第32話 新たなる旅その2

 通路を抜けると、そこは屋外と言うか野外だった。誰が調べたのか天井はないらしい。

 道は、誰かが通るかのように、草が生えていない田舎道みたいなのが左右に一本ずつある。砂利道だったり、地面がみえていたり、どこからか草花のような匂いがわずかにする。

「大神官は50日留守にしていいんですか?」

「このダンジョンの中は、時間の流れがゆっくりであり、50分の1なんじゃ」

「何それ、聖珍と突起の部屋の劣化版みたい。神官さんは50日間とおっしゃってましたけど」

「断念して途中で帰ってきたと言うつもりじゃ、人に任せることが出来ねば上にたつ資格はないとわしは思うとる」

「おっしゃる通りです。反省しております」

「本当に分かっとるんか」

「所で、左右に同じような道が有りますがどちらに進めばいいのでしょう」

「心の目を凝らして見てみい」

「こうですか、えっ、何か、黒い薄い影が左の方に進んでいく」

「正解じゃ、他の世界で巡礼しておると言われておる」

「これ、逆に進めばどうなります」

「絶対にそんな事はせんことじゃ、やったら大変なことになるぞ」

「ひょっとしたら、死んだ人が生き返るとかですか、呪われるとか」俺はワクワクして言った。

「なんじゃお前の世界では、そんな事があるのか、単に意味がないからやめろと言うとるんじゃ」

 そうか逆打ちとか無いのか。ちなみにお遍路さんでは、逆打ちのほうが道が険しいので、逆打ち1回、順打ち3回と言われているらしい。費用は一回の四国巡礼で宿泊費含め50万ほどになると言う。

「ほれ、行くぞ」

 ティアちゃんは汚いマジックバッグ(聖遺物らしい)から、背負子を持ち出して、ちょこんと座ると俺に担ぐように言った。

「これって自分の足で歩かないと意味がないんじゃ無いですか」

「裏技として、こう言うやり方も伝わっとるんじゃ」

「じゃあ大神官様にもご利益があるんですか、ずるいなあ」

「つべこべ文句言わずに担ぐんじゃ、余り揺らすんじゃないぞ」

「ハイハイ」

「ハイは一回」

「はーい」

……。

 俺はどんどんと歩いて行った。四国巡礼は1400キロほどあり、1日30~40キロは歩くと言うが、俺は1日に48キロ歩いた。揺らさないように時速4.5キロ×10時間40分は歩いた。

 暗くなる前にグランピングテントを立てて(置いて)、お風呂を沸かした。余裕を持って大量に水や薪を持って来ており、マジックバッグ様々である。ちなみにティアちゃんは何もしなかったが、はなっから期待などしていなかった。

「何か失礼な事を考えておるじゃろう」

「イイエ、決して」

 勘は異様に鋭い。

 慶子ちゃんが作ってくれた料理を出す。

「お主ら、こんな旨いものをいつも食っとるんじゃな。神殿を日本とやらに持って行くのもありかのう」

「それは無しでお願いします」

 そして、慶子ちゃんの料理が特別に美味しいのであって、普通はこれ程ではないと教えた。

「どうしてその女と結婚せぬのじゃ、顔も身体もいいのじゃろ」

「年の差もありますし、もっといい相手がいるのではと」

「そのいい相手とやらは、お主みたいに変なやつか」

「そんな人は少ないと思いますが……」

「というかお主みたいなやつは、どこの世界を探しても見つからんのじゃ。唯一無二分かるじゃろ」

……。

 2日目は時速4キロで10時間歩いた。巡礼ポイントで御朱印を貰うと言うことだったが、列に並ぶ黒い人影が思ったより少なくて、すぐに押して貰えた。賽銭をするとフリーハンドで何か書いて貰えた。ちなみに書いてくれる人も黒い人影だった。

 山沿いのアップダウンの激しい道を背負子を担いで歩いてゆく。黒い人影が頭を下げてくれたり、道を譲ってくれたりした。おにぎりみたいな黒い三角のをくれる人(人影)がいたが、遠慮しておいた。食べたらもとの世界に戻れなくなるかどうかは知らんが、ティアちゃんは何も言わなかった。良く見ると、頭に三角のあれをつけている人影もいた。生前お遍路に行きたかったのかなあ。

 途中の食事には、パンや果物などの缶詰めを出した。ティアちゃんは美味しそうに食べていた。

 夜かなり冷えて来て、テント用の特別なストーブに火を入れた。放射冷却だろうか。ティアちゃんは、くっついて来てクークー眠っていた。俺はなかなか眠れなかった。

 3日目、朝から霧が出ていた。

「どうします、霧が晴れるまで待ちますか」

「いや出発しよう」

 霧がでていると、黒い人影に近付いてやっと気づく時があり少しドキドキした。会釈しながら歩いてゆく。寒かったのでレインコートを背負子に固定してある。

「サバダよ」

「何ですか、ウンコですか」

「レディにそのような下品なことをいうでないぞ」 

「すみません」

「あの者たちを見て何か思わんか」

「そうですね、何か、大切なものを探しているような、見つからなくても探しているような」

「可哀想と思うか」

「彼らが自分たちをどう思っているかにかかっているのでは」

「いみじくも最初お主は、死んだものが生き返るのかと問うたな、会いたい者を探して悲しいかも知れん、探せること自体が幸せなのかもしれん」

「そうですね」

「お主とケイコという女は、出会えてまた会えるのであろう、その後の幸せなんてわからんと思わんか」

「そうですね」

「お主は、飄々としている体であるが、その実魂は力が入りすぎているのではないか」

「そうですね」

「もっと自由に愛して見たら良かろう。やり過ぎたら引かれるから控えめにな」

 俺たちは進んでいく、歩いているのは俺、運ばれているのはティアちゃんである。

 ふと道端を見ると、もふもふした何かがいた。

「これは」

「ファードラゴンの幼体じゃろ」

 俺たちはもふもふした白い40センチ位の何かを発見した。 

「触っても大丈夫でしょうか」

「大丈夫じゃろ」

 もふもふしてめちゃくちゃ触り心地が良かった。毛が異様に柔らかくて暖かく感じる。水滴もはじきそうと言えば分かって貰えるだろうか。

 ……そう、その感じです。

「何かめっちゃ見てきます」

「お主のことが珍しいんじゃろ」

「親はどうしたんでしょうか」

「さあ、近くにいるはずじゃが、何も感じんな」

「君はお母さんにはぐれたのかい、ん、そうか、連れていってほしいのか」

 キュピキュピ鳴いているが何か分かる気がする。言語理解のせいだろうか。

「お主とうとうおかしくなりよったか」 

「キュピピピピ……」

「よし分かった。連れていくのじゃ」

「危険はないですよね」

「大丈夫じゃろ」

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