・弩近眼の入学試験 - ジュリオ・バロック -

「あ、やっぱりそうでした! 貴方は昼間に駅で会った、ボウガン使いの方ではありませんか!」

「あ……! お前っ、あの時のっ、俺に嘘の学校を教えた男っっ!!」


 の丁寧で若々しい声だった。

 コイツさえ勘違いしなければ、こんなことにはならなかったというのに!


「え……っ、貴方が行こうとした試験って、イザヤの試験だったのですかっ!?」

「そうだ! お前のせいでこっちは散々だ! 危うくマレニアに入学させられるところだったぞ!」


「ああ、これは申し訳ありません……。ですが、ボウガンを持っているので、てっきり……。このイザヤを訪ねる姿とは、到底思えず……」


 なんだと!?

 と、言い掛けて引っ込めた。

 俺が逆の立場だったら、マレニア魔術院に案内していただろう。


 こんなまぎらわしい格好をしているやつが悪い。


「悪かった。あちらでちょっと大変な目に遭ってな、頭に血が昇っていた」

「いえ……私が勘違いしなければ、そんことになってはいなかったでしょう。申し訳ありません……」


「いや、いい。それよりあの時、親切に道を教えてくれてありがとう。俺はグレイボーン。よければ君の名前を教えてもらえないか?」

「許してくれるくれるのですか、よかった……。僕はジュリオ・バロック、ここダイダロス生まれのしがない学生です。おっとっ!?」


「すまん、これは癖なんだ」


 ジュリオ・バロックの高い背に顔を近付けた。

 イメージ通りの容姿の青年だった。


 まるで王子様のように甘いマスクと、色の薄い綺麗なブロンド、お人好しそうな雰囲気が全身から立ちこめているような人だ。


 彼に仲直りの握手を差し出すと、彼は喜んで握手を交わしてくれた。


「えっ、視力0.01!? なのになんで、そんなの持ち歩いているんですかっ!?」

「それはこれが父の形見であり、俺の誇りであり、まだ滞在先も見つかっていないので手放せないからだ」


「まさかそれを持って、ここの試験を受けるのですか……?」

「ああ、マレニアでもそうした」


「い、いや……マレニアではよかったかもしれませんが、ここでは……。僕が先生方に話を通しますので、それは保管してもらいましょう……」

「そうするべきか? ううん……気乗りしないが、わかった。お世話になるよ、バロック」


「いいのです。貴方に迷惑をかけてしまいましたから……。それと、ジュリオと呼んで下さい」


 俺はジュリオ・バロックと知り合い、肩を並べて同じ試験会場に入った。

 そこで俺は大学卒業レベルの学力を使って地味に無双した。


 ジュリオはいいやつだ。

 試験が終わるとまた声をかけてくれて、宿が見つかるまで自分の家に泊まればいいと、彼は俺を家に招いてくれた。



 ・



「ジュリオが友達を連れてくるとは珍しい。どうかジュリオと仲良くしてやってくれ」


 ジュリオの父は息子が友達を連れてきたことを驚き、喜んだ。

 線が細いが威厳のある父親で、ジュリオと同じように背が高かった。


「意外だな。ジュリオは友達が多そうに見える」

「まあ、そこは色々あってね……」


 俺が領主の地位を捨てて、野心と向上心を持って上京してきたことを知ると、ジュリオの父は俺をさらに気に入ってくれた。


 聞けば彼の父は、ここダイダロスの行政府で働く内務省次官だという。

 ジュリオは超エリート官僚の息子だった。



 ・



 それから日をまたいだ翌日となると、俺は宿探しを始めた。

 しかし入試シーズンなのもあって、どこの宿もいっぱいだった。


 よって2日目も、バロック家のお世話になることになった。


「オルヴィン卿よ、君はジュリオのいい刺激になるようだ。そこで寮生活が始まるまで、このままうちに滞在してはどうだろうか?」

「言い方は引っかかるけど、そうしたらいいよ、グレイボーンくん」

「いや、お気持ちは嬉しいが、まだ試験結果が出てないのに、気が早過ぎないか……?」


「ああ、そのことか。試験結果ならもう気にする必要はない」

「父上!」


「オルヴィン卿よ、主席入学おめでとう。イザヤ学術院は喜んで君を歓迎しよう」

「ああ、もう……なんて無粋なことを……」


 発表の日を待たずして、超名門校への合格が伝えられた。


「マレニア魔術院の主席入学入りが確定したところで、まさかの遁走。激しい追想劇の果てに、イザヤの学家に飛び込み、そちらでもまさかの主席入学を果たす。ははは、気に入ったよ……。君はマレニアのバカどとも付き合う必要はない。君は我が母校イザヤで学ぶべき人材だ。ようこそ、学術の園へ」


 俺とジュリオは少し早い合格通知を受け取って、これから始まる新しい生活に夢を膨らませることになった。


 これから実際にどうなってゆくかはまだわからないが……。

 この誠実な男ジュリオ・バロックと一緒ならば、きっと大丈夫だ。


 俺はマレニア魔術院を蹴って、イザヤ学術院に入学した。

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