019_ガラクと金策(その1)

 魔法に関することに時間を割こうと言う考えに辿り着いたが、現状としては魔法の解析や研究に伴う魔法陣の作成の他、スクラに魔法を教えて生活環境の改善することがメインになる。

 それらに時間を割こうと思い至ったはいいものの、現実として最大の障壁が収入の問題だ。

 先日、副社長に相談したアンティークについてはまだ差額の算定が完了したとの連絡は来ていないが、一度、副社長のところへ状況の確認をしに行くべきだろう。

 それに加えてそれ以上にまとまった金銭を得る方法がある。

 脱出時に入手した大量の廃棄物の中から換金資源と通常資源をまとめてR/R社に卸すこと、2個のレッドチップと大量のイエローチップやその他のアンティーク類の売り払いでかなりの金額が稼げるだろう。

 その後は定期的に廃棄物が堆積している地域へ向かって収納魔法に廃棄物を収納しにいけば生活に困ることはないだろうが、その方法は大量な資源の運搬に収納魔法を使用することなるため、魔法のことを誰にも話さないままでは実行できない方法でもある。

 高額換金ができるものを全て何らかの方法で現金に変えてから、それを元手にR/R社のような会社を立ち上げることも可能だとは思うが、その手段を選択するには知識も経験も少なすぎるし、独立してしまうと会社側が負担してくれている納税などの手続きに煩わせられることになってしまい時間を作るための金策を考えているのに本末転倒となるので、本来であればその方法が一番堅実なのだろうがガラクの現状には則しておらず実施するのはあまり現実的ではないと考えられる。

 後は各種チップだが、イエローチップは今まで通りR/R社に卸せば問題ないし、レッドチップの売却先については今日できたばかりの繋がりだが、この衛星の富裕層であるビッグマンの代表者であるロードにお礼の意味も込めて通常より安価での買取の話をすれば如何様にも取り計らってもらえると考えられる。

 そこまで考えてからふと、R/R社の社長令嬢であるクロスタにならどこかのタイミングで魔法の話をしてもいいと考えていたことを思い出した。

 収納魔法の中の資源は魔法を隠したまま処理し切れる量では無いが、仕事を紹介してくれたクロスタにお礼の意味も込めて魔法の話をした上でR/R社とのやりとりについての方針も相談したら良い意見が聞けるかもしれないと漠然と思った。

 当初の目的だった今日すべき設備の点検と作業用コンテナの設置感の確認は出来、ゴーレムの魔法陣についても急ぎではないので今日のところは片付けて撤収することにした。

 収納魔法から部屋に取り出した物品については持ち込んだ方法を問われても回答できないし、そのまま置いておいて知らない人に触られた時、どんな問題が発生するのか想像もつかないため、魔法に関連するものは作業終了時に全て格納してから帰宅することにした。

 ただし、おそらく余程の金額でない限りお金に困る状況は無い状況の中、準備してもらった部屋に何も置いてないのはビッグマンの人達に疑念を持たれる恐れがある。

 現在は作業用コンテナ内でもただの箱を作業台にしているが、お金で解決する不便は疑念を持たれる可能性とともに解消するため、今度の公休日に作業台や椅子等を購入してビッグマンの施設に搬入・設置も含めてお願いするため、まずはそう言った商品の取り扱いを行っている商店を探すとこを今後の予定に追加し、部屋を施錠してから帰宅した。

 

 翌日、業務終了まで普段通りこなし、着替えた後に副社長室に向かった。

 入り口にいた秘書さん、今日はスラットした鹿の獣相の男性に声をかけると、在室しているが来客中のためしばらく待つようにと指示された。

 秘書さんが指差した先に簡易な折畳椅子がいくつかおいてあったので、それを出して自分で座れと言うことなのだろうと判断しそれを手にして椅子を開こうとしたものの、置ける場所が秘書さんの正面しか無いため微妙に落ち着かないもののやむを得ずそのまま腰を下ろした。

 雑談もできない緊張感の中体感で30分ほど待っていると、副社長室の扉が開いて中から恰幅の良いラクダの獣相の年配の男性が機嫌良さげに出てきて「今後ともよろしく頼むよ」と言いながら去っていった。

 秘書さんのスペースの扉が閉まるとそれと入れ替わるように秘書が副社長室の扉を開けた。

 恐らくガラクにとってはかなりタイミングが悪かったようで、中からは女性の、間違いなく副社長の怒声とそれを宥める秘書さんの声が漏れ聞こえており、それから体感で10分ほど経つとそれらの声が聞こえなくなり、少し落魄し若干スーツのヨレた秘書さんが入室の許可を出してくれた。

 恐る恐る部屋に入ると、前回と同様に応接用の高級そうな長椅子に腰を下ろした副社長が、以前より穏やかそうな表情でこちらを見てながら安楽椅子に座るように促してきたので指示通りに着席した。

「この前の宝飾品の差額の件ってことで良いかしら?」

 問われて、か細い声ではいと答えると、副社長は待たせてしまってごめんなさいと言いながら、一度、自分のデスクに戻ってから紙の書類を持って戻ってきた。

「貴方のような若い人が大金を持っていると他人に知られるのはよく無いから、社内のデータには残してないわ」

 と言いながら、書類をテーブルに滑らせてガラクに提示した。

「私個人と社員である貴方との売買として処理してあるから、管理局に収める税も会社側で手続き済みよ。そこに書いてある金額がそのまま貴方の収入だから振り込んだら取引終了。質問は?」

 言われてテーブルの上の書類に目を向けたガラクは見たことない金額になっているのはもちろんのこと、想像より遥かに大きな金額が記載してあり唖然となっていた。

 声も出せずに口をパクパクしているガラクを見た副社長は、経営者と従業員では経済力の格差が想像以上だとは言え、全て副社長が払ってくれたと勘違いしていることに思い至った。

「私が全部買い取ったわけじゃないわ。半分以上は古物の取り扱いが得意な伝手を頼って捌いたのよ」

 それでもかなりの額を副社長が個人資産から支払いを行なっているということにガラクから持ち込んだ話とは言え、ありがたいと思うと共にとても恐縮した気持ちになった。

「し、質問はありません」

「そう。・・・給与の支払い口座に振り込んだわ。他に何かあるかしら?」

 他に何かと言われて、昨夜、クロスタに魔法の話をした上で色々と相談するつもりだったことを思い出した。

「クロスタさんにお話したいことがあるのですが、今日はご自宅にいますか?」

「・・・あなたから娘の話が出るなんて珍しいわね。ちょっと都合を聞いてあげるからそこで待ちなさい」

 そういうと、連絡を取るためか執務室の扉から外に出た。

 入れ替わりで先程、疲れ切った様子だった秘書さんがボトルを一本お盆に乗せて入ってきてガラクの前に置き、飲んでくださいと促してきた。

 副社長の部屋に来るのは2度目だが今回もかなり緊張していたらしく、喉がカラカラになっていることに気がついたためお礼を言ってボトルの蓋を開けて中身を喉に流し込んだ。

 ボトルはガラクにとっても見慣れたもので、中身はスッと鼻に抜ける爽やかな香りと僅かな甘みがほんのりとついた飲料で、居住区内のどこでも購入できるごく一般的な飲料ボトルだ。

 水分補給を目的としたもののため金額的には親が子供に持たせる小遣いで問題なく買える程度の金額で、この衛星に生を受けた住民でこの飲料を飲んだことがない者は貧富の格差なくいない。

 だからと言ってこの飲料を客に提供することが失礼に当たるわけではなく、むしろ常に水資源が足りていないこの衛星では贅沢品であるアルコールは別にして、応接の際に提供されれば「貴重な水分を持ってあなたの来客を歓迎します」といった歓待の意を表す物として扱われる。

 この飲料を秘書がわざわざ持ってきてガラクの前に置いた時点で、ガラクは従業員でありながら副社長が応接するべき対象として扱われていることを意味する・・・という社会人としては常識的なビジネスマナーに社会経験の少ないガラクは気がつくことなくありがたく飲料を飲みながら副社長を待っていた。

 それから、緊張しながらチビチビと半分ほど飲料を飲み終えた頃、副社長は執務室に戻ってきた。

「ガラク君、クロスタを呼んだから悪いけどあと30分ほど待っててもらえるかしら」

 思わぬ申し出だったが、その申し出はこのまま副社長室で二人っきりということを意味し、この緊張感の中で精神的に持つだろうかと心配になったが、それを見越した副社長はガラクにこう言った。

「今からは雇用主と従業員じゃなくて、元同級生の母親扱いで良いわ。気を楽にしなさい」

 学生時代にクロスタの母であるセーニケーハ自身は非常に多忙であり普段は自宅にいることはないため直接接点はなかったものの、他の同級生の家に遊びに行った時などに挨拶程度は交わしており、それと同じと言われてみると多少ではあるが緊張感が薄らいだ気がした。

「で、娘に話というのは私も聞いて良いの?それとも席を外しましょうか?」

 話の最大の焦点となる魔法の話は現状、話を聞かせる相手はガラクが信用できると判断した相手のみとしておきたいため、今回については副社長に同席してもらうのはあまり芳しくない。

「クロスタさんが到着したら外へ出ますので、席を外してもらう必要はないかなと・・・」

「娘も久しぶりに会うあなたと話したいことがあると言っていたから、このままこの部屋で話をして、それから出かければ良いわ」

 やんわりと断りを入れたつもりだったが、真っ向からこの部屋で話をするように言われてしまうとそれ以上は断りづらいものだ。

「わかりました。その間、副社長は?」

「仕事の一環だから執務室に居るのよ。これから処理する仕事は場所を選ばないから娘がきたら外してあげる」

 部屋にいるのが仕事の一環というのがよくわからなかったガラクだが、逃げ場が無いことだけは認識した。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る