第34話 帰る場所
俺とアモールは、日本に転移した。現実世界では数日しか経っていないが、体感では50日もダンジョンお遍路をテント泊でおこなっていたのだ。
「日本か…何もかもが懐かしい…パタッ」
……。
「あ、リチャード。慶子ちゃんはどこ」
「ゴルフの練習に行ってます。メディアの取材もあるって言ってました」
「そうか……」
「夕御飯には帰ってくるとおもいますよ。ところで鯖田さん何か印象が変わりましたね。何か吹っ切れたというか」
「え、分かる?」
「大人の男の落ち着きが出てきて、とてもいい感じです」
「そうなの?」
「……これから二人でお出掛けしませんか。加納さんもいないですし」
「うーん、遠慮しとくよ。装備の点検もあるし」
「残念」
俺は、異世界に持って行く物を少しずつ整理している。領地の運営は、優秀な代官に任せてあるとは言え、異世界で手に入りにくい物を持って行く役割を買って出ているのだ。
お約束の砂糖や調味料、便利グッズ、上質な小麦粉、乳製品、衣料品、印刷物など異世界の生産業に悪影響を与えない程度に持って行く。
異世界のモノは日本に持って来ないと決めていた。かといって買い物のためには地球の金が必要なので、知り合いになった会社会長さんなどにダンジョン深層から獲れるごくわずかのエクストラポーションを流している。難病や部位欠損、あらゆる病気に有効らしい。
税金などはどうなっているか分からないが、問題なく払っているとのことだ。
全く謎だ。タックスヘイブンなどで何とかしているのかも知れない。こちらは物さえ指定してくれれば、視覚と同調させた空間収納で吸い込めるので、日本に輸入したことにもならないのだろうか。なお、品物は同様にして異世界の倉庫に吐き出している。
作物の病害虫細菌ウイルスだけはじいて、収納しないことも出来るし、此方の世界で商社をやってもいいかも知れない。
俺の資金の一部は加納さんやリチャードに運用を任せてある。運用益は上がっているようで、PCに収支報告書が送って来ていた。
そういうチェックも必要なので、多忙なのです。
お遍路ダンジョンで仕事すれば時間は50倍使えるが、人より早く老化してしまうのも癪だ。
パーティーメンバーに経験値が流れない方法も確立し、パーティーメンバーとの念話やメール機能も生み出された。
経験値分与何%とか書き込む欄が出来たのだ。戦闘に参加しなくても経験値分与できるし、パワーレベリングにも便利だ。しかし、かえってレベルアップの秘密は守る必要性は上がる。地球で日常生活をおくりながら危険なくレベルアップができるのだ。有力者にとってみればこれ程欲しいモノはないだろう。この事を知ればパーティーメンバーに入れろと脅迫するものも出るだろう。
……。
「パーティーメンバーなら、経験値分与0%~人数割%まで設定することができるのだけど、リチャードはどうする」
「私は0%でいいです。これ以上人間離れしてもあれですし、それより慶子ちゃんをメンバーに復活させてあげてください」
「後で話してそうしようと思っていた」
「早いほうがいいですよ。メンバーにいれてもビクッとするとかないんですよね。念話機能が拡充しているから便利ですし、繋がっている感じがいいです」
「わかった。やってみる」
慶子ちゃんをメンバーに復活させて、経験値分与を0%に設定した。
すぐに念話がきた。
「鯖田さん、私メンバーに戻れたんですね。あ経験値分与0%になってる。いまどこですか」
「今、自宅に戻ったところ」
「私はゴルフ場のクラブハウスにいるんです。この後30分位、インタビューと写真撮影があって帰れるんです」
「わかった。転移で迎えに行けるよ。場所も分かるし、周りの様子も確認できるから」
「便利になりましたね」
「じゃあ30分後に近くに待機しているから」
「はーい、よろしくお願いします」
……。
俺は髪の毛が隠れる帽子を、作ってもらって日除けと口元まで隠れる布で顔を隠せるように工夫した。いわゆるアウトドアで日焼けしたくない時に被るあれである。神殿の神官さんたちがチクチクと縫ってくれたものだ。柄は宗教色はなく、葉っぱや渋い花がらになっている。
30分後に俺はクラブハウスの男子トイレに転移した。認識阻害をマシマシに展開している。フロントに行くと慶子ちゃんがいたが何か揉めている様子だった。
「これから用事があるので帰らせてください」
「いいじゃない、都内までヘリで送るから」
聞けば都心にヘリポートを持っているらしい。ジェットヘリだと言う。金持ちだな。
「嫌です。迎えにくる人がいるんです」
「それは彼氏かい?僕のほうが慶子ちゃんを幸せにしてあげられるよ」
「慶子ちゃん迎えにきたよ」俺は認識阻害を緩めた。
「なんだ、顔も出せないようなキモい奴じゃないか。急に出てきてどこか隠れてたんじゃないのか」
失礼な。認識阻害をかけていただけだよ。
「慶子ちゃん帰ろうか。この人は送らなくていいよな」
「送らなくていいと思います」
新しく得た転移能力は、メンバー以外でも転移できるため、南極にでも置いてくることができるのだ。記憶も消去できるので恨まれることもないし。
「じゃあ、坊やここに座ろうか」
パラライズとマリオネットと不可視を付与したBB弾を空間から出して、奴にぶつけてやる。
「おー、彼はおねむのようだね。職員さん後よろしく」
俺たちは、認識阻害lv100をマックスにかけて、外に歩きだし、転移した。この状態では監視カメラ含め、認識、識別、記録できる方法は存在しない。
「鯖田さん、帰ってきたんですね」
「俺の帰る場所はここしかないからね」
「何かますますかっこよくなりましたね」
「慶子ちゃん」
「え?」
「ずっと俺のそばにいて欲しい」
「鯖田さん」
俺は慶子ちゃんにキスをした。慶子ちゃんはいい匂いがした。
家で隠れていたアモールが、姿を現して体をすり付けてくる。
「んぁ、猫ちゃん」
「ファードラゴンのアモールだよ」
「きゃあ、かわいい!一緒に暮らせるんですよね」
「うん、大丈夫」
「皆で暮らしましょう。家族が増えるかもですけど」
……。
「私たちもいるんだけどね」
リチャードと加納さんが涙を溢れさせながら、ハグしてくれた。
隠れていたアモールを見つけて、もふもふしていたらしい。このまま一緒に暮らしたいと言う。慶子ちゃんも泣き笑いしている。
一緒に暮らしましょうか。
仕方ないですね。
いいですか。
もちのロンですよ。
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