第29話 ヒロイズム

 いよいよ暗くなってきた、どういう理屈かわからないが、暗視スキルは暗闇でも見えるくせに、どの程度の暗さかわかるし、かがり火を直視しても眩しくて、しばらく見えないということは全くないのである。

 夜になり、ゴーストやスケルトン、グールなどの物理攻撃の効きにくい敵が増えてきた。レイスやワイトは、状態異常、デバフ、闇属性魔法を多用してくる。近くの兵士が錯乱して今空中に走り出して、壁の外にぐしゃっと落ちていった。

 俺は弾に、速度、貫通、小爆発、聖光属性、追尾を付与したものをメンバーに配った。残弾数は十分あった。残り800×22=17600余りだろう。土曜日の午前中には慶子ちゃんが、買って来てくれるので安心だ。

 時計を見ると、土曜日の午前10時だった。

 俺たちは撃ちまくり、夜空に聖なる青い光、光属性の白い光が飛び交う。魔法戦争があったらこんなだろうな。命がかかっていなければきれいな花火みたいだ。

 さらに射撃スキルをlv20へ、BB弾特性付与をlv20に上げた。魔弾の射手と、大爆発の特性を得た。

 即時に脳内に情報が入って来て、BB弾が俺の周りに集まり、白く光る光跡を引いて、曳光弾よりは明るく光る光の筋が渦を巻くように上空に向かい、青い清浄な聖なる光のイフェクトとともに半球状に戦場に降り注いだ。神話の世界の叙事詩が夜空に描かれ、人々は知らず知らず涙を流しながら戦い続けた。

 MP50を消費して、聖なる星月夜(ホーリーナイト)とでも言えそうな大技が炸裂したようだ。およそ15000発の光の洪水を見ながら、味方は回復し、怪我や欠損は回復し、瀕死の者も息を吹き返した。老兵は若々しさを若干取り戻し、少年兵は体格が大きくなった。

 後で調べると老兵たちは20年分ほど若返り、その分長生きしたという。

 死霊系の魔物は蒸発し、悪臭は消え去った。かなりの大型の魔物も無力化された。

 その後、俺たち三人は、日本に転移した。

「ああー、鯖田さんが帰ってきた。ああーん」

 慶子ちゃんが泣きながら、抱きついてくる。

「加納さんもリチャードも頑張ったんだよ」

「うわーん、ざばだざんをだずげでぐれてありがどぉー」

 二人にも抱きついていく。

「ところで、BB弾を買ってくれた?」

「はあーい」

 お米の袋くらいの重さだ。800×30袋=24000個あるらしい。

「またいぐんですね」

「すまない」

「今日はまっでますから」

 ゴルフは休んだらしい。

「これ、もらったお金で買いました」

 電動ハイサイクルガンだ。1秒25発を撃ちだす。バッテリーも充電済みだ。こいつが4台あると、100秒で10000発ばらまける。AK47 、P90、AK74 、M4俺は両手撃ちだ。

「テスト済みです」

「ありがとう」

「最後の戦いです。いきましょう」

 加納さんは男らしいな。

………。

 転移すると、ニコールさんが駆け寄ってくる。

「使徒様ー」

「いいえ、違います」

「いいえ、サバダさまは神の使いです」

「「「使徒様ー」」」

 兵たちが声を上げる。怪我も完治している。誰も怖れているものはいない。

「「「勝つぞ!」」」

 俺は、銀玉鉄砲を二挺持つと、両手撃ちで、速度、貫通、貫通、大爆発、追尾の最強弾を放つ。

「バイバイーン、バイバイーン」

何だか勇ましく感じる。何か、パンパンマンの悪役みたいだ。

 大型の魔物も直径5メートルの爆縮の前では、敵ではない、地面ごと身体の半分を持って行かれている。

 高さ10メートルのゴーレム50体、20メートルのサイクロプス20体も、三人で屠っていく。空がしらみ始め、朝がくる。1日寝ていないが変なハイテンションでもなく、冷静に撃ちまくっている。

 まだ15000は残弾がある。

 追尾弾はムダ弾を大幅に減らした。最適化されたばらつきでムダなく魔物を屠っていく。

レベルアップ幅は、ついに120を越えた。

……。

 数キロ先に、高さ500メートルほどもある影が3つ瘴気に霞ながら近寄ってくる。

「ヘカトンケイルか?」

 リチャードが興奮したように言った。

 兵士たちから絶望の嘆息が漏れる。

「何てこった、邪神級だ、使徒さま逃げましょう。この国もおしまいです。海の向こうに逃げるしかねぇ」

「サバダさん、あいつは強力な魔法を複数使います。デバフも100%かかると思います、近づけ無いようにしましょう」

 理屈ではなく、本能でわかる。アイツはヤバい。勝てない。

「使徒さま逃げて下さい。私たちは地下壕の人たちと運命をともにします」

「いやだ、諦めたくない、何か方法があるはずだ」

 俺は、今までBB弾に助けられてきたことを思い出していた。本来、生き物を殺さないこの弾が何故、我々の力になったのか。

 現代の最新兵器ではなく、何故BB弾が?

 殺す力ではない。遊戯のための弾ではあるが、使いようによっては、使う人の悪意によっては危険になりうる。

 それなら、我々の意志の力が最後は大切になるのではないか。ここで諦めていいのか。

「俺たちは負けない。助けるんだ」

 俺はBB弾特性付与をlv100に上げた。

 その瞬間、脳に情報が流れ込んで来た。

 スロット8、射程無限大、極大爆発、神殺しの聖魔弾である。

 俺は、速度、貫通、貫通、貫通、追尾、射程∞、極大爆発、聖魔弾を付与し、ハイサイクル電動ガンを両手撃ちした。俺以外ではこの弾には耐えられないであろう。

 身体と心と精神、魂、自我を構成するすべてのエンティティが耐えられないほどの負担を受け、俺は連射しながら、立って目を開いたまま気を失い、それでも撃つことをやめなかった。

 BB弾が宙に浮き、補給しながら神がかった光が、鯖田の身体から漏れだし身体が崩れていく。

「「「使徒さまー」」」

「サバダさん」「鯖田さん」

光とともに鯖田が消え去るかに見えたその時、

「転移……」

 加納飛鳥とリチャードは、地球に転移した。

……。

 

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