020_ガラクとクロスタ(その1)
副社長の宣言通りクロスタが到着するまでの30分の間の副社長は思いの外威圧感等はなく、むしろ近所の親戚のように仕事の調子はどうか、辛くはないか、同居している従姉妹は元気なのかなど、ガラクでも回答しやすい質問をしながら会話を交わしていたた。
そのため、クロスタが執務室の扉を開けて入室してきた頃にはそれなりに打ち解けて楽しく会話ができていた。
ニコニコしながら扉を開けたクロスタの表情は笑顔のまま凍りついたものの、扉が開くのにいち早く気がついた副社長は社交的な離席の者じをのべると、さっさと席を立って扉に向かい、クロスタに何か囁くとそのまま部屋を出て行ってしまった。
「クロスタ久しぶり」
実際、ガラクがクロスタと会話を交わしたのはほぼ1年前にクロスタから副社長にR/R社に従業員として紹介してもらい、その後お礼を言ったのが最後のため1年以上経過している。
「ひっ!?そ、そうね。うちの仕事しててまだ五体満足だなんて運がいいわねっ!」(本当に久しぶり!怪我がないようで本当に安心したわ!の意)
学生の頃から変わらない返しに相変わらず面白い人だなと思いながら、ガラクは早速本題に入ることにした。
「クロスタに話しておきたいことがあるんだ」
「ど、どうしてもって言うなら聞いてあげてもいいわよ」(何かしら?の意)
被せ気味に返ってきたに返事に、なぜかガラクとの会話だけ食い気味なのも1年前と変わっていないなと思いつつ、ふと、魔法なんて側から見れば荒唐無稽な話のどこから説明をしたものか迷って会話が止まってしまった。
「早く話しなさいよ」(どうしたの?の意)
急かされたのでやむを得ず、実際に魔法を使いながら真正面から説明する。
「実は魔法が使えるようになったんだ」
「は?頭大丈夫?」(え?熱でもあるのかしら、ちょっと心配だわ。の意)
「まぁ良いからちょっと見てよ」
そう言うと、詠唱で収納魔法を発動し、中から副社長に換金をお願いした宝飾品と比較すると安物っぽい物を取り出してクロスタに見せた。
「手品の練習をする前にするべきことがあるんじゃないの?」(お仕事で忙しい中、私に手品を見せるために練習してくれたのかしら?嬉しいけど無理したんじゃない?の意)
「あぁ〜、手品ね。確かに」
そう言われてしまうと、確かに取り出した宝飾品は宝石がいくつか付いた指輪だからポケットに入るサイズでそれほど複雑な形状をしている
「とりあえず、この指輪は壊れてないからクロスタにあげるね。じゃぁこっちの魔法はどうかな?」
手元を開けるのにもう一度収納魔法を発動する手間を惜しんだガラクは、お礼の一環と考えればいいかなと軽く考えてハイっと指輪をクロスタに手渡し、手が空いたので移動魔法を詠唱をしてクロスタに向けて発動した。
クロスタ本人は気にしているが社長と副社長の娘だけありとかなり大柄な体格のため、何故かと問われた時に理由を回答するのに窮するがスピードや方向転換の調整がガラクが自分をに魔法を発動して移動するより遥かに容易だった。
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
突然、ガラクから指輪を手渡されたことと、自分の体が宙を浮いてこの部屋の執務机の方に移動を開始したことに混乱し、声にならない声を発しながら副社長の椅子にポスっと収まった。
「どっどどっどうやったの!?」
「どうって魔法だよ。信じてくれた?」
そう言った瞬間、執務室の扉が音を立てて開いて副社長が飛び込んできた。
「今の悲鳴は何っ!?何したのっ!」
飛び込んできた副社長を見てガラクは脂汗と共に凍りつき、クロスタは自分が上げた悲鳴がなかったことにならないかと口を両手で抑えた。
「もう年頃なんだからお互いの同意があるなら文句はいわないわ。でも、場所はわきまえなさい」
そう言って副社長が退室した後、残された二人は方や脂汗が止まらず扉の方を向いたまま固まり、方や顔を真っ赤に染めて同室の相手を凝視しながら固まってしまっていた。
「どどど同意って、ままママままはナナナナ何をいいいっちゃてるのかしら!?」
「ママ?」
クロスタの口からは聞きなれないママと言う単語に思わず反応した理由は、以前ガラクがまだ学校に通っていた頃の会話では確かお母様と呼んでいたことを記憶していたからだ。
ガラクの反応にハッとしたクロスタは自分の口元にあった手で再度自分の口を押さえた後、10秒ほどで口から手を離して、まだ少し頬が赤らんでいるがお澄まし顔てこう言った。
「全く、お母様ったら悪ふざけもいい加減にしてほしいわっ!」(ガラクの前で余計なこと言われたら恥ずかしいじゃない!の意)
いつものペースを取り戻したクロスタに釣られ、ガラクも緊張していた状態からホッとため息をつき体から力が抜けた。
母親の呼称に気を取られてクロスタが慌ててる理由に辿り着けていないガラクを見て、今まで通りの日常が一気に戻ってきた気がしてクロスタは改めてガラクに問うことにした。
「それで?さっき私が浮かんでいたのはどうやったのよ?」(何の準備も無しに空中浮遊の手品なんてすごい技術ね。の意)
「いや、だから魔法だよ。使えるようになったんだ」
どうしたら信じてもらえるのかと頭を悩ませ結果、もっと簡単で資格的にもわかりやすい光魔法を見せてみることにした。
照明魔法の詠唱により部屋の照明よりかなり照度を落として蓄光灯より少し明るい程度の青の淡い光を放つ光の玉を手元に作り出すと、応接セットと執務机の間にガラクの顔と同じくらいの高さまで移動させて固定した。
「これは光の魔法だよ。近づいてよく見てみて?」
その光の玉を目玉が溢れるかと思うほど目を見開いて凝視しているクロスタにそう呼びかけると、クロスタは一回目を強く瞑ってから執務机の椅子を蹴倒さんばかりの勢いで立ち上がり、ツカツカと光のたまに歩み寄った。
そして顔が触れんばかりの距離でまじまじと光の玉を凝視し、周りを歩き回りながらさまざまな角度から観察をし始めた。
「危険はないから触ってみて」
この照明魔法は光の攻撃魔法と違って熱は伴わない上に、詠唱に込めた魔力自体が発光しているため、手で光に触れても危険はないことは本人が確認済みだ。
その言葉にチラリとガラクに視線を向けた後、おもむろに光に手を伸ばす。
が、クロスタの手は光を素通りしてしまう。
掴もうが叩こうが掬ってみようが何をやっても同じ結果にクロスタはだんだんムキになり、終いには執務机の上にあったバインダーを手に何度も光の玉の上を空振りして、ようやく触れないという現実に納得が行ったようだ。
「で?どうなってんのこれは?私をバカにしにきたの?」(どう言う原理なの?教えてくれるんでしょ?の意)
「クロスタにこれまでの経緯を説明する。その後に相談と提案があるんだ」
そう言うと、以前スクラにしたように廃棄物の崩落事故から順番に説明を開始した。
クロスタはスクラと同じように崩落事故の部分で顔を青くしながらママに聞いてないよと呟いたり、脱出にかかった体感時間で青くなっている顔をさらに白に近づけたりかと思えば、スクラが魔法の練習を開始したあたりで私より先にスクラならしょうがないかと頬をふくらませ、魔法を教える準備がある程度整ってスクラが練習を開始した件で目をキラキラとさせ始めた。
「で、相談って言うのは、脱出してくる家庭で収納魔法に蓄えた大量の資材類の換金方法なんだ。基本的にはR/R社におろしたいんだけど運搬方法とか怪しまれちゃうからどうしたらいいのかなって」
そう言われたクロスタは急に真剣な表情になったかと思うと、応接セットの長椅子にドカリと座って顎に手を当てながら思案し始め、その様子を昔から変わらないなと思いながら結論が出るまで待つことにした。
しばらくそうしていたクロスタは、ガラクに向き直ると開口一番こういった。
「お母様も巻き込んじゃいましょうか」
「え?大丈夫かな」
「ちょっとした貸しができたからそっちの話は私に任せておきなさい」(ガラクが危険な目にあってたことを私に黙ってたなんて許さない。めちゃくちゃこき使ってあげるんだから!の意)
クロスタによる金策の基本方針としては概ね次の内容となった。
① ガラクは現状のままR/R社に従業員として所属する。
② R/R社の分社屋を広めの土地にプレハブ程度で良いので準備させる。
③ ガラクは納品は分社の敷地に仕分けした状態で定期的に置きにくる。期間はお母様と相談。
④ 本社の業務として回収させる。
⑤ 納品した資源などをガラクの給与に歩合として積算。
「このやり方なら資源の量さえ確保できれば十分な利益をあげられるはずよ。基本方針で穴のある部分についてはお母様に考えてもらいましょ」(お母様はそういうの得意なんだからガンガンこき使ってやるんだから!の意)
「本当にそれで大丈夫かな?」
過去にガラクがクロスタに色々と相談してきた結果として基本的にはその時の問題が解決する割合が多いため、基本的には異を唱えるつもりはないが確認せずにはいられないのは生来の性格によるものなので仕方ないし、そのあたりはクロスタも承知しているから問題はない。
「場合によってはあなたが魔法を使える話はするから承知しておいて」
何故と問う眼差しを向けるガラクに対しクロスタは明確な答えを持っていた。
「ガラクが私に魔法を教えることは我が家全体にとっても大きな借りだから、それを理由にできる限りの便宜を計らせるわ。それにこれだけ特殊な技術は秘匿すべきだって解らないお母様じゃないわ」
そう言うとガラクの方向を向いて佇まいを直すと、真剣な表情でガラクに話しかけた。
「私に魔法の話と魔法自体を教えてくれる決断をしてくれたこと、本当に感謝してもし足りないわ。お金のことについては絶対にガラクにとって都合の悪いようにはしないしさせない。安心してちょうだい」
そう言ってクロスタはギラリと光る肉食獣特有の獲物を狙う眼差しを浮かべ、唇の橋をグッと引き上げて犬歯を顕にしてギタリと笑った。
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