022_ガラクとクロスタ(その3)
ビッグマンに到着して受付に向かうと、今日の受付は大きな尻尾が特徴のリスの獣相の女性が佇んでおり、話しかけてガラクの名前とIDを告げると少し口篭りつつも前回どおり受付を通してもらえた。
部屋のキーを解除し、部屋のライトを点灯、入室後に施錠を確認した上で前回出したとおり作業用コンテナと箱を収納魔法から取り出した。
現在使用しているヴィークルモドキの形状は一人乗りを前提に材料を無理やりはりあわせているが、今回は収納魔法に格納されている廃棄されたヴィークルを素体にして複数人搭乗できる形状に仕上げる方向で作業を開始する。
まずは収納魔法の中に格納されている大量の資源の中から、ヴィークル用のキャプテンシートとサイドシート、それからバックシートを作業部屋の何も無いそれぞれいくつか取り出す。
そもそも廃棄物なのでそれなりの使用感があるが、その中でも状態がいいものの中から、比較的座り心地のいいものをいくつか残して収納魔法に格納。
残ったシートの中で比較的色味の合っているネイビーブルーのシートを使用することにして、残りを収納魔法に格納した。
次に収納魔法から損傷の少ないヴィークルの車体を取り出す。
現在の複数人搭乗可能なヴィークルは、経済状況によるが主に居住区内を走行しているのはフロントのみ強化プラスチック制の風防があるオープンタイプが主流となっている。
運転方式はパイロットが自らハンドルを握る手動タイプと目的地の入力によるフルオートメーションタイプが半々。
駆動方式は主に業務用のヴィークルとしてタイヤが7割、レジャー用としてのエア浮遊が2割、残りはそれぞれの用途に合わせた浮遊駆動と言ったところだ。
今回はガラクにイエローチップによる機械工学知識があるとはいえ、加工用の工作機械が整っているわけではないため、形状としてはオープンタイプで運転方式がフルオートメーションのヴィークル、ガラクの移動魔法による駆動であることを誤魔化すために駆動方式は浮遊駆動一択となる。
将来的には魔力結晶の精製に目処が経てば魔法陣を組み込んで魔法の詠唱なしで運転できるヴィークルモドキを作ることを検討してもいいがそれはまた別の話だ。
そういった条件に合致した形状のヴィークルの車体の中から、美しいライトブルーの塗装でアンティークのホロに出てくるヴィークルの形状を模したものを選択した。
その車体にした理由は収納魔法から出した車体の中で一番カッコ良い形だったことと、この色ならヴィークルに乗せることになるスクラやクロスタが喜んでくれそうだと思ったからだ。
このヴィークルモドキを颯爽と運転している自分を想像したガラクのヴォルテージが一気に上がり、いつかこのヴィークルモドキに魔法陣を刻み込んで魔法陣による浮遊駆動式ヴィークル第一号にすると心に誓った。
誓いはひとまず置いておいて、完成したヴィークルモドキは移動魔法を使って動かすことになる。
脱出時に使っていた作業用コンテナほどではないが1人用と違ってそれなりのサイズになるため、できるだけ軽量にする必要がある。
そのため、ヴィークルの中で動かなくなっている駆動装置や先程選んだものに置き換えるボロボロのシートやラグなど、ガラクがヴィークルモドキの中にある不要物を収納魔法に格納する形で取り外して車体のみにしていく。
ただし、ハンドルや計器類の他に、着地時の足の出し入れをする機構やライト等の現状では動かすことができないが将来的に必要となりそうなパーツは外した上で車体の横に並べていく。
次に、周りに出してあったものを一旦全て収納魔法に格納してから、ヴィークルの車体が丁度治るコンテナを取り出してヴィークルをその中に入れ、水魔法で車体全体の汚れを落としていく。
車体専用の洗浄液やスポンジがもあるらしいが、現在手元にはないので食器用洗剤と毛先がボロボロのデッキブラシで代用してすることにした。
手の届く範囲でできるだけ綺麗に汚れを落としていくが、魔法で好きな場所に望んだ水圧で水をかけられるとはいえ、こんな大きなものをまるごと洗うのはなかなかの重労働だといえた。
最終的に洗浄が完了し、汚れた水は水魔法で操作してトイレの排水に流して廃棄した。
洗浄作業でかなり疲労したため、次の作業に備えるため一度仮眠をとることにした。
起床後、仮眠している間に自然乾燥させた車体を取り出す。
次の作業は最初に取り外した車内のラグマットの再設置にした。
廃棄物の中から単色で大きめのサイズのマットを取り出し、元々設置してあったラグマットをその上に置いて光魔法で同じ形状にカットしていく。
このタイプのマットは基本的に火が燃え移って火災が発生しないよう不燃材でできているため、光魔法で焼き切っても特に問題はない。
少し大きめにカットして、実際に車内に置きながらピッタリハマるように微調整をしていく。
この作業に思いの外時間がかかり、間にニ度仮眠を挟んでようやく完成。
最後に、元々シートの設置してあった場所を確認した上で最初に選んだシートを設置する作業を開始。
シートが設置してあった場所には設置用のレールが敷設してあり、レール自体は規格がある程度統一されているため、選んだシートを仮置きしてみる。
元々、ヴィークルの車体が高級嗜好な形状をしているためか縦横に多少の余裕を残つつ綺麗に収まったため、キャプテンシートをハンドルの握りやすい丁度いい場所に微調整して固定し、それを基準に他のシートも併せて固定して見た目はひとまず完成として仮眠を挟む。
最後の作業として、最初に元の場所に戻す予定で取り外した部品類を元の場所に戻し、それらを稼働させるために小さめのエネルギーパックをボンネット付近に設置。
戻したパーツは大まかに分類するとライト類、キャプテンシート用のホロの投影機器類、着地時にの足、ホロに後方の状況を投影するリアカメラなど、ヴィークルを公道で走らせるのに必要な保安部品がメインで、それらをエネルギーパックに接続し、動作確認を行なって完成となった。
後は残った時間でどの程度の強度で移動魔法を発動すればいいかなど、ヴィークルモドキを稼働する練習をしてから完成したヴィークルを収納魔法に格納し、スクラの起床時間に併せられるように時間調整してから帰宅した。
翌朝、昨日作ったヴィークルモドキを早く公道で走らせてみたかったが、それで出勤したら目立ちすぎるのでその気持ちは抑えつつ普段どおり出勤した。
パリスに昨夜準備してくれた場所を使ってとても効率よく作業がすすんだ話をして改めてお礼を言った。
作業現場に向かうヴィークルの中でどんな作業をしたのか興味を持ってくれたので、今日、社長令嬢と約束があるからその時に見せる約束をした。
業務終了後、パリスと話をしながらいつも通り着替えを済ませた流れで2人で副社長室に向かった。
「ガラク、遅かっ・・・誰?」(ガラク、お仕事お疲れ様・・・どちら様?の意)
クロスタの質問に、現場では2人で組んで仕事をしているエッペンパリスハルトマンであること、パリスにはクロスタをR/R社の社長令嬢で元同級生と紹介した。
クロスタ準備してくるので2人で少し待っていてほしいと伝えてその場を後にした。
パリスには作業場所を探すのに骨を折ってもらったし、普段から馬が合うといえばいいのか、すごく仲良くしてくれているので将来的には魔法の話をする予定ではあるが、今すぐ話をして魔力操作から教えることになってしまうと現状よりさらに時間がとれなくなってしまうのが目に見えているため、クロスタが魔力操作に魔方陣を必要としないところまで進んでからと考えている。
ただ、現状では魔法の話をしていないため、収納魔法から直接ヴィークルモドキを取り出す場面を見せるわけにはいかない。
そのため、社屋の裏手の人どおりがほとんどない場所に移動して収納魔法から昨日作ったライトブルーのヴィークルモドキを取り出してキャプテンシートに乗り込み、魔法を発動してビークルモドキを動かして会社の地下駐車場に乗り入れて停止させた。
ヴィークルモドキの保管方法については普段の保管は収納魔法に格納して持ち運ぶ予定だ。
今回のような一時的に駐車するような場合、ヴィークルモドキは駆動させるための機関を全て取り除いてしまっており、魔法が無ければ重機でももってこないと動かせない状態のため、同乗者がヴィークルモドキの中に貴重品を置いて出かける場合以外では何かを盗まれる心配がないため、基本的には施錠を必要としない。
階段をあがり副社長室前で待機していた2人に声をかけて地下の駐車場へ向かかい、新品とはかないがピカピカしたライトブルーのヴィークル(モドキだけど)の前で立ち止まった。
「パリス、これが昨日ビッグマンの作業場所で作ったヴィークルだよ」
パリスは驚愕と羨望がごちゃ混ぜになった何とも言えない表情を浮かべながらガラクに当然といえる質問を投げかけた。
「これ、一人で作ったんすか?」
黙ってうなずきつつ、今度はクロスタにむかって
「今度からこれで送り迎えするね。帰りは直接クロスタの家に送るけど、引っ越しとかしてないよね?」
目をキラキラさせたクロスタは声も出ない状態でウンウンとうなずいている。
「じゃぁ今日は初運転だから、パリスも送って行くから二人とも乗ってよ」
2人にそう声をかけると、クロスタはちょっと微妙な表情になり、その横でパリスがキョロキョロとガラクとクロスタを見比べた後、乗せてもらえるのは嬉しいが今日は残念ながらビッグマンで用事があるので、こんど改めて乗せてほしいと事態を申し出てきた。
「ビッグマンだったら場所もわかるし、乗せていくよ?」
ガラクが言い募ると、途中の駅で何んかと待ち合わせをしていてヴィークルには乗り切れないので、本当に残念だがまたの機会に乗せてほしいと言い、今日はおつかれさまっすと言ってその場を立ち去った。
「パリスを乗せてあげられなくて残念だったな。じゃぁ、僕の家に向かうからヴィークルに乗ってよ」
クロスタに向き直ってそう声をかけると、輝かんばかりの笑顔でクロスタはサイドシートに乗り込むための扉をあけてシートに身を沈めた。
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