第43話 新春ゴルフ番組
秋にテレビ局から、新春ゴルフ番組のオファーがあった。年末までの暖かい時期にプレーを行い、生放送の体でプレーし、インタビューとトークだけリアルタイムでお茶の間に流すと言う。何か今まで騙されていた気持ちになったが、生放送だと悪天候などで無理が出来ないため、仕方ない。大雪などで明らかに録画とわかる場合は、そのようにテロップで流すらしい。「生放送で行うはずでしたが、収録済みのプレーを流します」なんてことになるのだろうか。
しかし、出演者のスケジュールが合う機会が貴重なため、進行によっては一部別日収録になるらしい。二重に騙されていた気持ちになった。
小春日和の某有名なゴルフ場で収録が行われた。
出演者の顔合わせは当日で、企画は前もって知らされていた。
ゴルフストラックアウトや、芸能人とのペアマッチ、ニアピン対決、ドライブコンテストなど盛り沢山だった。本当に終わるのだろうかと訝しく思っていたが、芸能人のプレーはセミプロ並みに凄かった。一体どれだけ練習しているのだろう。
ストラックアウトで大切なのは、高さの調整だ。ボールを置く位置を変えてフェイスを立たせると調整は可能だが、打ち込みすぎるとボールが上がりやすくなると言われている。
慶子ちゃんも俺も、全部のマスを開けることができた。二枚抜きも狙って成功した。ちょっとした賞品をもらった。
低いドローボールを打つ技術は、強い風の中のプレーに役立つ。
ペアマッチでは、慶子ちゃんはお笑いの大御所と言われるHと、俺は元プロ野球選手のMさんと組んだが、Hが慶子ちゃんの胸元や太ももの辺りをチラチラみてくるので、俺は無性にムカついたが我慢した。もとい少し威圧した。Hはきっとびびって漏らしているに違いない。奴は、俺たちの連絡先をしつこく聞いて来るので同情の余地はない。
男子プロと女性芸能人の二組のペアは、思うようにスコアを伸ばすことができず、接戦の末俺たちのペアが一位になった。プロ野球OBのMさんは実に紳士的な方で、俺のナイスバディを見てくることもなかった。しかしカメラは下から舐めるように、俺と慶子ちゃんのパンチラを執拗に狙ってきた。見えてもいいのを履いてるとはいえムカつく。
「アイコさんもプロ顔負けの上手さですね」
「そうですね、センスを感じますね。さすがケイコさんのお姉さんですね」
俺たちはスポーツ万能の美人姉妹として有名になっていた。
「ケイコさんは今年結婚を考えているとの噂があります。お相手はかなりの資産家なのではと言う話です」
4カラット位の婚約指輪?が週刊誌に写されていた。2000万円以上だろうと言われている。
「男性ファンはショックでしょうねえ」
「かわりにお姉さんに乗り替えたりして(笑)」
全然面白くねーよ。
……。
ニアピン対決は慶子ちゃんが一位だった。
530ヤード、パー5のロングホールでドラコンが行われた。フェアウェイはまっすぐグリーンに伸びており、微風、イヤな予感がする。
男子プロは270ヤード、290ヤードと距離を伸ばした。
慶子ちゃんは、フェアウェイど真ん中にホップする弾道を描いた。305ヤードを記録した。
いよいよ俺の番だ。慶子ちゃんがサムズアップして、「いけー」と口を動かしている。
「はあ?」と俺は渋い顔をした。
「どうなっても知らねーよ」ぶつぶついいながら、体勢を整える。今の俺ならボールを爆発させることなく打ち込める。
やや、逆回転がかかる位置にボールをセットする。
集中して、周りがかえってくっきりと見え、わずかに流れる風がヌルリとほほを撫でる。
自然に身体を捻るように振りかぶると、鞭のように肩から肘、手関節までしなやかにエネルギーを伝えて行く。インパクトからさらに加速し、ボールがまっすぐ、そしてわずかにホップしながら飛行していく。
ボールはあっという間に350ヤードをはるかに越え、フェアウェイに突き刺さると、まっすぐに転がっていく。
「イッケぇー」
慶子ちゃんが叫んでいる。
ボールは転がり、グリーンにワンオンした。
「なぁーッ」
アナウンサーが実況を忘れて絶叫した。
「ワンオンした?」
「距離は?」
ドローンカメラがボールを探すが見つからない。グリーン奥にオーバーランしたのだろう。それにしても無茶苦茶だ。
「え?」
グリーンフラッグを引き抜くとそこには、俺のBBとプリントしてあるボールがあった。
「-4打?コンドル?、あへ」
アナウンサー大丈夫か?
……。
ドラコン533ヤード、パー5、ホールインワン。コンドルが達成された瞬間だった。
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