあると言う事だな。言うてみい」
さすがにこれには答えられまい。
そう思った矢先、すかさずニホンザルが桃太郎の元へ駆け寄って、肩に上って何やら耳打ちの仕草をした。
桃太郎が大きくうなずく。
「なんかこいつは、『恒久的かつ持続可能な世界平和の一助となる』ためだって。ビッグだねー、合格」
嘘つけ。
そもそも喋れんやろ、お前。
「貴様、茶番も大概にしておけ。これ以上、余を
「まぁまぁ、そう熱くなりなさんなって。いいから、話してみ?」
これ以上言い争うのも無駄な気がしてきたので、俺は桃太郎に経緯を話すことにした。
「……余はある男に復讐するため鬼ヶ島へ赴く」
「へー、何があったの?」
俺は与兵の裏切りについて、手短に桃太郎へ話した。
もちろん、最終的に転生を狙っていることは伏せておく。
「……と言う訳だ。復讐の炎は地獄のように我が心に燃えておるわ」
「そりゃークズ男だねー。ツルちゃんの気持ち、わかるわー」
桃太郎は大きく頷いた。
さっきからコイツのセリフに露ほども説得力を感じないが、見かけによらず生真面目なのだろうか。
「ま、いーんじゃねぇの、それなら」
「では、余も同行して構わぬと言う事か?」
桃太郎は返事の代わりに満面の笑みでグーサインを出した。
だから、お前はいつの世代の感性だ。
「じゃあ、杯交わす意味で、はい、きび団子」
「余は要らぬ。知っておるぞ。そのアイテムは相手の心を意のままに操るものであろう」
「んなワケないじゃん、もー、ツルちゃんの心配性!」
桃太郎は俺の背中を思い切り叩いてケラケラと笑い、きび団子をチラつかせた。
桃太郎の目に、再び暗い光が宿った。
「まあ、いいから、食えよ」
せっかくの友好ムードを壊さない方が良さそうだと、俺は直感した。
「……では、一口だけ」
「3時間はキメキメでぶっ飛ぶよー」
「食うか、ボケッ!」
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