第13話 陽キャ女子はモデル志望
遅刻してきた女子生徒が、壇上で自己紹介中のオレに気付いた。
たしか担任の先生は、さっきこの子を
「なになに? こんな時期に転入生? って、――はぅわっ⁉︎」
オレと目が合うや否や、上園さんはフィギュアスケーターもかくやとの勢いで突然上半身を
その姿勢のまま固まる。
「……かっ、かっ、かわ……! な、何この子……めっちゃ可愛……!」
口をパクパクさせながら何事かを呟いている。
何と言っているだろう?
……かわ?
声が小さくて、はっきりと聞き取れない。
オレは上園さんにガン見されたままだ。
見開かれた目が怖い。
逃げるように視線を逸らすと、タイミングよく先生が割り込んでくる。
「こら上園ぉ! お前、出会って早々小鳥遊を威嚇するんじゃない。こいつ怖がってるだろー」
「――うぇっ⁉︎」
ようやく正気に戻ったらしい。
上園さんはこほんと咳払いをして「い、威嚇なんかしてないしー!」とか言いながら自分の席に着く。
彼女の着席した場所を見て、驚いた。
なんと上園さんの席は、オレの隣だったのだ。
◇
一限目の授業は数学だった。
オレは休んでいた分の遅れを取り戻すべく授業に集中しようと頑張るが、なんかこう、隣の席からチラチラ盗み見られているように思えて気も
そうこうしているうちにチャイムの音が鳴り響き、授業合間の休み時間に突入した。
隣の席にクラスメートたちが集まってくる。
「ちっす、上園ぉ!」
「お前、連休明けからソッコー遅刻かよ。根性あんなぁ」
ケラケラ笑う男子を押し退けて、女子が机に身を乗り出す。
「それより
「あ、私もそれ気になってた! ゴールデンウィーク中に苺プロのモデルオーディション受けてくるって言ってたもんね!」
何人かの男女が、喋りながら上園さんの席を囲っていく。
きっとこのメンバーがクラスカーストの頂点なのだろう。
どの生徒も身体から
何というか気後れしてしまう。
オレは極力隣と目を合わせないで済むよう、机に置いていた数学の教科書を開いた。
読むフリをする。
そんなオレの虚しい一人芝居など気にも止めず、陽キャたちは騒いでいる。
上園さんが応える。
「オーディション? うへへ。行ってきたぞぉー」
「おお、すげえっ」
「さすが上園! ファッション誌の読者モデル常連は伊達じゃないぜ!」
「というかストロベリープロダクションって、今めっちゃ勢いある事務所じゃん。そんなとこのオーディション受けれるなんて、沙耶香ちゃん凄すぎぃ」
会話から察するに、上園さんはモデルオーディションの一次選考(書類審査)を通って、実技審査の二次選考を受けてきたらしい。
大したものだ。
というか上園さんはモデルを目指しているのか。
萌ねえもモデルだっていうし、最近なにかとモデル界隈に縁がある。
オレは教科書で顔を隠しながら、上園さんをチラリと観察する。
……うん、綺麗だ。
萌ねえほどではないけど、たしかに見目の優れた女子だと思う。
顔だけじゃなくてスタイルも良い。
これほどの容姿であれば、きっと学年で一番の美人だったりするのだろう。
そう思えるくらいレベルが高い。
まぁ萌ねえほどではないが。
◇
っと、そこでちょっと引っ掛かった。
さっき陽キャの誰かが『ストロベリープロダクション』って言ってなかったか?
それってたしか、萌ねえが所属している事務所だったような――
興味を引かれたオレは、引き続き隣の会話に聞き耳を立てる。
「ね、ね! 沙耶香ちゃん! オーディション会場で、プロのモデルさんに会えたりした? M
「わかるー! めっちゃカッコいいよね! 超美人だしミステリアスでさー」
上園さんがあははと笑いだす。
「オーディションってもまだ二次選考だって! M・O・Eみたいなガチのトップモデルが見に来る訳ないじゃん!」
「あー、それもそっかぁ……」
「でもさ、M・O・Eには会えなかったけど、
「マジで⁉︎ 八車塔子ってオレらと
「たしか八車塔子も苺プロの所属だっけ?」
「そうそう! それでオーディション会場にいたの。あーし生で見たし!」
陽キャたちが「すげー!」とか「羨ましい!」とか大きな声ではしゃぐ。
ずいぶん楽しそうだ。
上園さんを中心とした彼らのその盛り上がりは、二時限目の授業が始まるまで続いた。
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