007_ガラクと帰還
シーカーの仕事は時には生死を伴う事故が発生しうる危険な仕事であるため、全てのシーカーを取りまとめる会社は雇用しているシーカーのバイタルを受信して管理の上、役所に対して年に一度の定期報告が法で定められており、実施していないことが役所にばれると最悪の場合で営業停止処分まであり得るため、R/R社も法令を遵守してバイタルチェックを行なっている。
シーカーポイントで崩落が発生し、雇用している社員が巻き込まれたと考えられる場合、会社は役所は救助は出さないが、会社側にはバイタルのデータが生存・非生存に関わらずバイタルデータの常時監視が法令で義務付けられている。
バイタルデータが非生存を示しているか生存限界である3日で比較して、どちらか長い方の期間が経過した段階で雇用主である会社、この場合はR/R社から役所に対して速やかに死亡届を提出することとなっている。
バイタルチェッカー破損の可能性などもありこの死亡届は仮のもので、本人が生存していれば取り消すこともできるが、その手の行政手続きは本人確認や手続き書類などで非常に時間も手間もかかるためできれば避けたい。
シーカーを取りまとめていてガラクの様な若い者に事務の手伝いをさせないと回らないような会社であるリソース/リペア社が期日どおりに書類を提出するとはあまり思えない。
ただし、社長の非常に吝嗇な性格が悪い方向に積極性を発揮した場合、今回の事故によるガラクの死亡を理由に今月の給与の支払いをしなくて良いという、一般的にははあり得ない方向の判断を下すことにより、すでに書類は準備済みで、事務員を役所に張り付かせて崩落事故が発生した3日後ピッタリの時間に書類提出を行わせる可能性が否定できない。
2日以上放置しているスクラのことも心配ではあるが、バイタルデータの監視を行なっている事務員に生存報告を行って書類の提出を阻止するため、取り急ぎ会社へ向かうことにした。
とは言え、崩落事故が起こったのが仕事を始めて1時間以上経過した時間帯だから、始業時間に会社に着いていれば良い計算なのでリミットまでは数時間ある。
まずはこの3日間(体感300日弱)で詠唱も覚え腕前もかなり上達した移動魔法を発動し、箱をしまわずコンテナごと移動を開始。
この衛星では落下物がいつどこで衛星起動上から落ちて来るかわからないため、基本的には空中の移動手段はほとんど無く、今のガラクにとっては会社まで移動するのであれば今まで廃棄物が堆積した中を進んで来たようにコンテナごと空中を移動してしまうのが安全で手っ取り早く時間の節約にもなる方法であると判断を下し行動を開始。
廃棄物回収を生業としている業社は基本的に現場であるシーカーポイントへの行き来の利便性から居住区と外部を隔てる隔壁を行き来するために設置されているいくつかあるゲートのどれかにアクセスしやすい場所に事務所を構えるのが一般的で、R/R社も例に漏れずゲートからほど近い場所に事務所を構えており、そのゲートは幸い現在いる場所からそれほど遠くない場所にあった。
隔壁はあくまで廃棄物落下による衝撃波等から居住区を守るためにあるもので、今のガラクの移動手段であれば必ずしも通過しなくても会社には辿り着ける。
ただし、隔壁自体は生身で飛び越えることができるような高さではないし、ゲートを通過する際に自動でID承認がされているため、万が一ゲートを通過していない住民が隔壁内にいることがわかると、隔壁に穴が空いている可能性を考慮し、居住区の安全性のためゲートが一時封鎖されることになる。
ガラクが就労している仕事の都合上、それはあまり好ましい状況ではないため、R/R社に最も近いゲートの近くにコンテナを着陸させ、収納にコンテナをしまった。
それにより、脱出行の最初期から発動されていた箱を中心とした効果範囲の内と外で時間の差異が生じる魔法の発動が終了し、ようやくガラクは通常の時間の流れの中に戻ってきた。
コンテナを収納してゲート方向に向かおうとすると居住区から緊急時の警報が鳴り響いており、一気に警戒を高めて今収納したばかりのコンテナを出し直す準備を開始する。
目の前のゲートは閉鎖されており、完全な戒厳体制となっている。
「・・・あれ?」
ゲート閉鎖となる一般的にはかなりの近場に廃棄物の落下が予想されている上で、ゲート外に出ていた人たちの避難は可能な範囲で完了しているという、この場所にいたら次の瞬間には廃棄物が落下してきてもおかしくない、ほぼ確実な死が待っているほど差し迫った状態ということになる。
にもかかわらず、10秒、20秒と経過しても何も発生しない。
「あ!」
通常では考えられないスピードで真っ直ぐゲートに向かって飛行していたコンテナ。
そう、戒厳状態を引き起こしたのは自分が飛ばしていたコンテナだった。
こうなると、居住区のゲートはほぼ全域で閉鎖されていると考えられるため、ゲートが開通して通常どおりゲートを通過して居住区内に入れるようになるのにどれだけ時間がかかるか不明だ。
戒厳状態で役所がどこまで通常営業を行うかもわからないため、急ぎ会社に向かおうと思うと隔壁を飛び越えて直接R/R社に向かうしかない。
ゲート通過は会社への生存報告が完了した後、改めて隔壁を飛び越えて外に出た上で再度入場して誤魔化せばどうにかなると考えることにし、直接ゲートを超える準備を開始した。
廃棄物内を移動している間に移動魔法について色々と検証した結果、ガラク本人が小柄なことも相待って、自分自身に飛行魔法を発動して移動しようとすると調整がかなり難しくなる。
色々と試行錯誤した結果、ある程度の重量物に移動魔法を発動させてそれにガラク自信の体重を追加した方がスピードを一定以下に保つことがで、それにより移動方向などの調整が容易になることが判明している。
廃棄物内からの帰還中に正気を保つための一環として作成していた1人乗りのヴィークルモドキを収納魔法から取り出して目の前に置いた。
それは、回収した廃棄物の中から金属製のパイプや何らかのヴィークルの座席などの材料を光の攻撃魔法で無理やり溶接したもので、サイズ的にはガラクの胸の高さくらい、金属の楕円の板に三本の足が接合したものを土台に、古びてはいるが高級そうな合成革製の座席を備え、前方向には風防として丸みを帯びた透明な強化プラスチックをボルトで無理やり固定、座席の後部に金属の蓋付きの箱を収納として設置した、公園に設置してありそうな子供の遊具、と言うにはかなり無骨な見た目をしたものだった。
早速、座席に乗り込むと念の為に設置した落下防止用の金属をウレタン様のクッション材でカバーしたバーを腰のあたりで固定してから、移動魔法の詠唱を行いヴィークルモドキの土台に向かって発動した。
そのまま隔壁の上端に向けて移動を開始、最高速まで一気にスピードをあげてそのまま隔壁の上部を通過した後、現在位置の確認を行った。
本来、居住区を上から俯瞰で見下ろす視点というのは一般的ではなく、一般の住民であれば立ち入り自由でデートスポットにもなっている隔壁の上を散策して、そのフェンス越しに2〜3回くらい居住区を眺めたことがある程度であり、上空からの視点と実際の土地勘を結びつけられる者なく、それはガラクも同様だった。
ヴィークルモドキの外見はあまり一般的ではないもの、空中にさえ浮いていなければ一応は収納ボックスも備えており、個人で組み立てた珍しい形状の1人乗りヴィークルで通用しそうな範囲には収まっていたため、人通りの少なそうな細道を選んで一旦ヴィークルを地上の高さまで高度を下げ、そこから通常のヴィークルが走行している車道を利用して街中を走行することにした。
車道を走行すること5分、この1年で慣れ親しんだR/R社の社屋が見えてきた。
廃棄物回収業社の社屋は通常、前庭部分に収穫物の荷捌き場、1階はそこで仕分けされた物品を業者ごとに指定された納品日に役所の納品場へ運ぶまでの一時保管場所としての倉庫、2階より上の階が事務所や装備品置き場となっているのが一般的で、R/R社も最低限とは言え荷捌き場と倉庫を備えていた。
ガラクはヴィークルでそのまま敷地内に走り込み、荷捌き場の横を走り抜けて社屋入り口の真横に停止、急いで収納魔法を起動するとヴィークルモドキを収納してそのまま階段を駆け上がり事務所の扉を開き、開口一番叫んだ。
「社員番号0024のガラクです!帰還しました!」
社員のバイタル情報受信機の端末付近にいた事務員がバッとこちらを向いた。
崩落事故後のため事務員が常時監視の業務に就いているとは思っていたが、当番に就いていたのはガラクの予想どおり事務の手伝いをする時に丁寧に仕事を教えてくれる年配の女性事務員、モーラさんだった。
「ガラク君!つい数分前に貴方のバイタル情報が急に復旧して何事かと思ってたけど、無事だったのね!?」
モーラさんはモグラの獣相が発言している女性で、光量の問題から日中の特に野外における就業には支障があるため、夜勤を行なっていることが多く、ガラクが事務仕事の手伝いをする時は大体彼女が日勤を行う時のサポート業務が主だった。
夜勤を率先してこなす事務員は彼女以外におらず、基本的には彼女が担当できない時の夜勤は事務員内で押し付け合いになっているため、崩落事故の様な緊急時は基本的に彼女がバイタルの常時監視の担当となる。
「モーラさん、僕の死亡届はどうなってます?」
質問を質問で返す形になってしまったが、スクラより優先して会社に赴いた理由であるガラクの死亡届について質問すると、
「安心なさい。この会社がそんなこと真面目にやるわけないじゃない。まだ必要書類のダウンロードすらできてないわよ」
間髪入れずに回答があり、ひとまずは胸を撫で下ろしたガラクに対しモーラが
「そういえば年下のご家族がいたわね。社長と総務には私が報告しておいてあげるから、今日はもう帰りなさい」
「いいんですか?」
「貴方が帰還したからもうバイタルの監視も終わるし、そのくらいはしておいてあげるわよ」
事務仕事の手伝いをしながらした雑談の内容を覚えていてくれた年配の事務員らしいモーラに感謝の意を伝え、その言葉に甘えるべく4階にある自分のロッカーに装備品を放り込むと、退社の処理をしてから自宅に向かうべく急いで社屋をでた。
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