第5章・友達になりたい
アステリア、エレノア、一周して舞台に戻ってくる
エ「アステリア…ありがとう」
ア「いえ…エレノア様の安全が一番ですから」
ア「自分は…エレノア様が、魔法を使えたことも、魔法の復活に反対していることも、知りませんでした」
エ「ごめんなさい…隠し事をしたかったわけじゃ、ないんだけど…」
ア「そうせざるをえなかったのですよね。分かっています」
エ「うん、ありがとう」
ア「エレノア様は/
/エ「私は、本当に…本当に、魔法なんて復活しなくていいと思ってるの」
ア「人間とロクザンの平等のため、ですよね」
エ「うん…」
沈黙
エ「これからどうしよう…私はどうするべき?」
ア「エレノア様…。それなら、自分と逃げて欲しいのです」
エ「え?」
ア「騎士団の皆様は、きっとエレノア様を保護してくださるでしょう。彼らは魔法の復活を願っていますし、魔法の力を信じています」
エ「そうね。でも、アステリアも彼らと同じでしょう?さっき、私の力が素晴らしいって/
/ア「あ!…いえ、それは…。自分も、先ほどまではそうだったのですが…皆さんの訴えを聞いて…魔法は万全では無いのかもしれない、と。…そこで思ったのです。自分は正直、騎士団の皆様が苦手かもしれません。人間を明らかに差別しているようですし、差別を生む魔法を、万能だと言い張ります。そんな方々に貴女様を任せたくない。わがままで、申し訳ありません」
エ「アステリア…」
ア「でも、人間側はもっと嫌なのです。エレノア様と意見は一緒かもしれませんが、そのために貴女を犠牲にしようとしている。どちらも頼れない。だから、自分と一緒に逃げてください」
エ「アステリアと二人で逃げるのも、楽しそうね。でもそれは…あまりにも無責任よ。この争いは私の持つ魔法のせいで起こってしまったことだもの。…私、どうにかして人間とロクザンの格差をなくせないかって思うの」
ア「格差をなくすなんて、簡単なことでは…」
エ「彼らの話を聞いたけれど、人間もロクザンも、相手を誤解している部分があるわ。彼らはお互いの種族の一部分しか見ていないのに決めつけてる。誤解が解ければ、私と貴女みたいに仲良くなれると思わない?」
ア「それは…。世の中にその考えを普及するのは、難しい、かと…」
エ「どうして?」
ア「だって…人は、すぐには変われないでしょう?彼らだけならともかく、この世の中には数えきれないほどの人間とロクザンがいます。今の世の中でロクザンと人間の交流がよく思われないことだって、昔から続く考え方です」
エ「私はその考えが嫌なの。アステリアはそう思ったことないの?」
ア「え…それは、ありますけど。でも、変えられないことですから」
エ「それなら、二人で変えましょうよ」
ア「え?」
エ「私、昔からの夢があるの」
ア「夢、ですか」
エ「そうよ。いつか、人間とロクザンの格差がなくなって、交流が普通になって…。アステリア。貴女と、友達になりたいの」
ア「え…友、達、ですか?」
エ「貴女はいつも私に尽くしてくれるわよね。それはとても嬉しいんだけど…主と従者としての壁があるなってずっと思ってたの。貴女はしっかり線引きをするタイプだし、特にね」
ア「自分は…あくまでも、エレノア様の従者ですから…」
エ「でしょ?だから貴女と対等になりたくて。エレノア様じゃなくて、エレノアって呼んでほしいし、堅苦しい敬語なんかも無くして、一緒に騒いで、一緒に汚れて、一緒に笑いたいの。こういうの、アステリアは嫌かもしれないけれどね」
ア「そんな…嫌なわけ、ないじゃないですか…」
エ「あら、そうなの?」
ア「そうですよ!しかし、人間の従者として、
主であるロクザンと親しくなりたいなど口に出せるわけがないでしょう…!?そのような関係、自分が何度夢にみたと思ってるんですか…!」
エ「アステリア…貴女も、同じ気持ちだったのね。じゃあ今日から友達に…と言いたいところだけど、世間が許してなんてくれないわね」
ア「そうですね」
エ「………ねぇ、カケラに願ってみない?」
ア「え…カケラに、ですか?」
エ「そう。私たちには無理でも、カケラの力を使えばどうにかなるかもしれないじゃない?」
ア「だ、駄目ですよ!だってカケラは伝説の魔法具ですし、願いを叶えるには代償が必要だって!!大きな代償で命が奪われてしまったらどうするのですか!」
エ「大丈夫。二人で願えば代償も小さくて済むはずよ」
ア「でも…」
エ「今、彼らが争っているのは私の魔法のせい。だから私はカケラの代償に魔法能力を捧げる。そして願いは叶って格差はなくなる。良いことづくしだと思わない?」
ア「そんな軽々しく…」
エ「でも二人で願ったらアステリアも何か代償を払わないといけないわね。やっぱり私一人で…」
ア「自分はエレノア様さえいてくださるのなら、何を失ったって構わないのです。だから絶対にお一人で願うなどしないでください」
エ「本当に?」
ア「はい」
エ「アステリアは…代償に、何を捧げるつもりなの?」
ア「自分は…そうですね…。このアステリアという名前を、捧げようかと」
エ「名前を捧げるって…貴女本当に?」
ア「はい。この名は、エレノア様にも、旦那様にも奥様にも、たくさん呼んでいただいた大好きな名前です。エレノア様が魔法能力を捧げるのなら、自分もこれくらいは捧げさせてください」
エ「それじゃあ、願った後、名前はどうするの?」
ア「それは…。では、その時はエレノア様が名付けてください」
エ「えっ…私が?」
ア「はい。今後もきっと、たくさん貴女様に呼んでいただく名前ですから」
エ「…そう。…アステリアらしいわね」
エレノア、カケラを取り出す
アステリア、カケラをチラ見した後、空を仰ぐ
ア「格差のない世界なんて…本当に訪れるのでしょうか」
エ「ええ。私と貴女と、カケラがあれば、きっと。…星が見えてきたわね。ねぇ覚えてる?私たちがまだ小さかった頃、お母様とお父様には内緒で、夜に二人で家を抜け出したこと」
ア「はい、覚えています。あの夜は確か、流星群の」
エ「えぇ。流星は尾を引いて煌めいて、星たちは星座を描いて…それは今だって変わらないのに、あの時とは違って見えるのはなんでなんでしょうね」
ア「あの日の星空は、とても美しいものでした。けれど今こうして、またエレノア様と二人で見上げている星も、とても綺麗です」
エ「そうね。貴女と二人で見上げる星は、いつだって美しい。でも、世の中がもっと平和になれば、この星たちもきっともっと輝いて見えるんじゃないかしら」
ア「…そうですね。自分も、そう思います」
エ「…それじゃあ」
ア「はい」
二人、カケラを握る
二人「カケラよ、代償は私たち(自分たち)二人をもってお支払いいたします。だからどうか、この国を差別も格差もない、平和な国にしてください」
願い終わった二人、その場に膝をついて崩れ落ちる
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