006_ガラクと脱出
終了していなかった崩落から生き延びる方法を考えなければならない。
発動されている時間経過の変わる魔法のおかげで考える時間はたっぷりあるものの、それとて無限では無いので結論は早い方が良い。
現状を打破するには魔法に頼る必要があり、チュートリアルによる紹介で効果や使い方がわかっている魔法は回復魔法、攻撃魔法、移動魔法に収納魔法の四種類だ。
新しい魔法を探してもいいが、その都度効果や使い方を確認する必要があり、攻撃魔法の様な危険な魔法を内容もわからずに使用するのは本当の最後の手段として取っておきたい。
まずは、3つの魔法が実際に何ができて何ができないのか検証作業を行うことにした。
コンテナ自体が他の廃棄物とぶつかって中身がシェイクされたらひとたまりも無いので、最初に検証する魔法は収納魔法とし、起動してコンテナ内に残置すると危険な廃棄物を優先的に収納していくことにした。
ガラクのタブレット操作も少し手慣れてきており、【魔法全般】→【収納魔法を検索】→【収納魔法のページ】の順で手早く操作した。
先程チュートリアルでは魔法陣表示をタップしたが、詠唱とはどんなものかわからないので念のため【魔法詠唱表示】をタップすると、記載は標準語なのに意味の通らない文字の羅列の後に【収納魔法を実行】と記載がされており、最後はともかく無意味とも言える文字の羅列を覚える余裕が今は無いと判断、改めて収納魔法の魔法陣が表示されるページを表示した。
魔法陣に左手を添えて収納魔法を起動すると、目につく自分にぶつかったら危険そうな金属製のものや重量物を優先的に収納魔法に入れながら、新たに起動するたびに、一度に入れられる量、同時に黒い円盤をいくつ出せるか、自分からどれだけの距離が離れて黒い円盤を出せるのかなど、考えられる範囲で試行錯誤をしながらコンテナ内を片付けていった。
が、結論としては一度に出せる黒い円盤は一つだったし、コンテナ内に詰まっていた箱以外の廃棄物は全て収納することができたし、円盤より大きくても収納できるから一度に収納できる量はわからなかったし、コンテナ内の端っこから逆側の壁付近に黒い円盤を出現させることもできた。
この作業で確認できなかったのは収納できる限界量くらいだった。
次は移動魔法だ。
同様の手順を踏んで移動魔法の魔法陣をタブレットに表示する。
魔法陣を使用した魔法は今までの傾向から、その種類を問わず左手で魔法陣に接触して右手でその使用対象を指定する必要があると考えられるが、移動魔法を使用した際には動画の説明に沿って自分を指定したが、恐らく自分以外の指定も可能だと思われる。
収納魔法の中から自分や壁にぶつかっても害のないようにさっきまで寝床にしていたボロ布の中から比較的大きな一枚を取り出して床に置いた後、タブレットに表示されている魔法陣を左手で触れ、そのボロ布に右手で触れて移動魔法を起動。
ガラクの考えていた通り、右手で指定されたボロ布は地上からゆっくりと膝くらいの高さまで浮き上がるとそこで停止した。
最初にチュートリアルで移動魔法を使用した時は自分を空中に浮かせた状態で右手を動かしたことにより壁に激突したので、今回はボロ布がゆっくりと動くよう、慎重に右手をコンテナの壁に向けて動かしてみた。
が、先程自分を浮かせた時より速いスピードでコンテナの壁にぶつかってベシッと言う音を立てて、そのまま壁に張り付いている。
どういうことかと考えていると、コンテナ自体が微妙な横移動を開始したため、慌てて魔法を中断すると、ボロ布は床に落ちてコンテナの横移動も終了した。
これはあくまで現在までの現象を元にした想像だが、この移動魔法はチュートリアルで重力制御による移動魔法と説明されていたことを考えると、指定した移動方向に加わるベクトルのエネルギー量は一定で、重量によって移動速度が変わるため、自分を動かした時は怪我をするほどの移動速度で、それよりはるかに軽いボロ布の場合はそれよりも遥かに速い速度で壁にぶち当たったと思われ、当たらずとも遠からずと言ったところだろう。
となれば、ガラク本人が入っているコンテナを対象に移動魔法を発動、さっきはボロ布に押されて横方向に移動できたのだから、今度は上方向に移動させてみる。
コンテナの外部は見えないが、Gの感覚から少しずつ上方向に移動を開始した。
このまま地上までコンテナを移動させれば脱出も可能かと思った矢先、コンテナはゴンと言う鈍い音を立てて停止し、魔法でいくら上に動かそうとしても全く動かなくなってしまった。
移動魔法を解除し、コンテナの扉を開けて上方向を恐る恐る覗いてみると、かなり大型の箱型コンテナが真上にあり、移動魔法で動かせる最大重量はわからないが、明らかに重量オーバーであると分かった。
見える範囲で横移動ができないか見渡してみるものの、廃棄物が堆積した層が崩落している現状、どちらを向いても今乗っているコンテナが移動できるほどの隙間は無い。
コンテナのした方向にはガラクが収納されているコンテナ5・6台分の距離で何もない空間が続いており、この程度の距離でも何もなく上がって来れたのは幸運だったと言えるかもしれない。
一度、コンテナ内に戻って、ここから先はどうすべきか考えてみる。
現状、箱を中心とした範囲の内と外の時間経過に差異が生じる魔法がいつまで発動されたままなのかは不明だが、当面の間はもつと信じて行動するしかない。
自分が収納されているコンテナは上方向にある大型コンテナを中心に周囲も廃棄物で囲まれているため、これ以上の移動は開始できない。
そこでふと、真上の大型コンテナを収納魔法で収納したら退かすことが可能かもと思いつく。
どの程度時間が残されているかわからないため素早く行動に移すべきと考え、タブレットを持って扉を開く。
タブレットを置いておく場所がないため、扉にほど近い場所に座り込んで床にタブレットを置き、収納魔法の魔法陣を表示して真上のコンテナに対して収納魔法を実行。
すると、かなり巨大なコンテナが真上からなくなり、コンテナを上方向に移動させる隙間が生じた。
そのまま、コンテナの移動の邪魔になりそうな廃棄物を収納魔法で片付けると、再度、移動魔法を実行し今回は開いた扉から上方向の障害物を確認しながらコンテナを上方向への移動を開始する。
途中、それほど大きくない障害物でまたコンテナが止まりかけ、横方向に避けて事なきを得たが、どうやら時間に差異を生じさせる魔法が発動している状態では、その範囲内に収まらない物質はこちらからの干渉で動かすことができないようだ。
そこからはひたすらに根気の必要な作業だ。
コンテナの上方向にある障害物をできるだけ丁寧に収納魔法に格納、空いた隙間分コンテナを上方以降に浮上、障害物となる廃棄物のそばまで浮上したら再度魔法を入れ変えて進行方向の廃棄物を収納、という作業を気が通るほど繰り返して少しずつ上方向に移動していく。
しかし、タブレットから新しい魔法を増やさない方針は早々に破綻した。
まず直面した最初の問題は飢えと乾きだった。
時間経過に差異が生じる魔法の範囲の外側ではほとんど時間が経過していないものの、内側にいるガラクは体感ではかなりの時間が経過してていた。
最初のうちは携帯用の食料パックの内容で飢えと乾きを癒していたものの、すぐに消費し切ってしまう。
特に生きている限り水がなければ乾きで、栄養の補給をしなければ飢えで死んでしんでしまうため、コンテナ内での新たな魔法の確認は危険性を考慮して行いたくなかったとはいえ、まずはタブレットにより飲用可能な水を出す魔法を探してどうにか確保、また、食料はコンテナの移動経路上から排除するために収納した廃棄物の中から、殆どの場合は腐敗している元食料を食べて飢えをしのいだ。
もちろん、腐敗したものを食べれば食中毒を起こしたが、それは腹痛が起きるたびに回復魔法にある病気回復で無理矢理回復させて移動を続けた。
次の問題は光源の確保。
ヘッドライトのエネルギーはかなり初期に切れてしまったたが、進行方向や排除する廃棄物は目視で確認する必要があった。
この問題も結局はタブレットにより新たな魔法を探し、その結果として任意の場所に光源を設置するライトボールという攻撃魔法ではない光魔法を遠隔で発動、それによりコンテナの周囲の状況や進行方向の排除すべき廃棄物の確認に加え、コンテナ内にライトボールを設置することにより作業効率のアップや精神安定の一助となった。
途中までは収納魔法の限界がわからなかったため、生きるのに必要なもの以外はコンテナの下に廃棄していたが、いくら収納しても限界が見えなく、作業効率を上げるために途中からした方向への廃棄をやめてしまっていた。
コンテナを上方へ移動させる作業は、あまりにも単調でそれだけだと心が壊れてしまいそうだったため、最初のチュートリアルの魔法を皮切りに詠唱を一つずつ覚えたり、ガラクの思いつく範囲で有用と思われる魔法を検索して使用感を確かめる等の作業を行なった。
それにより、途中からタブレット無しでも移動作業を実施できるなど、作業効率がより良くなることにより上昇するペースが徐々に上がることにより、更に現状を良くするために魔法を探すという好循環が生まれたりもした。
それ以外にも、自分が得たデータの情報を整理しできること、地上に戻ったらやりたいことを増やしていき、無理矢理精神状態を前向きにする努力もした。
こうして脱出のための遅々とした移動を繰り返すこと、内部時間で二百数十日が経過した頃、周囲の廃棄物が比較的新しいものに変わっていることに気がつき、かなり地上に近づいていることに気がついたガラクは、だが淡々と作業をこなして移動をしていく
そこから13日ほど経過した頃、コンテナの上方向の廃棄物を収納で片付けた時、ついにその進行方向に障害物となる廃棄物がなくなり、ついに地上に辿り着いた。
自身の端末を操作して現在の時間を確認すると、崩落事故に巻き込まれてからおよそ3日弱の時間が過ぎており、目に入ってくる朝日を目に入れながら、死なずに済んだことを素直に喜んだ。
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