026_ガラクとゴーレム(その1)

 作成するゴーレムをアイアンゴーレムと定めたものの、アイアンゴーレムのページを確認する限り詠唱・魔法陣のどちらにせよマッドゴーレムのようにファジーな部分が少なく、ある程度稼働部分を作り込んだ素体が必要になる。

 それも含めて今後のゴーレム作成の工程とその工程で行うべきことをピックアップしてみることにした。

 まずは素体の作成について必要な作業として考えられるのは

 ・ゴーレム素体の設計

 ・材料の収集・加工

 ・作成

 この中のゴーレム素体の設計については、過去にインストールしたイエローチップで死にデータ確定と考えていた「ロボット工学」の知識がかなり役に立つと思われ、作成するゴーレムをアイアンゴーレムに決めた要因の一つとなっている。

 素材の収集については収納魔法に格納されている大量の廃棄物を保有しているため特段問題にならないものの、加工となるとそうはいかない。

 現在のところガラクに可能な金属加工というと光魔法を使用した切断・溶接のみで、根本的な形状の加工となると難しい。

 精密部品などを廃棄物の中から探すこともできるかもしれないが、同じサイズのパーツが複数必要な場合などは揃えるのが難しい。

 考えられる方法としてはベアリングなどの精密でサイズをある程度揃える必要のある部品については居住区内の大型商店等で要件を満たすパーツを探して購入。

 金属の形状を加工については、そのための魔法を新たに覚えることにした。

 金属加工の魔法は今後の魔法陣作成に流用できる可能性など、この衛星における汎用性の高さを考えれば、時間をかけて新たに魔法を覚えることは非常にメリットがあると考えられる。

 そもそも、ガラクにとって新しい魔法を覚えること自体、非常に楽しいと感じているため、使える魔法の種類を増やすことに躊躇などない。

 魔法の勉強と設計の期間を並行して進めれば多少なりとも時間の短縮につながるので、設計や3人の魔力操作の練習に立ち会う時以外の空いている時間はできるだけ魔法の習得に努めることにした。

 素体の設計と金属加工が可能になれば作成は設計図に合わせて素体を加工して組み立てるだけとなるため、それほど難しいことではなくなる。


 次にゴーレムの魔法については、将来的には複合素材のゴーレムを作ることも念頭において進める必要がある。

 考えられる工程としては

 ・魔法陣の解析・研究

 ・魔法陣作成のための素材

 ・魔法陣の刻印

 となるだろうか。

 そもそもアイアンゴーレムの魔法自体が素体の存在を前提としているため、研究や解析をするためにも素体が必要となる。

 実際のゴーレムの素体にいきなり魔法陣を刻印して失敗しては目も当てられrないので、金属加工が可能となった段階で素体のミニチュア簡易版を作成、詠唱による発動の実験を行い、解析・研究をする必要があると思われる。

 発動の実験が完了するまでに魔法陣作成のための素材、主には魔力結晶を粉末状に加工したものが必要になるが、自分でやっていてはいつまで経っても作成に移れないためスクラやクロスタに手伝ってもらえないか聞いてみることにする。

 魔法発動の実験・解析・研究の完了と素材が揃えば、魔法陣の刻印の作業自体はまだ2つとは言え作成経験の蓄積があるので、それほど手こずることはないと考えられた。


 こうして完成までの工程を羅列してみると箱の魔法を駆使しても完成までにそれなりの期間を要すると判断できる。

 最初に手をつけるべき作業としてはゴーレム素体の設計か素材加工に必要な金属加工の魔法習得となる。

 ガラクとしてはロボット工学の知識を活かした設計も楽しそうだし、新しい魔法の練習も魅力的であるためどちらか始めるか迷うところだ。

 だが、設計図を作成するのに必要な機材など現在ないものは公休日の買い物で仕入れる必要があるため、それまでは金属加工のために覚える魔法を決めて朝まで習得のための練習をすることにした。

 まず、今まで覚えた魔法は基本的にタブレットのチュートリアルで紹介された魔法がメインで、それ以外は崩落事故から生きて脱出するのに必要な魔法を若干取得しているのみだ。

 それらの魔法を覚えたり探したりする過程で色々な魔法がデータとして存在していることは確認しているが、今までは余裕がなかったために覚えるには至っていない。

 今回覚えようとしている魔法は今覚えている魔法の中ではとはまた系統が違う魔法となる。

 例えば光の魔法と水の魔法は魔力を光や水という現象に変換して終了する部分で使用の感覚は似通っていると言える。

 発動後の操作が必要という意味では収納魔法と移動魔法は系統としては似通っていると言えなくもない。

 ただし、実際には収納内容がリスト化される部分も魔法に含まれている収納魔法と発動後に移動先などの指定や操作を直接行う移動魔法では全く違う。

 今回覚えようとしている魔法は、発動後に直接操作という意味では移動魔法に似ているものの、ただ物体を動かすだけの移動魔法と物体自体の形状を変化させる魔法では操作方法がだいぶ違うと考えられる。

 また、いくらチップによる知識が脳内に存在しているとは言え、今までの魔法同様に覚えた後も実際に実用に耐えるレベルまでの練習は必要になる。

 脱出中にタブレットをいじっている時に見つけた魔法のうち、金属に関する項目の中から変形・加工に関する魔法を検索で表示させる。

 その中には金属を破砕する分解機に資材を投入する時以外に使用用途が見出せない魔法や、魔法や一瞬だけ金属を発熱させる本当に用途がよくわからない魔法などなどが並ぶ中、ガラクは覚える魔法として金属を任意で曲げたり伸ばしたりするだけの魔法とある程度望んだ形状に金属を成型する魔法の二つをチョイスした。

 その二つをチョイスした理由としては、最初の魔法は詠唱も比較的簡単で覚えるのも容易であり、素体の胴体や腕など大きなサイズのパーツを大まかに形成することを目的としている。

 もう一つの魔法は最初の金属曲げ伸ばしの魔法や光魔法による溶接では対応できない形状を直接形成するためで、主にジョイント部分や魔法陣の直接刻印などを想定したものだ。

 どちらの魔法から覚えるべきか悩むところではあるが、ゴーレムの魔法の練習に必要な素体のミニチュアを作ルためには二つ目の魔法を先にするべきだと判断した。

 ただ、ガラクは心の中でそのような言い訳をしているものの、実は単純に金属形成の魔法の方がなんだか面白そうだと思うから、という曖昧な理由でなんとなく金属形成の魔法からから覚えようと思っているだけだ。

 検索結果から金属形成の魔法の頁を表示すると、説明書きに詠唱と魔法陣を確認すると同じ魔法でも効果がかなり違うと記載がある。

 魔法陣の場合は使用方法が二種類あり、今までの魔法と同様にタブレットの魔法陣で魔法を発動して対象の金属を変形させる方法と、刻印した魔法陣に魔力を流して形状記憶合金のように変形してしまった金属を魔法陣を刻印した時点に形状を巻き戻す効果があり、主に形状記憶としての使用方法がメインとなる。

 形状記憶の魔法陣の場合、その際に不足している素材を接触させておくことによって傷なども補填するように魔法が影響する。

 対して詠唱の場合は、形状を任意に変形させたり融合させたりとかなり自由度が高いが、詠唱も長くかなり集中力と魔力を要する魔法で、魔法が発動すると意思でも手作業でも作業可能な魔法となっているようだ。

 今回の目的としてはまずは詠唱を覚える必要があるが、ゴーレムに魔力を流すだけで修復するのはかなり魅力的なので、最終的には魔法陣の方も解析・研究してヴィークルモドキやゴーレムに組み込む方向で考えることにした。

 とはいえ、まずは詠唱の練習をするため、収納から適当な金属片を取り出して目の前に置き、タブレットを見ながら詠唱を一小説ずつ丁寧に進めていく。

 金属形成の魔法の詠唱は今までの魔法と比べると収納魔法と同じくらい詠唱が長く、間違わないようにタブレットを見ながら5分ほどかけて詠唱を完了、目の前の金属片を指定すると視界にあった金属片が魔力を帯びたのがわかった。

 魔法が正しく発動したことを確認し金属片を手に取ろうとすると、魔法の集中が途切れてしまい解除されてしまいなかなか金属を加工することができない。

 次はタブレットの魔法陣を使用して魔法を発動してみるが、今度は片手が塞がっていて手ではうまく加工ができなかったため、説明にあったように意思で形状の変化を試したところ予定より大きく変形してしまい意図した形状とはかけ離れてしまうという結果となった。

 移動魔法を魔法陣で発動した場合でも右手で方向指示をしており、それである程度移動魔法の操作に慣れてから詠唱を覚えたのでため、いきなり意思のみで操作というのはなかなかにハードルが高いようだ。

 当面は両手を開けた状態で魔法の発動が必要と判明したため、ガラクはゴーレム作成における最初の目標をタブレットなしで詠唱できるように金属形成の詠唱を丸暗記することに定めて作業を開始した。

 そうして詠唱の丸暗記と詠唱で発動した魔法の集中力維持、うまく行った時はちょっと金属加工というルーティンを何度か寝おきを重ねる間続け、スクラの起床に間に合うように作業部屋の片付けをする頃には丸暗記とまでは行かないが魔法の発動が若干スムーズになっていた。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る