第44話 領主のお仕事
一年間、色々あったが何となくやり過ごした俺たちだが、まだ俺には異世界の領主としての仕事がある。
会社で買い付けた食料や調味料、衣料品、寝具、日用品をアイテムボックスに入れて定期的に異世界の領主官邸の倉庫に入れるのは、俺の仕事。その後、領民の手の器用な人たち、女性や高齢者、15歳以上の若者が多かったが、ガラス瓶などに移しラベルをはったりしている。
ガラス瓶も日本から持っていっている。シャンプーのポンプ付きの入れ物も少数であるが持っていった。マヨネーズやケチャップなど入れ替えにくいものは、ラベルを張り替えてみた。
日本語やアルファベットを読める領民も少数であるが、出てきている。
陶器の便器や色付きのタイルなど、日本製のものは、異世界でも人気である。とにかくきれいなのだ。高級食器、グラス、カトラリー、これらは貴族に人気で注文に追い付かない。プロパンガスやコンロ、湯沸し器、エアコン、発電機等は、領主官邸や限られた場所で使っている。無線機は王都の屋敷との連絡に重宝している。
いわゆる転移者と呼ばれる人は、今のところ見つかっていない。転生者らしい人はいるにはいたが、記憶がはっきりせず、チートな能力を発揮するほどではなかった。
タイヤ、ベアリング、サスペンション、溶接機など流通されられないモノは、領主関係者だけで使うことにした。まだ魔導自動車や飛行する魔導機械はないため、車などは持ち込めない。俺はチンタラ飛べるけどね。少数なら一緒に転移できる。
ど田舎の弱小貴族であるニコールさんの実家、チャイルドマン家は子爵家である。城塞都市と周囲の村々からなる面積は100平方キロ、もともと土地は肥えており食うには困らなかった。
日本からの品物を王家に貢いだところ、領地は増えなかったが、領民は徐々に増え、街道を整備して他領や王都との物流が盛んになっている。以前王都と領地まで1か月かかったものが、20日前後で到着できる。一部の物流には俺の転移能力もかなり使わされてはいるが……。
王都の屋敷と数分で行き来できるので、領主としては異様に楽である。
社交シーズンである冬から初夏に王都で過ごすと言う貴族が多いため、秋から移動の時期に入る。逆に夏は涼しい避暑地で過ごすのが贅沢であるが、質実剛健なチャイルドマン家では、領地で暑さに耐える習わしであった。金があるなら城壁を整備しようと言うことだ。それで領民からの支持も信頼もあつかった。だが次の夏からはエアコンにより領主官邸は涼しく過ごせるだろう。
秋の収穫期が終わり、チャイルドマン子爵家には、国王からの謁見が許されてと言うか、登城命令が下されている。スタンピードからの復興で忙しくしていたため、今まで待ってくれていたがこれ以上は無理らしい。
それで俺とコニールさん一家は、馬車(新型馬車)の隊列を組んで、お上りさんの途中である。
王家からの復興支援は、税金二年分の免除と、街道の各領地に命じた道路工事に費やされた1500億ゴル(≒円)であった。
子爵家としては助かったが、城壁の修理でかなりの額を費やしており、もしも日本の物資がなければ大変なことになっていたようだ。その前にスタンピードで、国が滅びる可能性すらあった。このあたりの評価により褒賞は増減するが、前領主による子爵位の俺への委譲は、養子縁組みを経てはいるが、新領主就任まで本来あるべき任命式をすっ飛ばした忖度ある行政処置だったようだ。
「寒いですね」
そう言ってニコールさんは、ぴったりと身体を寄せてくる。
「暖房が弱いですか」
キャンピングトレーラーを馬車のように偽装したものであり、めちゃくちゃ快適である。さらに言うと電源さえ十分にあればエアコンもついている。今回は寒い時期なのでFFヒーターを使っている。ソーラー充電とバッテリーを強化し、ブレーキは慣性ブレーキがついており安全。重さ2.5トン長さ7.5メートルはかなりのもので4頭だてになっている。コンロ、シャワー、トイレ、常設のベッドがついている。タイヤ、サスペンション、ベアリングは、まさにオーパーツと言える。走りはじめはゆっくりだがスピードに乗るとかなり早い。快適。
日本の道路事情では、大きすぎて使いにくい。もともとトレーラー乗りの人はいいかもしれないが。
「宿場町では宿を取りましょう」
「こんなに綺麗なベッドがあるのに宿に泊まる必要はありません」
「じゃあ、俺だけ宿に泊まります。グエッ」
ギブ、ギブ、ニコールさん、首を絞めないで息が苦しいです。
貴族の道行きと言うものは江戸時代における参勤交代のようなもので宿場町に金を落とす意味もあった。
パッと転移するのではなく、ゆっくりと景色を見ながら移動する旅もなかなかいいものだ。
御者や護衛の皆さんありがとう。お昼ごはんは、日本のケータリングのをアイテムボックスにいれてありますので、たんと食べてくださいね。
夕方、宿場町につくと俺とニコールさん一家は日本に転移してゆっくりと過ごした。色々危険があるかも知れない。跡目争いもあるかも知れないとのことだった。イレギュラーな跡継ぎだったから申し訳ない。
「これが20日程度続きます」
「お金かかりますね」
「必要経費ですね」
もと病院だった建物は綺麗にリフォームされ、大人数が暮らすのに問題なくなっている。
時差に対応するためシャッターで日光を遮断できるように作られ、まるで要塞のようだ。
「お兄さまが領主になられたほうがよかったのでは?」
「兄はスタンピードの際、王都まで逃げており、国王の評価が下がったのです。ゲイト様に領主委譲の件も国王の命なのです」
「しかし、お兄さまや貴族たちはよく思わないのではないでしょうか」
「権力争いは、表立ってできないのが事実です」
「鯖田さんやニコールさんを裏で亡き者にしようとする人もいるのですね」
……。
「王都に向かうこの時期が、一番危ないのではないでしょうか、しばらく日本にいらっしゃったらいかがですか」
「そう思って来て貰った」俺がいれば敵や、ピンチの匂いは分かる位、気配察知を上げてある。
「しかし、こちらにはケイコ様もいらっしゃいますし」ニコールさんは気にしているようだ。
「だいたい鯖田さんが優柔不断なのがいけない。双方のご両親には本当のことをお伝えしたほうがいい」加納さん、耳がいたいです。
「この建物には、教会が付属しておりますので結婚式を挙げましょう」大神官ティアリローゼ様が結婚式を執り行ってくれるとのこと。この頃は日本を満喫しているそうだ。
慶子ちゃんが本妻でいいと言うが、異世界では外部向けにはニコールさんが本妻としてほしいようで、日本の両親に理解を得ることになった。
「うちの鯨人がはっきりせず本当にすみません」
本当にすみません。
「いえいえ、聞けばニコールさんのご苦労も大変なものでしたね。うちの慶子も納得しています」
お義父さんお義母さん本当にすみません。
ニコールさんのことも二人目の娘と思って大切にするので、何かあったら日本に来てほしいと言われた。
「日本で何かある時はチャイルドマン家においでください。観光もご案内します(笑)」ぜひそうさせてください。
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