第5話 制圧射撃
次にオリバーに会ったのは3日後の制圧された要塞の広場での葬式だった。
国旗を背景に椅子に座るオリバーの写真と彼が最後に使っていたサブマシンガン、そして花で顔も見えない棺桶。それらがきれいに祭壇に飾られていた。
遺体の損傷が激しいため、遺体は焼却され軍旗で包まれた箱に遺骨とヘルメットが詰められた。
小さくなったオリバーは、今は僕の膝の上にいる。
「ブラッドさん、どうしてオリバーはこうなったんですか?」僕は素直に質問した。
「戦争がこうしたんだ。俺らは全員その被害者であり、同時に加害者でもあるんだ。」
「オリバーは僕の親友ですよ!?なんで死ななきゃいけないんですか?」
伍長が割って入ってきた。
「タンジ―、いい加減にしろ。オリバーがこうなったのはお前が十分知ってるだろ!」
「おい、よせ」
エリックが伍長を止めたが、僕は止まらなかった。
「オリバーは僕が殺したんですか?僕が彼を死に陥れたんですか?僕らがアンタの言う加害者ってやつなら、ここにいる人間は全員人殺しだ!!」
僕の声は予想以上に響き、皆が僕を見た。
「なんで、オリバーが、、、、」
あれからずっと泣いていた僕の目からはもう涙は出てこなかった。ただただ嗚咽してオリバーを抱きしめるしかなかった。
「タンジ―、オリバーを放してやれ、苦しそうだぞ。」エリック3尉が肩に手を置いて言った。
オリバーは一足先に輸送船で母国に帰還したそうだ。
僕はその後、エリック3尉の勧めの元、野戦病院で医者と話をしたり筆記テストをしたりした。結果は医者が想定していたものよりも良かったらしく、すぐに隊に復帰することができた。
復帰してすぐにブラッド1尉が僕に近づいてきて小さく、すまなかった。と寂しげに告げた。
「諸君、先の要塞奇襲作戦はご苦労であった。悲しいことに犠牲が生じた隊もあると聞いている。まずは国のために散った戦友たちに黙とうを捧げたい。
黙とう!、、、、、、、、、、、おわり。よし、それでは作戦を説明する。」
ロバート司令は将校らしからぬ短い挨拶と兵士を労う言葉でトーマス3尉へ説明を引き継いだ。
「作戦課のトーマス3尉です。今回の作戦は戦車部隊を主力とした敵航空基地への進軍です。この要塞からおよそ20km離れたところにある敵航空基地に攻め入り、我らがものにします。開戦当初に敵航空戦力は大きく損耗し、基地に戦闘機はいませんが、基地を守る敵対空装備が今回の壁となります。
そこで、温存してきた戦車隊を先頭に対空砲などを破壊し、その後ろを歩兵隊が追随し、基地を占領する流れです。何かご質問はありますでしょうか?無ければこれにて作戦共有を終了させていただきます。」
トーマはこの前の様に周囲を見渡し、そそくさと退室した。
次にふと気がついたら僕は銃をもって戦車隊の後ろを歩いていた。戦車の排気音と履帯が発する振動が歩き疲れた足に伝わってきた。
「いいか、奴から目を離すなよ。」
ブラッド1尉がエリック3尉に厳しくそう言っていた。ブラッド1尉が何に注意を促しているのかは全く分からなかった。
先導する戦車の戦車長が、こっちを向いて話しかけてきた。
「そろそろ敵航空基地の近くだ。吹っ飛ばされたくなかったら戦車のケツにいろ!絶対に対空砲の射線に出るなよ!」
そういうと彼はモグラのようなゴーグルをつけ、戦車の中へ潜っていった。
各々が弾倉のチェックと銃の安全装置を解除し、戦車の真後ろに兵士たちはきれいに集まった。敵の視界に入ったのか、対空砲の低く鈍い破裂音が鳴り始めた。
直後、戦車の装甲と対空砲の弾の一発がぶつかり合い、けたたましい金属の悲鳴が周囲の耳を劈いた。数名の兵士が堪らなくなって隊列を乱そうとしたが、トム伍長がたしなめた。
「お前ら隊列を乱すな!木っ端みじんになるぞ!!」
その後も兵士たちは隊列を何とか保ちながら少しずつ基地へと距離を詰めていった。
「貴様ら、あと少しだ!戦車がスモークを焚いたら突撃だ!!」
他の隊のリーダーがそう叫ぶと兵士は勇ましく吠えた。対空砲火が発せられる場所にかなり近づいたのか敵は射撃をやめ、煙幕を焚いた。
「くそ、向こうも同じ考ってことだな。まだ隠れてろ!すぐに制圧射撃が来るぞ!!」
別の兵士がそう叫ぶと、敵が言うとおりに対空砲に加え、マシンガンで制圧射撃を始めた。
発射音に聞き覚えがあった。
オリバーを殺したあのマシンガンと同じものだった。
オリバーはどうして死んだんだ? やっぱり僕が殺したのか?
そもそもなんで敵はこっちに銃を撃ってくるんだ?
いろんな疑問が濁流の様に僕の脳内に流れ込んできた。戦場でこんな思考になるのはマズいと心の隅で思いながらも止めることはできなかった。
「「タンジ―もどれ!!!」」
トム伍長にエリック3尉、ブラッド1尉がそう叫んだ。何で戻れと言っているのかは分からなかった。僕はただオリバーを助けようとしているのに。
コンコンコン、新しい拠点となった敵航空基地の司令室の扉をノックした。
入りたまえ、と扉の向こうから聞こえると、ブラッド1尉とエリック3尉が自分の名前と階級を言って入室した。
「第43特殊歩兵小隊ブラッド1尉入ります。」
「同じくエリック3尉、入ります。」
敵司令が座っていたであろう、作りが良く革でできた社長椅子にどっしりとロバート司令は腰を落ち着けていた。
「タンジー君のことだな。先ほど医療班が遺体収集に行ったが、おそらく対空砲を直撃していて遺体は何も残らなかったそうだ。残念だったな。」
「いえ、情報ありがとうございます。司令。」ブラッド1尉は敬礼で返した。
「しかし、一体どういう状況だったんだ?戦車隊の奴らも私になぜ彼は死んだと聞いてきたのだが。」
エリック3尉が重々しく口を開いた。
「おそらく、戦友が少し前に同じ死に方をしたので、それで精神を錯乱し死んだはずの戦友を当時の現場に重ねてしまい助けに行ったのではと考えております。」
「なるほどな、、君は衛生兵も務めているだろう?友人が戦死したときにPTSDの検査はなぜさせなかった?」
「野戦病院でできるあらゆる検査をやりましたが、結果はすべて問題なしでした。」
それを聞くとロバート司令は腕を組んで眉間にしわを寄せた。
「まぁ、何はともあれ、君たちの隊は2人の戦死者を出した。その代わりとなる兵士は早くても明日には配置しよう。」
二人は司令に敬礼で返事をして退室しようとしたが、司令はまだ話をつづけた。
「それから、タンジー君の死亡は新しく来る兵士には絶対に言わないように。無論、他部隊への口外も一切禁じる。」
二人は不服そうに敬礼をして退室した。
二人は航空基地の長い廊下を歩きながら今後について話した。
「また仲間の葬式ですね。1尉。」
「ああ。エリック、タンジ―の遺書を保管してたろ?せめてそれだけでも国に返してやらないとな。」
「それが1尉、タンジ―の奴まだ遺書を作成途中で持ったままで、今頃恐らく、、、」
ブラッド1尉は歩みを止めると、エリック3尉を連れて作戦課へ踵を返した。
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