027_ガラクとみんなでお買い物(前日)

 公休日を翌日に控え、スクラが登校する前に公休日にはクロスタと職場の同僚であるパリスの4人で大型商店を中心に何ヶ所かで買い物をするからそのつもりでいるように伝えた。

 本人は嬉しそうにやっていたのであまり気にしていなかったが、最近の公休日は魔力操作の練習ばかりで多少ストレスを感じていたのか思いの外嬉しそうに登校して行った。

 出勤してパリスといつも通り挨拶を交わした後、移動用ヴィークルでシーカーポイントに到着して他のシーカーが三々五々散っていく中、2人で移動しながらパリスに対して公休日の予定について切り出した

「明日、見せたヴィークルモドキにのって、皆んなで大型商店に買い物にいくんだけど、一緒に来ないか?」

 今までそういう誘いをお互いにしてこなかったこともあり、パリスは嬉しそうに顔を向けたが、すぐに疑問が湧いてきた。

「特に予定はないっすけど、皆んなっていうのは誰っすかね?」

「僕と従妹のスクラとクロスタは来るって言ってたから、パリスが来るなら4人だよ」

 そのガラクの回答にパリスは微妙な表情を見せながら

「えーっと、俺は行かない方がいいんじゃないすか?」

 パリスの反応が急に芳しくないものになったことに疑問を覚えながらも

「ビッグマンの作業部屋に置く什器を買うのがメインだからパリスにも一緒に選んで欲しいんだよね。あそこを使えるようになったのはパリスのおかげだし」

 口にはしないものの、2人をビッグマンビルの作業部屋に入れるのはちょっと憚られた。

「それに大人数でわいわいしていた方が楽しいだろ?」

「そこまで言ってもらえるなら一緒にいくっすけど・・・」

 ちょっと口ごもりながら同行に承諾するパリスにヴィークルモドキでR/R社の前で2人を拾うこと、お昼は皆んなでイートインで食べるから朝食は食べてから来ることを伝えてから、パリスの魔力操作の練習を始めた。

 午前中に規定回数の3回を終え、昼食を挟んで午後はガラク本人は金属形成の魔法の練習をしつつ、パリスにはスクラにもさせたのと同じように魔法の発動に関する勉強を進めてもらうことにした。

 魔法の発動に関する座学はクロスタにも進めてもらう必要があるが、現状では教材がガラクが起動しないと動かすことすらできないタブレットのみのため、そのうち、自分がいなくても魔法の発動や詠唱・魔法陣に関する勉強ができるようなテキストを作成する必要があることに気がついた。

 クロスタに対する魔法発動に関する勉強の時間をどこに儲けるか考えながら詠唱の練習をしていると、パリスから疲労もかなり回復したので魔力操作の練習の4回目を試してみて欲しいと要望があった。

 1日にできる魔力操作の回数の指針も欲しかったため、パリスには先日のクロスタの件を伝えつつ体調が悪くなったり疲労が蓄積しすぎたらすぐ申し出るようにキツく言い含めた上で、4回目の魔力操作の練習をしてみた。

 パリス本人の言うとおり疲労は回復していたのか4回目の魔力操作の練習は問題なく終了し、午前午後に分けて間に疲労回復の時間を設ければ1日にできる魔力操作の回数は増やせることがわかった。

 移動用ヴィークルへの集合時間が迫ってきたところでいつも通り収納魔法から資源を取り出して2人で分配する作業を終えて集合地点へ向かおうとすると、パリスが

「今度、作業部屋見に行ってもいいすか?」

 と言ってきた。

 特段断る理由もなかったので了承した上で、時期については今日も仕事中にやっていた金属形成の詠唱がちゃんと使えるようになったらガラクから声をかけることになった。

「何かあったの?」

「いや、ただ興味があっただけっす」

 と言った会話を交わしている間に集合場所で移動用ヴィークルに乗り込んで社屋に向かい初めていた。

 会社に到着していつも通りパリスに資源の提出を任せ、着替えをしてから副社長室に向かう。

 いつもと同じように秘書さんに声をかけると秘書さんは忙しいのかこちらを見ることもなく手で副社長室の戸をさし示したのでお辞儀をしながら通り過ぎて扉を開けると、部屋の中には昨日と同じように応接ようの長椅子で仕事をしている副社長の横に座ってクロスタが待っていた。

「副社長、お疲れ様です。クロスタもお待たせ」

 社会人として当然のことだが部屋の主人である副社長にまず挨拶をし、その後に友人であるクロスタに声をかけた。

「ご苦労様」

「私も今きたところだから別に待ってないわ」(楽しみすぎてちょっと早くきちゃったけど気にしないでね。の意)

 通り一辺倒の挨拶を交わしてクロスタと部屋を出ようとしたところ、副社長から声がかかる。

「ガラク君、ちょっと相談があるのだけど少し時間をもらえないかしら?」

 雇用者側である副社長にそう言われて否と言える社員はなかなかいないと思いながら頷くと、副社長は安楽椅子に座るよう促してきたので指示に従って腰を落とす。

 昨日、ヴィークルモドキについて聞かれかけてたのでその話かなと思いつつ副社長の方に顔を向けると、その横ではちょっと不機嫌そうな表情のクロスタが自分の母親にかなり強めの肘鉄を食らわせているのにビクッとし、さらにその肘鉄にびくともしていないのかそのまま話を始める副社長にさらに驚いていた。

「あなたが乗ってたヴィークルなんだけど・・・」

 予想通りの切り出しにヴィークルモドキの何を聞かれるのかなと思いながら、返答について幾つかの回答を用意しながら話の続きを待っていると

「うちの主人が欲しがっちゃって・・・相場の倍で売ってもらえないかしら?」

 買取の申し出というガラクが予想していなかった申し出に驚きはしたものの、ヴィークルモドキはガラクが移動の魔法で動かすためにほとんどの中身を取っ払って外装以外ほとんど残っておらず、そのまま動かせるのは現在ガラクしかいないため売るわけには行かない。

 なんと言って断ろうかと考えていると

「お母さんガラクが困ってるでしょ!?昨日の夜も言ったけどあのヴィークルは無理なんだってば!」

「でもあなたダメな理由を言わないから、本人に聞いてみてもいいじゃない」

「ガラク、キッパリ断っていいからね!社長とか社員とか関係ないから!」

 目の前で親子喧嘩?が始まってしまった。

 副社長が何か言うたびにヴィークルモドキの事情を知っているクロスタが口を挟むせいで内容を理解するのに時間がかかってしまったが要約すると

・会社の業績がかなり良いため他業種の経営者などとの付き合いがかなり増えてきた。

・そういった付き合いの関係上、見栄のためにも自家用ヴィークルが欲しく購入を考えっていた。

・タイミングよくガラクが目に鮮やかなライトブルーのヴィークルで家に乗りつけた。

・諸経費などを考えればR/R社の社員の給料で維持できるとは思えない。

・申し出れば売ってもらえるのではないか。

 と言う流れでガラクにヴィークルの買取について相談をしたようだった。

「ダメならダメでもいいんだけど、検討してくれないかしら?」

 副社長もそう言っているし、前述のとおり駆動装置などを全て取り去っているため、現状でヴィークルモドキを動かせるのはガラクのみのため

「副社長、金額のことなど配慮いただいているのはわかるのですが、あのヴィークルはちょっと特殊なので売ることはちょっとできません」

 と回答するしかない。

「それならどうやって入手したのか教えてくれないかしら?」

 渋っているガラクに対し、副社長がなぜあのヴィークルにこだわるのかを説明してくれた。

 そもそも居住区で販売しているヴィークルは分解機械にかけられた素材を元に製造するので基本的には使用用途に合わせた画一的な企画で作成されているヴィークルを購入するのが一般的であり、自家用のヴィークルを持てるほどの富裕層でもそれはあまり変わらない。

 それ以外は廃棄物の中から車体を発掘することもできるが、基本的にはそのまま動くものはほぞ存在しないため、その車体を動けるように治そうと考えた場合、いろんなパーツがワンオフとなるため、新品のヴィークルを買うより遥かに金がかかることになるらしい。

 もし廃棄物の中から稼動するヴィークルが見つけた場合にそれを発見者が個人で使うことは合法だ。

 ただし、動かすためのエネルギーパックは自宅で使用するエネルギーとは別に税金が課されているため高額になるし、将来的には経年劣化したパーツをワンオフで受注生産する必要があるなど、ガラクのように被雇用者としての収入しかない経済状況では維持できないとのこと。

 副社長はそれも見込んでクロスタに話をしたものの、ガラクはあのヴィークルを絶対に売らないし迷惑だから話を持ち出すなと事前に注意していたが話を聞かずに相談を持ちかけたせいで喧嘩へ発展したようだ。

「いや、色々と問題がありまして・・・」

「問題があるなら解決してあ・・・」

 言葉の途中でゴスッ!と言うものすごい音がして、副社長が唸りながらうずくまった。

「さ、話は終わったから行くわよ」

 そう言いながらクロスタは立ち上がってガラクの手を取ってそのまま副社長室から退室した。

 後ろから「く・・ロス・・・た・・・ガクッ」と言うセリフが聞こえたが完全に無視だったが、一応は心配したのは秘書さんに副社長が中で倒れてると一言残して階段を降り始めた。

 自分を引っ張って歩いていくクロスタの方を心配そうにみていると

「自分でガクッとか言えてるんだから全く問題ないわ」

 と言われて、そんなもんなのかな?と疑問に感じながら引っ張られて地下のヴィークル格納庫に辿り着いた。

 判然としないままクロスタに促されて収納魔法を発動してヴィークルモドキを取り出し、2人で乗り込んだ。

 発進しながら本当に大丈夫なのか改めて問うと

「あの程度なら気にする必要もないわ」(夫婦喧嘩も親子喧嘩ももっと派手だからあの程度ならなんの問題もないのよ?の意) 

 と返されてしまいそれ以上は聞けなくなってしまったので、話題を変えるために明日は会社前でパリスを拾うのでそこで一緒に待ってて欲しいと伝えた。

「わかったわ。明日はお父様が家にいるからそれでいいわ」(本当はお家まで迎えにきてもらったほうがロマンチックだけど、今日の明日でウチに来たら面倒ごとになるから仕方ないかな。の意)

 と、明日の待ち合わせについては了解を得られたところで、今日の日中に気がついた魔法の発動の勉強についての話をしておく必要がある。

「それから、スクルとかは魔力操作の練習と並行して魔法の発動について座学をしてもらってるんだけど、クロスタだけいいタイミングがなくてまだなんだ」

「ふーん、それで?」(ガラクが何かいい案を考えてくれてるんでしょ?の意)

「できるだけ早いうちにテキスト化したいとは思ってるけど、色々と忙しくて・・・」

「スクラちゃんはいつお勉強を?」(スクラちゃんと一緒なら効率もいいのではないかしら?の意)

 今までスクラの魔法の発動に関する座学は魔力操作の後に勉強していたが、クロスタが来るようになったここ数日はタイミングが合わずにできていない。

 スクラの魔力操作の練習はかなり進んでいるから、そろそろガラクの監視下であれば自分で魔法陣を発動させてもいい頃合いかもしれない。

「クロスタと僕がご飯食べている間にスクラに魔力操作の練習をしてもらって、その後2人一緒に勉強してから送るならできるかな?」

「じゃぁ、今日からそれで」(ガラクと一緒にご飯が食べられて、スクラちゃんとお勉強だなんて、とっても楽しそうじゃない!の意)

 クロスタの一言で今日の魔力操作の練習後、夕食から魔法発動の座学をすることとなった。

 帰宅して昨日と同じようにガラクが収納魔法にビークルモドキを格納するのをクロスタが横で眺めた後に玄関から入っていくと、スクラは昨日のように出迎えはしなかったもののリビングでお茶の準備をして待っていた。

 スクラと今日から魔法発動の座学をクロスタも一緒にする話をしたところ、何やらよからぬことを思いついた時の顔をしてクロスタに歩み寄った。

「お兄ちゃん、ちょっと内緒話するから5分だけ部屋に行ってて」

 有無も言わさずに物理的に自室に押し込まれ、終わったら声をかけるからと言いながら部屋の扉を閉められてしまいったガラクは何が何だかよくわからないまま呆然と部屋で立ち尽くしてしまった。

 10分を少し超えた頃、声がかかったのでリビングに戻ると少し顔が赤くなってるクロスタを横目に

「魔法発動のお勉強はスクラがわかるところはお兄ちゃんが帰ってくるまでの間に一緒にやっとくから。公休日あけからクロスタちゃんは学校が終わったら直接うちに来ることになったからまっすぐ帰ってきてね」

 と一気に捲し立てられた。

 教材であるタブレットはどうするのかと聞いたら、口頭でお話ししながらやるから大丈夫、ガラクが帰宅したら何について話をしたか報告するという徹底ぶりだ。

 スクラが色々とやってみることは良いことだと思うので、後からクロスタに話を聞けば良いと思い、その勉強方法でクロスタの魔法発動に関する勉強が少しでも捗るならと許可を出した。

 その後、魔力操作の練習、ガラクとクロスタの食事、2人の魔法発動の勉強まで完了させ、クロスタを自宅に送り届けた後、ビックマンビルに向かいながら何もなければ当面は今日の動きが仕事の後の基本になりそうだなと思いながら作業部屋に入り、箱の魔法を発動した状態で朝まで金属形成の魔法の詠唱を練習して過ごした。

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