第19話 慶子ちゃんのために
俺は何か叫んでいたらしい。武器を片付けて、よってきた慶子ちゃんは、俺の両腕を掴んで揺さぶった。
左肩の痛みで、俺が呻くと回復魔法を使ってくれた。もう痛みは消えている。
「鯖田さん!鯖田さん!しっかりしてください。私も怪我しなかったんですから、私からこんなに素敵な力を奪わないって約束してください。そして二つの世界で私をずっと守ってください」
そういうと慶子ちゃんの唇が俺の唇をふさいできた。
「ごめん、慶子ちゃんを危険な目に遭わせてしまった」
「それはさっきも聞きました。もう一度口をふさいで欲しいンですか」
慶子ちゃんはぼろぼろ涙をこぼしていた。雨はいつの間にか上がり、日の光が水溜まりを照らしていた。慶子ちゃんは、護衛の人にも回復魔法を使い、なんと死にかけていた一人も助かったらしい。
何か、貴族のような女性が何か俺たちに言っていたが、俺と慶子ちゃんは支えあいながら、来るなと言うように、手を振り払い草原に消えていった。
迷わずクルマに乗り込んだ。こういう気持ちでも、精神耐性は仕事をして必要なことはできるらしい。
逆に精神耐性があるのに、この気持ちは相当なショックがあったのだろう。人を殺したのは、日本でもこっちでもはじめてなのだから。
慶子ちゃんは、賊を殺してはいなかったらしい、それだけでも救いになった。慶子ちゃんを人殺しにしなくて良かった。
俺たちはクルマごと、自宅の駐車場に転移した。気持ちがぐちゃぐちゃでもスキルは仕事をする。
俺たちは支えあいながら、自宅の中に入った。装備を脱ぎ捨てながら廊下を進んで、よろよろと一階の両親の部屋のキングサイズのベッドに倒れ込むと、雨に濡れたまま二人抱き合って横になった。慶子ちゃんの髪の匂いがしていた。
俺は気を失ったように眠っていたがふと目を覚ますと、目を泣き腫らした慶子ちゃんが笑ってキスをしてくれた。
「ゲイトさん、大好きです。ずっと一緒にいたいです」
「ああ……」
「良いんですよ。元気になってから返事を聞かせてください」
俺はまた眠りに落ちていった。
夢の中で俺は、何回もキスをされていた。シャツを脱がされて、身体中撫でられたり柔らかなすべすべした二つの膨らみを押し付けられたりして、時折気持ちは苦しくなるが、徐々に癒されて行った。
スキルを育てること、おそらくそうすることでしか、この残酷な冒険の中で壊れずに生きていくことは不可能だろう。
一番優先すべきことは、慶子ちゃんを守っていくこと、ずっとそばにいて大切にしていくことだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます