第7話 接敵

 出航から5日後、輸送艦コニロンは目的地である本国ブルー郡ロッド軍港を目指し、1/4の航路を進んだところだった。乗艦する水兵達は24時間体制で警戒を行い、最悪のケースに備えて常に身構えていた。

 というのも輸送艦は本来、戦闘能力を持たないことが多く、戦闘能力を持つ味方艦と行動を共にするのが基本である。


 しかし戦争が長引くにつれ、味方艦は敵艦隊の殲滅や本土の防衛などで忙しく、護衛が付くのは母国領海内からが現状であった。そのため、輸送艦コニロンは自艦防衛のための有線式長魚雷15発、CIWS(近接戦闘兵器)1基、欺瞞装置(デコイ)5発に微々たるチャフ・フレアしか持ち合わせていなかった。

 一般的な輸送艦からすれば、これだけの兵装は十分すぎるものだったが、いざ戦闘艦と殺り合うとなると話は別であり、精々逃げるための時間稼ぎが関の山であった。


 アダムは艦の頭脳ともいえるCIC(戦闘指揮所)で艦長席に座りレーダーや水中を探索するソーナーの様子を見ていた。このCICは艦内すべての制御を行える場所であり、その重要さからダメージを受けても存続しやすい艦の中心部に存在した。

これまでの経験上、出航から4―5日経つと、敵潜水艦からの魚雷攻撃や艦上機からの機銃掃射などに巻き込まれることがほぼ確実にあったが、今回の航路上はやけにレーダーが静かで、時折レーダーを見つめる観測員からはかみ殺した欠伸がうかがえた。



 出航から10日後の深夜、私は最悪の目覚めをしなければならなかった。

『艦長、CICまで大至急お願いします』

艦長室からCICを直結する連絡管からルイドの緊迫した声が敵の接近を物語っていた。

 艦長室から艦内の狭い階段を通り、制服に袖を通しながらCICの中へ入るとルイドと「船の耳」の異名を持つ水測兵のチャールズ1等水兵がソーナー画面を凝視していた。

「艦長お休みのところをすみません、我が艦後方約5kmにて3分前に雑音を感知しました。」

チャールズはヘッドホンを片耳に当てながら、例の雑音をダビングしたものです、と私に別のヘッドホンをよこした。

『ピーッ、ピーッ』

自然界にこのような機械的な音を出す生物はこれまでにお目にかかったことはない。洋上レーダーに反応がないことから十中八九、敵の潜水艦だろう。

「潜水艦の攻撃にしてはタイミングがやけに遅いな。我々を追跡していたのか?」

「ええ、このような音は我々が記録してきた敵艦の音紋に一切合致しないので、おそらく敵の新型潜水艦が性能テストのために我が艦を追跡してきたと思われます。」

ルイドが音紋のデータベースに手をやりながら解説した。

「恐らくそうだろうな。君の海軍退職後のキャリアは私立探偵で決まりだな。」

深刻そうな顔をする部下2人の緊張をほぐす作戦だったが、作戦は失敗に終わった。


「艦長、戦闘配置をかけますか?」

「いや、このまま監視を続行してくれ。我々を攻撃するならとっくに攻撃をしている。敵が攻撃を仕掛けてくるなら恐らく十分な安全距離を確保してからの魚雷だろう。敵潜水艦が少しずつ距離を取り始めたら、戦闘配置だ。」

「しかし、それでは遅すぎませんか?今のうちに最大船速で離脱したほうが良いのでは?」

「コニロンは輸送艦と言えど巡行速力はピカイチだ。そんな我々を探知されずにこれまで浮上せず追いかけてきた艦だ。今逃げてもどうにもならないだろう。向こうが戦闘態勢をとってきたら、こちらも喜んで歓迎するとしよう。」


チャールズは艦長の言葉に喜んでいたがルイドは不安そうであった。


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