024_ガラクと考察(その2)

 自宅に帰ると、涙目になったスクラがガラクの帰宅を待ち構えていた。

 グスグスとベソをカキながら聞き取りづらい話を要約すると、どうもガラクが魔法陣の準備をしている間にスクラがクロスタに余計なことを言ったのが今回の原因だが、何を話したかは秘密にしなければならないらしい。

 結局、内容がよくわからないが10歳の女の子に言われたことが原因でクロスタが判断を誤るともあまり思えないが、当面、目の前のスクラにはクロスタのお母さんが大丈夫と言っていたと宥めるしかなかった。

 ある程度泣き止んだところで、最近は魔力が休眠状態に移行する率もかなり減ってきているし、たまには魔力操作の練習は無しにしてゆっくり疲れをとるように説得してから自室に戻るよう促した。

 スクラが部屋に戻ったのを見届けて、ガラク本人は遅くなってしまった夕食の準備をしながら今回のことについて考えを巡らせていた。

 食事をとりながら今回起こったことについて反省点を考察してみることにする。


<ガラクの思考>

 多分、今回のことはまだ魔力が休眠状態のクロスタに対して、魔力操作を覚えるための魔法陣を連続して使用したことが最大の原因だと思う。

 実際にスクラは最近は魔力操作の練習をしてもそれほど疲労しなくなってきたから、慣れも大事なんじゃないだろうか。

 そういう意味で、偶然とは言えチップのデータとしてインストールされている自分はかなり恵まれている。

 今後、誰かに魔力操作を覚えてもらうときは、今回のことを教訓にどんなに体力がある人でも初日は3回までにして、以降は一回終わるごとにちゃんと体の具合を確認しながらやることにしよう。

 クロスタには魔法の話をしたけど、次に魔法のことを話すなら今一番仲が良いパリスかな?

 作業場所の確保とかで世話になってるお礼もしたいし、パリスとヴィークルモドキに乗ってどっかに遊びに行くのも楽しそうだけど、その度に魔法を隠れて発動するのも面倒だもんね。

 仕事で資源を魔法収納から出すたびに隠れるのも手間だし、今後は2人分を魔法収納から出して、仕事時間中にパリスにも魔法操作の練習をしてもらえば効率良いんじゃないかな?

 なんか良い考えな気がしてきたから、明日早速パリスに話をしよう!

 ・・・でも、クロスタは何故あんなに動けなくなるほど疲労するまで言い出さなかったんだろう・・・?

<ガラクの思考終了>


 食事を終えたガラクは、諸々の考え事も一旦終了とした。

 クロスタを送った後に副社長がクロスタからガラクに連絡を入れさせると言っていたが、就学しているクロスタの方が朝は早いと考え、先ほどのバタバタで自身も疲労を感じており、スクラにゆっくり休んで疲労をとるよう促したことも相まって本人も早めに就寝することにした。

 

 翌朝、朝早くにクロスタから来た連絡は口調が普段と違い、学校に通い始めて初めって出会った頃のような素直な物言いになっていたことがちょっと気になたガラクだが、基本的にはお互いに謝罪しあって今日もR/R社からヴィークルモドキでガラクの家に魔力操作をしにくる約束をして朝の連絡を終了した。

 起きてきたスクラもゆっくり休んだのが良かったのか前日のように落ち込んでいることもなく、クロスタちゃんからの連絡はどうだったなどと軽口を叩きながら学校に登校して行き、ガラク自身は昨夜の考察に基づいて魔力操作を覚えるための魔法陣を収納魔法で格納してから出勤した。

 いつも通りパリスと合流し、移動用のヴィークルがシーカーポイントに到着してそれぞれにポイント内に散っていくのを見計らってから、昨夜の考えに基づいてパリスに話を持ちかけることにした。

「パリス、大事な話があるんだ。いつも渡してる資源の話にも関係する秘密の話なんだけど」

 そう言って話を切り出すと、パリスは急に真剣な面持ちになり、ババっと周りを見まわしたかと思うと

「兄貴、人がいないのはこっちの方向っす」

 と言ってガラクの前を歩き出し、それなりの距離を移動したかと思うと、近くにあった周りを注視しながら廃棄コンテナの一つを開けて中に入った。

「最近、兄貴の収穫が安定しているのを訝しんでる奴らがいるっす。重大な話をするときは周りに気をつけてほしいっす」

 そう言った不穏な気配には比較的敏感なガラクだが、パリスが言い出すまで全く気が付いていなかった。

 パリス曰く、パリス同様におこぼれに預かりたいと考えている輩が様子を窺っている程度でまだ不穏な動きを始めるに至っているわけではないが、いくつかのグループがこちらの様子をチラチラと気にしているのが気になるとのこと。

「シーカーは体格的には小さい奴が多いっすが、中には気の荒いのもいるんで気をつけるに越したことはないっす」

 より体の小さなパリスはそう言った気配に人一倍敏感に生きてきたことを思わせる出来事で、ガラクは少なからず衝撃を受けた。

 直後、何事もなかったかのようにパリスは話を促してきたため、少し戸惑いつつも、今までの2人にしたように魔法について説明を終えた。

「で、俺にも魔法を教えてもらえるってことで良いっすかね?」

 ガラクが頷いて肯定すると、嬉しいようなそれでいてちょっと渋いような表情を浮かべた。

「兄貴、ちょっと警戒心が足りないと思うっす。俺がこの話を誰かにしたらどうするんすか?」

 そう問われてガラクは考えるいとまもなくこう答えた。

「でも、そんなことしないだろ?」

 この衛星の中で生きていくにあたって情報や技術の重要性は非常に高く、貴重な情報は秘匿するか独占するのが当たり前の中、こうもあっさりと話をしてしまって良いものかと悩むパリスに対し、ガラクは重ねて言った。

「話は3人にしかしてないしみんな信用できる人だと思うよ。それに最終的には魔法陣を持ってる僕が協力しなければ魔法は習得できないんだし」

「でも、それを強要してくる輩もいるかもしれないっすよ」

「そしたらね。魔法を使って逃げれば良いんだよ。魔法をちゃんと使えれば、多分居住くに住んでる必要さえないはずだ」

 それは、全ての生命活動を居住区に依存している住人にはなかなか辿り着けない回答だったが、崩落事故からの脱出に要した体感3ヶ月の時間はガラクに居住区に頼らない生き方を指し示していた。

「まぁ、学校は必要だし食事は居住区の方が絶対に美味いからお金は稼がないとね」

 と、その程度の認識なのである。


 話をした後、そういえばクロスタには聞かなかったなと思いながら、パリスにもし魔法が使えたらどんな魔法が使いたいかというガラクの問いに対して、パリスは色々と質問を重ねていく。

 最終な結論として、荒事の際などに相手に気がつかれずに逃げ出せるように存在感を薄めたり自分がいないように資格を混乱させるような魔法が良いということになり、次回までにタブレットの中からいくつか候補を絞っておく約束をした。

 話が盛り上がったからかランチ休憩も目前となっていたので、一度コンテナから出て昼食をとった後、周りを警戒しながら相談をしていたコンテナ内に戻った。

 コンテナ内の廃棄物をガラクが収納魔法に格納して場所を確保してから魔力操作を開始するにあたり、昨夜のことを教訓にパリスにとって初めての魔力操作の練習となる今回は1回ごとに十分な休憩を必ず挟んで3回で終了した。

 ちなみに、パリスはガラクよりも小柄なため頭頂部を触るために台は必要なかったことを念の為に追記しておく。

 その後は、もう収納魔法を隠す必要もなくなったので、コンテナ内で2人のポーチにそれぞれ収穫物を詰めてから移動用ヴィークルに戻ってきた。

 帰りのヴィークルで、昨日見せたヴィークルモドキも魔法で動かしているから燃料費などはかからないので今度乗ってみないかと誘ってみた。

 パリスはヴィークルモドキには興味があったらしく乗せてもらうのは嬉しいとの回答をした上で、クロスタやスクラも誘ってみてはどうかとの提案をきき、それは良いと楽しい気分になってきたガラクは今からどこに遊びに行こうかと頭を巡らせ始めた。


 会社の敷地に戻ると、ちょうど社屋に入ろうとしているクロスタを移動用ヴィークルから見つけたパリスが、資源の受け取り窓口には自分が出しておくのでそちらに向かってくれとの提案に対し、悪いなと思いつつもクロスタを待たせるのもどうかと思ったので自分のポーチを謝罪と共にパリスに渡してガラクは社屋に向かった。

 急いで副社長室に向かって秘書さんに声をかけると、そのまま副社長室に入室するよう指示された。

 中に入ると最近見慣れてきてしまった安楽椅子で仕事の連絡をしている副社長と、その横で手持ち無沙汰で座っているクロスタがいた。

 開いた扉に気がついてガラクに所在なさげな視線を向けるクロスタに対し、ガラクも申し訳なさげな視線を返して気まずい雰囲気が流れかけたところで副社長の連絡が終わり話を切り出した。

「ガラクくん、昨日はわざわざ送り届けてくれて感謝するわ」

 対してこちらの不注意でと言い募ろうとするガラクを手で制して言葉を続ける。

「詳しい話は省くけど、聞く限りクロスタの判断ミスと判断したからそれ以上謝らなくていいわ」

 副社長にそう言われてしまうとそれ以上何も言えない。

「その上で、今後もクロスタをよろしくお願いするわ。ところで・・・」

 この話題はここまでなのか話題を変えてきた。

「昨日のヴィークル、かっこよかったわね。どうしたの?」

 どうしたのとは、この場合はどうやって手に入れたのかと言うことだろう。

 ガラクがどう回答したものかと思案していると、クロスタが横から母親を突いてちょっと怒ったような表情を向けていた。

「まぁいいわ。今度聞かせてもらうことにして、今日もクロスタをよろしくね」

 そう言って最後に念を押して話を終わらせると、副社長は再び書類に目を落として仕事に専念し始めた。

「じゃぁ行こうか?」

 そう声をかけると、コクっと頷きながら立ち上がったので、2人で副社長室を後にした。

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