第21話 とあるモブ女子生徒いわく(前編)
上園さんがダンスのペアになってくれる――
それはぼっちのオレにとって、この上なく都合の良い提案だ。
だが何故そんな提案をしてくれるのだろう?
そもそも上園さんのようなカーストトップの女子が、オレみたいな陰キャと組んで楽しいのだろうか。
それとなく尋ねてみる。
すると上園さんは、顔を赤くしてキョドりながら――
「べ、別にカーストとか気にしてないし! あーしはただ、アンタがぼっちで誰も組んでくれる女子がいないのが、可哀想かなって思っただけ……!」
なるほど、
これはつまりはお情けか。
それなら理解できる話だ。
オレは改めて、彼女からの提案について考えてみる。
言うまでもなくペアになってくれるのはありがたい。
体育祭のフィナーレとして催されるこの男女ペアダンスは、最後まで組む相手にあぶれたままだった場合、担任の
それだけは嫌だ。
何としても避けたい。
オレは上園さんの提案を受け入れることにした。
「ありがとう助かるよ。じゃあオレからもお願いして良いかな? 上園さん、オレとペアを組んで下さい」
頭を下げて右手を差し出す。
上園さんはオレの手を照れながら握り返し、もう片方の手でほっと胸を撫で下ろす仕草をみせた。
◇
――ところでその日から、上園さんは毎日お昼になると校舎裏までやってくるようになった。
休憩時間を目一杯使って食事を摂りながら、何が楽しいのかオレなんかと雑談に興じる。
オレはそんな上園さんの振る舞いに戸惑いっぱなしだ。
はてさて、この子は一体何を考えてるんだろう――
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
わたしの名前は
この春、都立
このB組には新入生で――いえ、在校生も引っくるめた学校全体で考えても、断トツ抜きん出た容姿を備える生徒が、2名在籍しています。
その内ひとりは
セミロングの綺麗な髪をブラウンに脱色した、スタイル抜群の美人さんです。
なんでも上園さんは中学の頃からファッション誌で読者モデルをやっていたらしく、入学当初からそこそこ有名人みたいでした。
その証拠に入学からしばらくは、他のクラスや上の学年の男子が休憩時間のたびに彼女を一目拝もうと引っ切りなしに足を運んで来たくらい。
美人だ!
めっちゃ美人だ!
なんて騒いで本当にうるさかったです。
でも気持ちは分かります。
だってこの上園沙耶香さんという美人は、同じ女子であるわたしからしても、うっとりと見惚れてしまうくらい綺麗だから。
案の定、入学から一週間もすると上園さんはクラスの中心的な存在になっていました。
◇
そしてウチのクラスにはもう一人、上園さんにも負けないくらい美形の生徒がいます。
こっちは男子生徒です。
彼の名前は
身長はおそらく平均的な同学年男子より、少し低めでしょうか。
『かっこいい』より『可愛い』との表現が良く似合う、線の細い美少年です。
わたしが拓海くんを初めて目にしたのは、入学式のことでした。
彼はご両親と一緒に、校門から校舎へと続く道をゆっくり歩いていました。
きっと仲の良いご家族だったのでしょう。
時折り屈託のない笑みを見せながらご両親と談笑する拓海くんを見て、わたしは口から心臓が飛び出るかと思いました。
だってめちゃくちゃタイプだったのです!
こんな美少年みたことない……。
可愛すぎて鼻血が出ました。
わたしは無意識に拓海くんを目で追っていました。
早くも彼のことが気になって仕方ありません。
しかしそれも無理からぬこと。
気付けば入学式に出席していたわたし以外の女生徒たちも、彼を目で追いかけています。
そのくらい目を惹く美少年だったのですから。
わたしは「……これはライバル競争が激しくなるぞ……」と争いを予見して震えました。
◇
拓海くんのことは直ぐに女子の間で噂になっていました。
そりゃそうです。
そして初登校の日、ボードに貼り出されたクラス分けの用紙を眺めながら、わたしはガッツポーズを取りました。
コロンビアみたいな格好です。
なんとわたしは、拓海くんと同じB組に組分けされていたのです。
よし!
やった!
しゃおら、一歩リード!
わたしは人目も憚らず、何度も叫びました。
これで今日から拓海くんと同じクラス。
もし隣の席なんかになったらどうしよう?
そんな妄想が膨らみます。
知らぬ間に鼻血が出ていました。
けれども拓海くんはその日以降、登校して来ませんでした。
そしてわたしは朝のホームルームで、担任の中島先生から彼のご両親が亡くなったことを聞かされたのです――
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