シゴク行き列車

初咲 凛

シゴク行き列車

 私の名前はツキデ チサ。

 都市伝説が好きな女子高生だ。

 古いものから新しいものまで暇さえあればネットを彷徨う自称「都市伝説ハンター」である。


 そのせいか、ついたあだ名は『トシデンハンター』


 たいへん遺憾である。

 まるで都市の電車が好きな人間のようだからだ。

 そんな不満を友人のエリに語っていたら「じゃぁ電車の都市伝説を探せば?」と言われた。


 …なるほど確かに一理ある。


 悶々と考えていたら、エリがスマホを見せてきた。


「チサちゃんなら知ってると思うんだけど、最近バズってる列車の都市伝説あるじゃん」

「バズってる、列車の、都市伝説?……知らない」


 都市伝説ハンターともあろうものが、不覚。

 誰よりも早く情報を仕入れているという自負があったのに。


「おいおい!トシデンハンターさぁん、情報おそいんじゃねぇのぉ?」


 いきなり、隣の席にいるシンジが愉快な様子で声をかけてきた。

『トシデンハンター』の名付け親は、語感が気に入ったのか執拗に呼んでくるのだ。


「アンタに言われなくても分かってるってば」


 その呼び名やめてほしいって話してたばっかりなのに。


 シンジは何の因果か小学生からの腐れ縁で、子供の頃から私の都市伝説愛をからかってくる節がある。

 そのくせ、勝手に話を聞いては、勝手に怖がり、文句を言ってくるのだ。


 私は止まらないシンジの話を聞き流して、スマホに顔を近づけた。



【シゴク列車】

 お彼岸の仏滅、黄昏時のホーム、目をとじて

 ――シゴク行きの列車に乗ります――

 心の中で唱えると、シゴク行き列車がやってくる。

 けれど絶対にこの列車に乗ってはいけない。

 乗ってしまったら――



「ジゴク、じゃないんだ」

「うん、黄昏時の空の色を至極(シゴク)色って言うからじゃないかって考察してる人いたよ」


 新しい都市伝説の登場に胸がときめいて、自分のスマホでも検索をかけてみる。

 エリに見せてもらった記事には、たくさんコメントがついていた。



 >これ車掌に山手線に乗りますって言ったら助かったぞ、死ぬかと思った

 >ここの情報見て、試しに飛行機に乗りますって言ったら助かったんだがwww

 >乗り物の名前言えば助かるってことぉ?w

 >はいはい。自称生還者乙

 >いやこれガチだぞ。ちなみに俺は銀座線で生還した

 >鉄ちゃん大喜びじゃねぇか。次は何線がでてくんだよw

 >これマジならやってみたいんだけど。都市伝説が体験できるなんて夢みたいじゃん

 >安全な都市伝説なんて本当にあるんですか?

 >車掌じゃなくてもいけたぞ!とにかく何かに乗るって伝えるのが良いっぽい!!

 >( 。・ω・)っ3/18(月)次回のお彼岸仏滅のお知らせ

 >…………



「なんか、体験したって人がいっぱいいるね」

「そうなの!助かる方法があるから、バズってるみたいだよ」


 口裂け女やカシマさんに撃退呪文があるように、都市伝説には救済処置がついているものがある。

 飛行機でも助かるのには驚いたけど、シゴク列車も「○○に乗ります」と言うのが撃退方法なのだろう。

 コメントをスクロールしてみると、路線の名前がたくさん流れていった。

 ちょっとしたお祭りみたいになっている。


「なんか、面白そうだね」

「でしょ?チサちゃん好きそうだなって思ったんだ~」


 エリはブログのネタになりそう?と嬉しそうにほほ笑んだ。


 私は趣味で都市伝説の情報などを綴ったブログを書いている。

 更新頻度はそんなに高くないのだけど、エリは私のまとめ記事を読むのが好きなんだそうだ。

 しかし、今回のシゴク列車は噂話を書くだけじゃ勿体ない気がする。


 実はさいきん、ネットや友人からの情報だけでは物足りなくなり、実際に都市伝説を見てみたいという欲求が大きくなっていたりする。


 もちろん、危ないことはしたくない。

 痛い思いもしたくない。

 襲われるような都市伝説は絶対NG。

 そんなワガママにドンピシャリな都市伝説を探していたところだったのだ。


 なので、この【シゴク列車】は、まさに私の理想の都市伝説!


「今回は、実際にやってみちゃおうかな――」

「おっまえ、こんなコメント信じてんのかよ!」


 ウキウキで話していたら、頼んでもいないのに同じ記事を見たらしいシンジが、オーバーリアクションで遮ってきた。


 いや、わざわざ見て、文句を言ってくる労力……。


「列車を呼び出して、撮るだけなら怖くなさそ~だよねぇ~」


 こうなったらヤケとばかりに、ひたすら無視してエリに笑いかける。

 しかし、彼女は私と同じ都市伝説マニアでも、実際に体験したい欲求はないらしい。


「う…ん。でも、シンジ君の言う通り、危険かもしれないよね」


 エリに申し訳なさそうに釘を刺された直後、授業開始のチャイムが鳴った。


 *


 夕方の最寄り駅のホーム。

 佇む私の隣には、なぜかシンジがいた。


 あの話のあと、授業が始まってシゴク列車の話は流れていた。

 てっきり忘れているとばかり思っていたら、駅のホームで立ち続ける私の横にいつの間にか彼が居座っていたのだ。

 わざわざ家の最寄り駅の方にしたのに、同郷だとこういう時はやっかいだ。


「やっぱりな。今日を逃したら秋のお彼岸まで出来ないから、やると思ったんだ」


 コメントにもあったけれど、今日は2024年3月18日。

 お彼岸かつ仏滅の日、つまりシゴク列車が運行する日なのである。        

 あとは、日が暮れてきた時に目をとじて件の言葉を心の中で唱えるだけだ。


「そもそも、見るだけですむ都市伝説なんてあるのか?都市伝説は危険なものが多いだろ」


 シンジの小言から逃れるように、腕を組んで考える。


 本当にシンジは私の邪魔をしたいのだろうか?


 彼は昔から怖いのが苦手なくせに、気がつくといつも私が話す都市伝説の話を聞いていた。

 熱心に話しすぎたせいで周りの友達がドン引きしていたときだって、彼はつっかかりながらも最後まで話を聞いていた。

 今も、自分なりの見解を披露しながらホームに立ってシゴク列車を待っている。


 そう、だから、私は確信した。



 シンジはおそらく、いや確実に、都市伝説が好き。



 常日頃から私はひそかに、エリと同じように同士なのではないかと疑っていたのだ。

 けれど、ひねくれたところがあるから「好きだよね?」なんて聞いてしまうと誤魔化してしまうだろうと様子を窺っていたのだ。

 

 ……まったく素直じゃないんだから。


 *


 相変わらずのシンジと、しばらく駅のホームで軽口をたたきあっていると、陽が沈んできた。

 風が徐々に冷たくなって、夜の気配が近づいてきている。


「さてと、そろそろかな!」


 私は他の乗客の邪魔にならない位置に移動すると、目をつむった。


「おい、マジでやる気かよ?」


 隣でシンジが心配そうな声をあげていたが、私が黙ったままでいると、しばらくして諦めたようにため息をついた。

 どうやら、彼もやってみることにしたらしい。

 一人ではないのだ、と感じた途端にふっと肩から力が抜けるのを感じた。

 シンジの存在を頼もしく思いながら、私も意識を集中させた。



 ――シゴク行きの列車に乗ります――



 正確な時間が分からないので、何度も心の中で唱え続けていると、いつの間にか空気がヒヤッとしたものに変わっていた。

 先ほどまであった喧騒も消えて、気がつけば痛いような沈黙に包まれている。

 目をあけていいのか判断がつかず、汗のにじむ掌を握りしめていると、ふいに遠くから列車の走る音が僅かに聞こえてきた。



 ――…………ガタ…ン……ゴトン……ガタン………ゴトン……



「……どこだ…ここ」


 先に目をあけたのだろう、シンジの戸惑う声が聞こえる。

 私もおそるおそる目をあけてみる。


 田舎の最寄り駅とはいえ、夕方のラッシュ時には何人も電車を待つ人たちがいたはずなのに、私たちの他に人の姿は全く見当たらない。


 周りを見渡すと、今までいた駅のホームとは明らかに違っていた。

 ホームの壁は美しい白壁に、屋根は黒い見事な瓦になっている。

 ホームの外に見える景色も、いつも買い物に行くスーパーや近所の団地などの建物が消えて、見渡す限りの田園風景が広がり、線路だけがポツンと伸びている。

 古めかしい様相なのにどこか美しさを感じさせる景色だった。



 ――……ガタン…ゴトン……ガタン…ゴトン……



 なぜか身体が不自然にだるくて、都市伝説を体験できたという喜びを表現することも出来ず、ただただ立ち尽くす。

 二人だけのホームのはずなのに、妙な圧迫感を感じて息苦しい。

 風が吹いていないからだろうか。

 視界に入っている田畑はそよぐこともなく沈黙している。


「都市伝説、本当だったんだ…」

「……」

「…列車が、くるだけじゃなくて、駅も、変わるんだね」

「…………あぁ」


 ごくり、と渇いた喉を無理やり潤わせてかろうじて声をだした。

 寂しい駅のホームでは呟いた声は、すぐに消えていく。



 ――…ガタン…ゴトン…ガタン…ゴトン……


 

 二人で変貌した駅の様子に戸惑っていると、ファーンという警笛が聞こえてきた。

 遠いと思っていた列車が近づいてきているようだ。

 私は重力に逆らって無理やりスマホを構えた。


「マジか…撮んのかよ……」

「当たり前でしょ。これは初めての、都市伝説取材、なんだから」


 気怠そうに呟いたシンジは、言葉とは裏腹に私のスマホが見える位置へゆっくりと移動してくる。

 なんだかんだ気になっているようだ。

 彼の態度に呆れながら、私は改めてスマホを列車へ構えなおした。



 ――ガタン…ゴトン…ガタン…ゴトン……



 ドキドキしながら覗いたスマホに、列車の姿は写されていなかった。

 というより、何も写っていない。

 塗りつぶしたような、真っ黒な空間しか見えなかった。


「やっぱり写らないんだね」


 そりゃそうだ。

 列車の写真が撮れるのなら、あの記事のコメントに誰かが載せててもおかしくない。

 がっかりしながら腕をおろそうとした瞬間だった。






 ――ナ…ニ…ミテル……ノ?――






 ふいに、至近距離で子供の声が聞こえた。

 どこから聞こえるのかと視線をあげるが、周りには誰もいない。

 そもそも、このホームには私とシンジの二人しかいない。


「ぉ、おぃ、おい!」


 シンジが悲鳴じみた声をあげて必死に私のスマホを指差す。


 視線をスマホへ戻すと、思わずスマホを落としそうになった。


 真っ暗なスマホの中に白い何かが動いている。

 それはまるで、私の方へ必死に腕を伸ばしている人影のようで、今にもスマホの画面から飛び出してきそうだ。


「……ひっ!」


 大きく写ったソレは、残像のようにハッキリと判別ができず、かろうじて大きさから子供なのだろうと予想できた。

 ぞくり、と背筋が冷たくなる。

 顔の位置が何処にあるのか分からない私と違い、スマホに写る人影は私の瞳をしっかり見つめているように感じる。


 怖いのに、身体が重くて動かない。


 ヘビに睨まれたカエルのように、私はただ立ち竦んでいた。

 カラカラに渇いた喉からはヒューヒューと耳障りな息しかだせない。

 早く逃げなければと思っているのに、身体はその場に縫い付けられて、思考さえも深く沈んでいくようだ。



 ――オね…えチャン……ソレェ、なぁぁニ?――



 再び聞こえた声に弾かれるように、腕を下ろしてスマホを介さずに白いものがいるであろうところを見てみる。

 しかし、人どころか生き物の姿ですら見つけられない。


「な、な、っんだよ、なんだよ!…これぇ!!」

「…と、とにかく、誰でもいいから探して、山手線でも飛行機でも、乗るって言おう!」


 震えながら叫んだシンジを落ち着かせようと、私も声を張り上げる。

 一刻も早くこの場から離れようと、震える足を動かそうとした。


 そのとき、シゴク列車がホームへと滑り込んできた。






 ――ガタンゴトン…ガタンゴトン……






 列車はホームの中央付近にいる私たちを、ゆっくりと通りすぎていく。

 通過していく車両から、なぜか、目が離せない。






 ――ガタンゴトン…ガタンゴトン…ガタン…ゴトン……






 列車の窓からは、隙間なくひしめきあう乗客たちが見える。

 彼らは、もしかしたら、生きた人間ではないのかもしれない。






 ――ガタン…ゴトン…ガタン…ゴトン……ガタン……ゴトン……






 なんだろう、なにかおかしい。

 窓から見える彼らに強烈な違和感を感じる。






 ――ガタン……ゴトン……ガタン……ゴトン……ガタン






 乗客全員が、私たちを……取り囲んで…見つめて、いる………


 つまり、窓に映っていた、のは、列車の中ではなくて…






 ――シシし…ゴク……いきノ……レッっっシャ、キ、キき、キまシたヨ?――






「……ぅぁっ!?」

「ぎゃぁああぁぁ!!」


 間違いない、彼らは私たちと同じホームにいる。

 窓には先ほど喋ったでであろう人影が、私とシンジの間に立っているのが見える。


 この駅に辿りついてからずっと感じていた倦怠感や、肌にまとわりつくような気配の正体。

 身体が重いと感じていたのは、人に囲まれて身動きがとれなかったからだったんだ。


 今すぐにでも走って逃げだしたいが、完全に包囲されているため、誰かにぶつかることを考えると躊躇する。

 見えなくても気持ちが悪かった。


「あ、あれ、言えばいいんだろ!?車掌じゃなくてもいいってあったもんな?」


 シンジの言葉にハッとする。

 そうだ、写真も撮れなかったのだからもうココに用はない。


「…っ、私たち、山手線に乗ります!」


 汗のにじんだ掌を握りしめて、震える自分を叱咤して声をあげる。

 よし、これで、これできっと、大丈夫。

 これで元の世界に帰って、シンジと笑いあって、エリに報告して、家に帰って怖かったなぁなんて思い出しながらブログを書いて、ゆっくり休むんだ。


 そう思ってホッと息をついていると、ザワザワと喧騒が聞こえてきた。


 ――だ…ダめ、ダメ…だぁメだ、だよぉおお……――

 ――ソ、の……いキさぁきィ、はぁ…もゥ、キ…いた……よおヲぉお――


 耳元で囁くように吹き込まれた言葉に驚愕する。

 動揺していると、見えない何かに身体が掴まれて列車の方へグイグイと押し出されていく。

 列車の扉はひらいて、私たちを乗せようと、今か今かと待ちわびているようだ。


「おい!どうなってんだ…っ!?」

「わ、わかんない!だってこういえば帰れるって書いてあったのに!」


 そんな、これで助かるんじゃなかったの!?

 必死に踏ん張りながら、私たちは他にも必死に言葉を紡いでいく。


 飛行機、新幹線、車、バス、銀座線、東横線、京浜東北線…

 記事に載っていた路線もそれ以外も、思いつく限り叫んだ。


「なんで、なんでダメなんだよ…」

「たぶん、だけど、これ一度聞いたものだと帰らせてくれないのかも…っ……」


 ――モ…も、う…おわ、りィ…ぃ?――


 列車はもう目前に迫っていた。

 なにがなんでも電車に乗せるという強い意志を感じる。

 押し込まれそうになる身体を、開いた扉のフチを掴んで懸命に堪える。


 もう、これ以上は限界。


 怪異に遭遇したいだなんて思うんじゃなかった。

 実際はこんなに怖いんだ。

 ただ見るだけの都市伝説なんて、そんな甘い話あるわけなかった…。


「……おい」


 泣きそうな声に、横を向くと私と同じように扉にすがりつくシンジの姿。

 彼もいっぱいいっぱいなのだろう。その瞳には涙が光っていた。

 もう身体の半分が列車に乗りあげている。

 片方の足を列車の外にひっかけて、それでも懸命に言葉を絞り出すシンジの姿をみて、私の瞳からポロっと涙がこぼれる。


 ごめん、ごめんねシンジ、巻き込んじゃってごめん。


「いっつも、からかっちまって…っごめんな。本当は、都市伝説が、嫌いとかじゃないんだ。お前のことが心配で、素直にっ、なれんかった……こんなこと、言ったって、信じてもらえねぇかもしんねぇ。でもよ、状況後悔して死にたくねぇ。俺さ……お前の、こと、守りたかったんだよ。チサ。…俺は……俺はぁ…っ……お前のことが……っ…す、す――」


 久しぶりに彼に名前を呼ばれた気がする。


 小さい頃は名前を呼びあってよく一緒に遊んでたな…。

 懐かしい景色が脳裏に浮かんで、これが走馬灯かなんて感じながら、いつになく優しいシンジの声に耳を傾ける。

 いつから『トシデンハンター』なんて言われるようになったんだっけ、なんて苦笑する。


 ん?


 トシデン…、としでん……、と、しでん………。


「はっ!?」

「うおわぁっ!…っビクったぁ」


 迷っている暇はない。

 うまくいく保障なんてないけど、それでも、最後まで諦めたくない!


「私たち!市電に乗りますからぁーー!!.」


 あらんかぎりの力で叫んだ。

 もう身体のほとんどが列車に乗っていて、ひっかけた足だけが列車の外で最後の命綱をつないでくれている。


「………シ……デ…ン…」


 ポツリと、言葉が聞こえたと思った瞬間、目をあけていられないほどの光につつまれた。


「……っ」

「……ぅっ」


 ザワザワと喧騒が聞こえてきた。

 聞きなれたアナウンスが聞こえて瞳をあけると、そこはいつもの最寄り駅のホームになっていた。


 *


 あのあと、私とシンジはひたすら生きててよかった、と抱き合って思いっきり泣いた。

 そのまま、少し気まずさを残しながら家へ、日常へ帰っていった。


 「本当に、ほんと…っに無事で、二人とも、無事でよかったよぉ。」


 家に帰ってからエリに電話をして思いっきり号泣させてしまった私は、翌日になってもエリに泣きつかれていた。


「…っわたし、あんなもの、教えなきゃよかったって、何度も思って…」

「エリ……」


 どうやら責任を感じていたらしい。

 だけど、今回の一件はエリはなにも悪くない。

 そもそも体験したいと言ったのは私なので自己責任だ。

 昨日から、何度も言っているがエリは気が済まないらしい。


 本当に優しい大好きな親友だ。


 今回のことはエリに全く責任はない。


 そう断言できるのは、SNSの情報にコメントして知らせようとしたがシゴク行きの列車に関する投稿は見つけられなかったからだ。

 あんなにあった体験談も、対処法も、シゴク列車の文字すら見つけられなかった。


 そもそも秋のお彼岸で生還した人たちの話がこの時期にバズるっていうのも妙な話だ。

 もしも前日にいきなり投稿されたなら私が情報を見つけられなかったのも辻褄が合う。


 もしかして幽霊たちが誘きだすために投稿してた…とか。


「まさかね」

「ん?なにか言った?」

「うん!エリは大好きな親友だなぁって」

「っ…。私もチサのこと大好き……」

「ふふ、ありがと。あ、そうそう。ブログ更新したんだよ!ほら、泣き止んで読んでみて」

「うん、よむ……」


 スマホを覗き込んだエリに声をかける。


「実はね、せっかくだからホーム画面のところ変えたんだよね!」


 *


 私の名前はツキデ チサ。

 都市伝説が好きな女子高生だ。

 古いものから新しいものまで暇さえあればネットを彷徨っている。

 ちなみについ最近、電車より市電が好きになった――


 『トシデンハンター』だ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シゴク行き列車 初咲 凛 @SHANTAU

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ