025 _ガラクと魔力操作魔力操作(その3)

 ヴィークルモドキで自宅に向かう道すがら、クロスタからはさっきは話に出なかったが、一昨日の副社長室で出た分社屋を作る話は副社長に話をしたこと、ガラクからはパリスにも魔法を教えることにしたことをお互いに報告した。

 分社屋の話はこれから副社長と詳細な話をして説得するが、魔法について説明せずにそんなことは可能なのかとガラクが確認したが、そこはどうとでもなるという頼もしいと言っていいのか曖昧と言っていいのか判断に迷う回答が返って来た。

 パリスについては、最初、クロスタは誰の事かわかっていなかったが、ヴィークルモドキを最初に見せた時に一緒にいたネズミの獣相の少年の話をすると「あぁ・・・?」と曖昧な返事を返してきたが、パリスに魔法を教えることについては特段問題にしていないようだった。

 そんな話をしているうちに自宅に着いて、ヴィークルモドキを収納魔法に格納している間に家に入るように促してから魔法の詠唱を開始した。

 クロスタは家の玄関には向かわず、魔法の詠唱からヴィークルモドキ格納完了までを興味深げにガラクの横で見ており、格納が完了したガラクは隣にいるクロスタをに気がついてともに自宅に入った。

 2人が家に入ると、昨日同様にスクラが待ち構えていたものの、昨日と違いかなりしょげた態度で入ってくるなりクロスタに余計なこと言ってごめんなさいと謝り始めた。

 昨日のことはガラクもクロスタも自分が悪いと思っており、3人がお互いに責任の所在を奪い合うと言う奇妙な状況ではあるが、結局のところは実際に倒れたクロスタがスクラは全く悪く無いからもう謝らなくても大丈夫だと言い聞かせることによって治った。

 魔法陣についてはクロスタが倒れたゴタゴタのおかげと言っていいのか、前日に設置したリビングのスペースはそのままになっていたため収納魔法から出して設置した。

 スクラに自信の夕飯の準備のついでに魔力操作の合間の休憩でクロスタが水分補給をするための飲料ボトルを何本か用意しておくよう指示をしたところ、スクラから嗜好品で滅多に飲まないお茶を入れる準備をしてあるとの回答があった。

 叔母が生きていた頃は、叔母自身が自宅に仕事を持ち帰った際に集中するためする時や休日の午後に出かける予定が無い時などに少しずつ消費していた。

 だが、2人で生活しているとわざわざお茶を入れる余裕もなく時間がすぎてしまい、叔母が亡くなってからほとんど減っていないお茶用のリキッドボトルをクロスタのためにわざわざ準備しておいたようだ。

 おそらくだがクロスタに対する謝罪の意味も込めてもてなしてあげたかったのだろうと考えたガラクはお湯を沸かす時は気をつけるようにという注意に、ありがとうと付け加えて後を任せた。

 ガラクからクロスタに声をかけて魔法陣の所定の位置に座るよう促しながら、昨日のようなことにならないように当面の間の魔力操作の練習の回数は1日に3回、合間に休憩を挟みながら行うことを説明した。

「そうしてちょうだい」(迷惑をかけたく無いからガラクの指示通りにするわ。の意)

 と、特段の反論もなかったため、本日最初になる魔力操作の練習を開始した。

 練習の合間にはスクラが準備してくれたお茶にスクラの普段のおやつ(少し甘味のある補食用のスナック)を綺麗にお皿に並べたものをお茶菓子としてつまみながら3人で談笑しながら過ごして魔力操作の練習を終了した。

 休憩の際に確認できていなかった最初に覚えたい魔法についてクロスタに聞いたところ、即答で自分でもヴィークルモドキを動かしてみたいから移動魔法が覚えたいとの回答が返ってきた。

 練習終了後、ガラクはスクラを送ってから食事にすると遅い時間になってしまうので一緒に食べてから帰らないかと誘ったところ

「女性を食事に誘うなら先に予定を押さえておくものよ。今日は遠慮するわ」(母親に外食すると断っていないからおそらく自宅に準備されてしまってると思うから、今日は残念だけどいただけないわ。明日は是非一緒に食べたいわ。の意)

 と回答されたため、スクラにビークルモドキの中でつまめる携帯食をいくつかカバンに詰めてもらい、それをつまみながらクロスタを自宅まで送り届けるべくヴィークルモドキを準備しクロスタに乗るよう促した。

 送る道すがら、ふと、ビッグマンビルの作業部屋に設置する作業台や工作机や椅子、有線型の金属加工用の工具類などを購入しに行く必要を思いだしたガラクは、クロスタに

「今度の公休日に家具とか工具をあつかあってる大型商店に買い物に行こうかと思ってるんだけど・・・」

「ガラクだけじゃ心配だから一緒に行ってあげるわ」(公休日にガラクと一緒に大型商店で過ごせるだなんて素敵!どんなものが必要か私も考えておくから絶対迎えに来てね!の意)

来る気満々で被せ気味の回答が返って来た。

「1人にはできないからスクラが一緒・・・」

「当たり前でしょ」(本当にいつもスクラちゃんのこと心配して良いお兄ちゃんよね。の意)

「あと、できればパリスも・・・」

 パリスも来るのことについては若干お気に召さ無かったクロスタだが、多少表情が曇らせつつも否定するほどでは無く、ここでガラクの友達を拒否するのはあまり得策では無いと素早く判断し直して無言で頷いた。

 クロスタの自宅前に到着して玄関まで送ったが、その際に出迎えた社長のガベガバが物欲しそうな目でヴィークルモドキを見たり、ガラクをちょっと憎々しげな目で見ていたりしてきたが、何か聞かれた時に回答できないことも多いので気が付かなかったふりをすることにした。

 一緒に迎えに出てきた副社長はガラクに対してにこやかに笑いかけながら、

「あなたの家で何をしているかは聞かないようクロスタが言っているからそうするけど、お世話になっているみたいだし、仕事の話もあるからそのうちスクラと2人で夕飯を食べに来なさい」

 と誘われ、特段断る理由もなかったのでその際はクロスタに話をしますのでお世話になりますと回答してから帰路に着いた。


 昨日はスクラの魔力操作の練習をしなかったため今日は帰宅後にリビングに設置したままになっている魔法陣でそのまま魔力操作の練習を開始した。

 魔力操作は最終的には日常的に魔力操作の練習が必要ないレベルで習熟するところを目指すものの、スクラの魔力操作は本人のやる気も相まってもうしばらく練習すれば並行して魔法発動の練習を開始できる程度に習熟してきていた。

 一番最初に魔法を教え始めていることに加え、魔法の詠唱については魔法陣作成の作業をしているときに並行して開始させているため、魔法の発動の練習を開始した後の進捗はかなりスムーズだろうと考えられたものの、問題は魔法の練習をする場所だろう。

 スクラが最初に覚える予定の耐熱の魔法やパリスが覚えたいと言っていた存在感を消すような魔法のように魔法の影響範囲が発動者本人であれば周りへの影響などはあまり考えなくて良いものの、クロスタの希望である移動魔法については魔法の発動に加えて移動の操作の練習が必要になる。

 クロスタの魔力操作がそこまで習熟するのはしばらく先の話とはいえ今から場所の確保をしておく必要があると考えたものの、他者から見られない場所を検討しようとしたところビッグマンの作業部屋でガラクが魔法陣作成の作業をしている横で練習してもらえればいいだろうという案に思い至った。

 今日の分の練習が完了しスクラを就寝させるために部屋へ戻るように促した際、さっきクロスタを送っていくときに次の公休日にみんなで大型商店に買い物に行くこと、ガラクが考えていたより魔力操作の練習が進捗しているのでこのまま頑張って魔力操作の練習をすればあと10日くらいで魔法の練習に入れそうだということを告げた。

 スクラは喜びの奇声を上げながらガラクを抱きしめたかと思うと、お兄ちゃん大好き!と大きな声で告げながら自室に戻って行った。


 スクラを就寝させた後、今後のゴーレム作成に関する研究をするための準備をするべくビッグマンビルに向かった。

 作業部屋で収納魔法から箱を取り出して魔法を発動させた後、同様に廃棄物に混ざっていた古びた安楽椅子とテーブル取り出して床に置き、そこに座り込みながらタブレットを手に取って操作を開始した。

 まず最初に考えなければいけないのはゴーレムを形成するための素材だ。

 タブレットにはいろいろな種類の素材から作るゴーレムに関する詠唱と魔法陣がデータとして存在しているが、その中で詠唱が簡単なのはマッドゴーレム、魔法陣が簡単なのはウッドゴーレムとなるが、それらの素材は両方ともこの衛星においては非常に貴重なものだ。

 泥を素材とするマッドゴーレムだが、そもそも泥とは主に土と水の混合物のことをさすが、そもそも水が貴重なこの衛星でこのゴーレムを作るメリットはほぼない。

 同様に樹木がほぼ自生していないこの衛星において、本物の木材というのは水よりさらに手に入りにくい素材と言っていい。

 こんな貴重な素材でなぜゴーレムと一瞬疑問に思ったものの、タブレットの作成者であると思われる牙神はこの衛星の出身でもなく、この魔法が問題なく使用できる環境だったのかもしれないと思い至り、そんな環境で生活していたであろう牙神が少し羨ましくなった。

 この居住区にいて最も安価に手に入る素材といえばコンテナに使用されている金属のほか、セラミックなども廃棄物の中を漁れば比較的簡単かつ大量に手に入る。

 それらの材料でゴーレムを作ろうと思えば、使用する魔法はアイアンゴーレムかストーンゴーレムが選択肢として浮上してくる。

 タブレットの検索結果には、複合素材でゴーレム作成の方法やそれにより各素材のメリットを最大限に活かす方法などの記載があり、その内容によると既存の魔法を応用して新たな魔法を作成することも可能なようだ。

 それらは今後挑戦したいとは思うものの、現状としてはその前段階である力仕事をサポートさせるためのゴーレムを作る必要がある。

 今回はこれまでの魔法陣は鉄板に刻印してきて若干とはいえノウハウがある上に、工具や魔法があれば比較的加工が容易な金属を使用したアイアンゴーレムを作成することにした。

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