第4話 変身魔術①

 衝撃の宣言から、二週間が経った。

 私は同級生の誰よりも多く決闘をこなすことになった。当然である。アイリーネ様と決闘したいご令嬢は多く、『運命戦』の偶然で当たることを祈るより、弱小貴族の娘を撃つ方が確実なのだから。

 殺到した申し込みを、こちらも申し訳なく思いつつくじ引きで順番を振り、戦績は八戦して三勝。格上の貴族には負け、格下の相手には引き分けか勝ち。アイリーネ様の期待に答えたいと思いながらも、実力の差はやはりいかんともしがたい。

 今日の九戦目も負けだった。お相手はイオカヴ家にも匹敵する貴族で、元々私には勝ち目は見えない相手だった。


「うう……申し訳ありません、アイリーネ様」

「どうしたの? 突然」

「今日の決闘も負けてしまって……ご期待に沿えず……」

「よく頑張っていたわ。花魔術のメーナさんは流石に強いわね」


 夕食を終えた寮の部屋で、アイリーネ様の髪を梳かしながら話す。微笑んで慰めてもらうものの、あまり気は晴れない。私が負けた相手とアイリーネ様との決闘は、全員、当然のようにアイリーネ様の圧勝に終わっていたからだ。

 私が今日負けた相手も、そうなるだろう。


「……そもそも、どうして……私などを、その。門番のように?」

「ふふ、門番というより騎士かしら。フォニカは格好いいから」

「からかわないでください」

「からかってはいないのだけれど……」


 何故だか、仕方ないな、と言いたげな苦笑を浮かべるアイリーネ様。私の脳内は疑問符でいっぱいだ。

 少しだけ言葉を選ぶような沈黙。


「火と金鎚で鋼を鍛えるように、決闘で魔術を鍛えることは私たちの高貴なる義務ノブレス・オブリージュ。貴女と一緒に腕を磨きたいの。……貴女には侍女として甘えてしまっているから、色々我慢させているのではないかと思って」

「我慢なんてありえません。……ですが、ええと。……ありがとうございます」


 アイリーネ様が私のことを気遣ってくれていたという事実に、胸がじわりと暖かくなる。もちろん普段から色々と気遣ってくれてはいるのだが、こうして言葉にしてもらうと格別のありがたさがあるものだった。我慢などあるはずもない。

 そもそも決闘は怖くて苦しくて、アイリーネ様のように楽しめるほどの実力は私にはないのだ。これは、言う必要のないことだけれど。


「……あ。それでは……よろしければ一つ、ご助言いただきたいのですが」

「もちろん、いいわ」

「ありがとうございます。明日の決闘は必ず、勝たねばなりませんので」

「明日は『運命戦』だったわね。お相手は……」

「狼です」


 狼。無論、異名だ。


のベナ。平民出身の魔力特待生にもかかわらず、先生も手を焼く不良だとか。そんな相手を、万が一にもアイリーネ様の前に立たせる訳にはいきません」

「変身の魔術を使うそうね。貴族ではないということは、魔術も独特ということ……見極めが大切よ」


 頷く。連日の決闘でわずかに疲れを覚えてはいたが、負けるわけにはいかない。

 消灯の時間まで、アイリーネ様と決闘の作戦を練っていた。

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