第2章 救いの手を求めて

場転


旧魔法団および現騎士団の基地


中央に麗がおり、少し離れた位置にカルネラが立っている

カルネラ、机を整えている


麗「今日もまたゾルくんの机掃除してるのね」


カ「そうです、机がちょっと乱れていたので整えておこうと思って」


麗「でも別にカルネラちゃんの仕事じゃないんでしょ?それなら、やらなくたって怒られたりしないのに」


カ「ゾルさんがきっちり仕事できる環境を作っておきたくて。ずっと憧れていた人が少しでも落ち着いて仕事できるならそれでいいんです」


麗「ふふ、憧れっていいわね。そんなふうにアタシも慕われてみたいものだわ」


カ「麗さんも仕事してるとき、威厳というか男らしさがあってかっこいいですよ?」


麗「やだぁ〜!…って男とか言うんじゃないわよ!!せめてオネエさんって言いなさい!」


カ「す、すみません!こ、こだわりがおありで!」


ゾルテノ、袖から歩いて登場する


ゾ「相変わらず能天気だな。お前たち」


麗「あ、ゾルくん」


カ「ゾルさん!おかえりなさい!」


ゾ「はぁ…その様子だとまだ聞いていないか」


カ「何をですか…?」


ゾ「先刻、街中でエレノア様が魔法を使われたとの情報が入った」


麗「…っはあ!?!?魔法を使ったって…!!」


カ「消滅してしまったはずなのでは…」


ゾ「信じられんが、目撃情報は上がっている。全員、あれは間違いなく魔法だった…とな」


麗「そうなると証言を嘘だと切り捨てるわけにも行かないわね」


カ「でも、確かめようにもいなくなってしまったなら打つ手が無いですし…」


ゾ「…それで、最も近くにいたという証人を連れてきた」


ゾルテノが顎で指し、アステリア、登場(このときゾルテノが出てきた方と同じ袖から出てくる)


ゾ「…来い」


カ「えっ…人間…って怪我してるじゃないですか!?」


ア「あっ…いえ、自分は大丈夫ですので」


ゾ「この娘はエレノア様の従者らしい。不本意だが、情報の聞き取りの為に連れてきた」


カ「エレノア様ってロクザンでも上位貴族の方ですよね?まさか人間さんを従えていたなんて…」


ゾ「貴族が人間如きを雇うなど…到底信じがたいがな」


カ「あの…僕達、名乗ってなかったですよね。これから協力するんですし、名乗っておきましょ!僕はカルネラと申します。この騎士団で医療班を務めています。簡単に言えばお医者さんみたいな感じですかね」


麗「アタシは麗。ゾルくんについでこの騎士団で副団長を務めてるわ。で、こっちが…」


ゾ「…」


カ「ゾ〜ルさん!」


ゾ「…私はゾルテノ。騎士団の団長だ」


ア「ゾルテノさん、麗さん、カルネラさん…ですね。これからよろしくお願い致します」


麗「えぇ。よろしくね」


カ「あなたの名前は?」


ア「自分はアステリアと申します」


ゾ「それで状況は」


ア「…事の発端は自分が向かいから歩いてきていた方とぶつかってしまい少々喧嘩というか怒らせてしまった為に、殴られてしまって…。それを見てエレノア様が自分を庇うように発動しておりました」


ゾ「は?」


ア「はい、また…その後エレノア様は目の前で攫われてしまい…。どうすれば良いのかも分からないまま、固まっていたところをゾルテノさんに連れられこちらにやってまいりました」


カ「えっ、それって大変じゃないですか!?」


ゾ「騒々しい。慌てるな」


麗「そうよ。まずはアステリアちゃんの話を聞きましょ」


アステリア、安心して身体の緊張がほぐれる(若干気が抜けて立ち姿が崩れる)


ゾ「エレノア様を攫った者の特徴は」


ア「……あまり明確ではありませんが貴方がたと同じようなロクザンの特徴を持っていました」


麗「ロクザンの特徴ってことは……」


ア「また、その男は首元に包帯をしていたかと…。」


ゾ「…その話であれば攫った者はおそらくリゼンバートという男だろう。あれは…ロクザンのくせに人間の味方をしている狂人だからな」


麗「そうね」


ア「……どういうことですか?」


麗「人間はね、アタシたちロクザンと対立しているのよ。ロクザンと違って魔法が使えなかったからロクザンばかりが使えてずるいってたびたび問題を起こしているの」


ゾ「そんな人間たちを取りまとめているうちの一人が、おそらく貴様が見たであろう男、リゼンバートだ」


ア「そういうことが……」


カ「でも魔法が無ければこの国の繁栄は有り得なかったんですよ」


ゾ「まさか、貴様はこの国の魔法時代について知らないと?」


ア「はい……話を聞く程度でしかなく…」


ゾ「その程度でよくエレノア様の従者が務まるものだな」


麗「ほら、ゾルくんそういうこと言わないの。じゃあ、最初から話しておかなきゃね。この国に魔法があった頃、魔法は国の全てを支える素晴らしく大事なものだったの。日常的なことはもちろん人々を守って幸せを与えていたのよ」


カ「魔法は、人々がやるには難しいことや危険なことの全てを担うことができたので、何もできなかった人間さん達を助けたんです!」


ア「魔法によってこの国が創られていったと言っても過言では無いのですね」


麗「でもそれがあるとき予兆もなく突然なくなってしまったの」


ア「それによって、この国全体が落ち込んだのですね…」

 (そういうことだったんですね…)


麗「人間たちの根本を支えていたからこそ無くなってからはかなりの困惑と動揺が生じたの。だから無くなってすぐの頃は大変な騒ぎだったわ」


カ「どうして無くなったのか、理由はまだ分からなくて…。でも、僕たちロクザンは魔法を復活させて以前のような国の繁栄を取り戻したいと思っています」


ゾ「そうだ。魔法が消滅した今、未だ能力を宿すエレノア様はこの国にとって重要な存在だ」


麗「たしかエレノア様の御一家は伝説のカケラを持っているって情報が上がっていたこともあったわよね?」


カ「ちょっと情報の正確さは心許ないですけどね。でももし、それとエレノア様の魔法があれば魔法復活が達成できるかもしれないんです」


ゾ「だから、此度の件で魔法復活に繋がる手掛かりが得られるかもしれない以上、エレノア様をこちらに連れ戻す必要がある」


ア「……栄誉ある素晴らしきことなのですね…!!ならば、早くエレノア様を助け出さなければ!エレノア様がそんな素晴らしいことを達成なされる要因かもしれないなんて…!」


麗「…危険な目に遭うかもしれないのよ?」


ア「それでも、エレノア様を助けに行きたい気持ちは変わりませんから…!」


麗「でも…」


ゾ「いい、勝手にしろ」


麗「え、ちょっと」


ゾ「ただし、自分の身は自分で守れ」


ア「はい」


ゾ「…行くぞ」


★麗「…えぇ」


★カ「はい」

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